第199話 魔力が足りるはずが…
金属球のひとつは、クマさんをも襲った。
クマさんは、いつもの特製バットを出した。
がっ!
特製バットとはいっても、特製バスケットボール用である。まともに打ち返そうとしては、かんたんにへし折られる。
クマさんは、金属球がミートした瞬間、バットをわずか引いた。それから、ぎゅるぎゅると食い込んでいる金属球を、バットに載せるようにして、力まかせに振り抜いた。
「うおおおおおおおおーーーーーーーーーーーっ!……クマ」
金属球が、高速で打ち出される。
クマさんは、そのまま、ひしゃげたバットを放りなげると、巨大タコに向かって、四足で、走りだした。
ウサギさんの俊足が、瞬間移動に匹敵するとすれば、クマさんの四足走行は、音速に達する。
ずっどーーーーーーーーーーーーーーん!
ソニックブームの衝撃をまき散らしながら、あっという間に、巨大タコに肉薄するなり、体当たりをした。
ごぉーーーーーーーーーーーん!
どっすーーーーーーーーーーん!
打ち返した金属球と、クマさんの体当たりが、ほぼ同時に炸裂した。
しかし、どちらも、巨大タコのボディをわずかに、へこませるだけだった。
「ちっ……クマ」
クマさんも、おもわず舌打ちをした。
油断だった。
すかさず、巨大な脚が、一本、二本と、振り下ろされた。
「「「「「「「「「あぶないっ!」」」」」」」」」」
みんなが叫んだ。
クマさんのいた場所に、電車サイズの脚が、時間差で、叩き込まれる。
ずっしゃーーーーーーーーーーーーん!
ぐわっしゃーーーーーーーーーーーん!
脚は、部屋の床に、深々とめり込んで、その破片を、煙のようにまきあげていた。
「「「「「「「「「クマさーーんっ!」」」」」」」」」
クマさんからの返事はない。
……………
……………
「ちょっと、ちびった……クマ」
クマさんは、カエルさんのリュックから出てきた。
とっさに、自分のリュックを使って転移したのだ。
「リュック作っといて、よかった……クマ」
彼は、このリュックの開発者のひとりだった。
エレベーターが、この部屋の床にまで降りると、タコの巨大さが、あらためて、実感された。
これが、暴れだしたなら、この部屋など、ひとたまりもないに違いない。
ダンジョンのボス部屋などとはちがって、あきらかに、この巨大メカタコが棲みつくには、狭すぎるのだ。それに、壁も頑丈そうには見えない。
ジュンには、メカタコと、部屋のサイズが、ちぐはぐにみえて仕方がなかった。
壁沿いに歩いて、巨大メカタコに近づいていると、愛娘を肩車していたベニートが、ジュンに話しかけてきた。
「オレは、閉じ込められている間、ときどきコイツを眺めていたんだが…」
そういって、親子で、タコを見上げている。
「あんたの魔力の波動で、かすかに、目覚めかけていた…」
ぼそりと、そんなことを言った。
「ほんとうかね!ベニートくん」
学院長が、色めき立った。
「…ええ、先生」
ベニートが丁寧に答えた。いちおう、師匠なのだ。
「ホントなの!パパぁ!」
アリアンナちゃんまで、うれしそうに聞き返した。
でかすぎることを除けば、ラブリーには違いない。
「もっちろん、ほんとでちゅよぉー」
いきなり、モードチェンジした。
……………
会話が続かなくなった。
……………
こ、こほん……
プーディング王が、咳払いをして、仕切り直した。
「それでは、彼が、魔力を注ぎ込めば、この怪物は、目覚めるということかね」
「それは、そうですが……」
ベニートは言葉をにごした。
「あれだけの大きさです。動き出すまでとなると……」
「いくらこの少年でも、魔力量が足りるはずが……」
…とそこまで、話したときに、みんなが、ジュンを見ているのに気がついた。
「「「「「「「「ジュンくーん!」」」」」」」
「「「「「「「「おねがーい!」」」」」」」
「…………」
カミーユも、無言で、目をきらきらさせている。
いくらなんでも、お城サイズなのだ。
無理に決まっているではないか。
ベニートは、苦笑しながら、お嫁さんたちに言った。
「……くっ、くっ、くっ、まさか、お前たち」
「…魔力量が足りるとでも、思っているのでちゅか」
……………
モードが混在した。
……………
ふたたび、会話が途切れた。
……………
そのときだった。
シャルが、タコを指差して、言った。
「あのタコちゃん、ちょっと目が開いてる気がするのじゃ」