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お嫁さん&魔物さんといっしょに、ムテキな異世界生活  作者: 法蓮奏
プーディン王国(カルシウム大陸)編
196/631

第196話 礼は言えない



 プーディング王は、巨大な扉を、しずかに見上げた。

 それから、視線を、一番下の鍵穴に、移したときだった。


 彼は、驚愕きょうがくのあまり、叫び声をあげた。


 「な、なんということだっ!」

 「こ、こんなことが……」


 「ど、どうしたのじゃ!」

 愕然がくぜんとして立ちすくんでいる作務衣さむえの王に、学院長が駆け寄った。

 なんだかんだ言っても、遺跡に興味しんしんなのだ。


 「扉と床の段差が、なくなっている……」


 よく見ると、完全になくなっているわけではない。わずかな段差は残っていた。だから、これまで、段差のせいで、鍵があけられなかったのも想像することができた。

 しかし、今は、少なくとも、鍵穴は、くっきり露出している。

 鍵をあけるのに、困ることはなかった。



 「い、いったい、何が起きたというのだ……」

 作務衣の王は、鍵穴のまえで、声を震わせた。

 大きな地震でも起きなければ、ありえないことである。

 


 そのとき、



 「そういえば、すこし前に……」

 やはり見学に来ていた、ルネちゃん皇帝が、ぽつりと言った。


 「この大陸全体が、浮き上がったような感じがして……」

 「とっても、怖かったのだ……」

 思い出したのだろう。涙目になって泣きそうな顔をしている。

 さっそく、お嫁さんたちが取り囲んで、よしよし、していた。



 愛孫のことばではあったが、これには、じいちゃん宰相も吹き出した。

 「ほっ、ほっ、ほっ……、ルネや、いくら何でも……」

 「大陸全体が、浮き上がるなど、ありえ……」

 …と、そこまで言いかけたとき、

 みんなの視線がジュンに集まっていることに気がついた。



 ジュンは、さりげなく、目をそらした。

 あわてて口笛を吹こうとしたが、音が出なかった。


 

 「……ありえるのか?」

 そういえば、最近、『エリクサー』の奇跡を体験したばかりである。



 「「「「「「「「ジュンくんっ!」」」」」」」」

 ふたたび、お嫁さんたちの叱責しっせきが始まった。


 「…………!!」

 カミーユは、無言でプレッシャーをかけている。



 心当たりの、ありすぎることである。

 ジュンは、観念して、白状した。

 いっしゅん、馬の『ヒヒーンッ!』のせいにしようかとも思ったが、火に油を注ぎそうな気がして、やめた。



 しかし、長い人生のうちには、正直に言わない方がいい時も、ある。


 ()()()()の女の子の『パン○ラ』見たさに、大陸全体を危険にさらしたとは…。とても、捨て置けぬことであった。

 お嫁さんたちの怒りに拍車はくしゃがかかった。

  



 この事件の当事者でもあるカトレアは、すこし離れたところで、アリアンナの世話をしていた。

 ジュンが、お嫁さんに囲まれて、正座をしているのは、わかった。

 それでも、話の内容が、聞き取れなかったのは、幸いだった。

 もちろん、お嫁さんたちは、いっさい、カトレアを傷つけるような言葉を、口にしてはいない。




 美少女お嫁さん集団による、異世界最強少年へのお小言が、ひと息ついたころ、学院長が、遠慮がちに言った。


 「そろそろ、ベニートくんを、助けに行きたいのじゃが…」

 「いいかのう……」



 そういえば、今回の一番の目的は、魔道士の捜索だった。




 

 

 一行は、ベニートが幽閉されているとおぼしき小部屋へと、のんびり歩いていた。のぞき窓が並ぶ、鍵の置かれていた部屋である。



 しばらく歩くと、見張りの兵士が、四人ほど見えた。

 とうぜん、向こうからも、見える。



 「誰だ!きさまらはっ!」

 「何の用だっ!」



 叫びながら、兵士は、彼らのなかに、見覚えのある顔を見つけた。

 しかし、その男は、見たこともない涼しそうな服装で、のんびり歩いている。

 

 この兵士は、プーディング王が、皇子に刺されるところを、目撃していた。

 そして、主治医が鍵を持ち去って、ゆくえをくらました時、腹立ちまぎれに、王をめった刺ししているのも、見ていた。


 どういうわけか、王は、なかなか死ななかった。

 しかし、瀕死なのは、間違いない。

 まさか、いま、目の前で、歩き回っているなど、想像もつかなかった。



 あやしい一団は、なにも言わず、あいかわらず、のんきそうに歩いてくる。



 兵士たちは、剣に手をかけた。


 ぷすっ、ぷすっ、ぷす、ぷすっ…

 ばたっ、ばたっ、ばたっ、ばたっ…


 見もふたもない、いつものパターンだった。



 どこからともなく、クマさんが、黒いゴミ袋片手に現れた。

 兵士をつまんで、ぽいぽい、放り込んでいく。


 ただし、もう、事情聴取の必要はない。


 いま、この『たまりません』は、この城の中庭につながっていた。

 いままで、捕まえた騎士や兵士も、ぐるぐる巻にして、中庭に転がしてあった。



 中庭とはいえ、いちおう敵地である。


 見張りとして、ユニフォームを着て、野球帽をかぶったクマさんが数名、待機していた。もちろん、特製バットを片手に、特製バスケットボールがたくさん入ったかごを横に置いていた。


 クマさんたちは、ライナーはあきらめていた。打てば、相手のお肉とか、血とか、その他いろいろが、飛び散るから。ちょっと、衛生的にいやだった。

 なので、ゴロを打つことに決めていた。

 クマさんたちは、敵兵が襲ってくるのを、軽く素振りをしながら、心待ちにしていた。



 「すこし、イレギュラーするかも……クマ」

 「お庭の手入れは、ちゃんとしてほしい……クマ」


 グランドコンディションに、いささか不満はあるようだった。






 「ありがとう…」

 ジュンは、ステルスを解いたハッチに、軽く礼を言った。


 「ドウ…イタシマシ…テ…」

 ハッチは、カタコトで答えた。

 これから、Aiが学習を積むことで、まもなく、すらすらしゃべるようになるだろう。



 それでも、



 「「「「「「「「「かわいいーっ!」」」」」」」

 お嫁さんたちが、いっせいに、きいろい声をあげた。


 「…………!」

 カミーユも、沈黙のうちに喜びを現しているようだ。


 

 「リュック…、オイル、…アリガトウ」

 ハッチは、いっしょうけんめい、お礼をいうと、ふたたび、ステルスモードに戻っていった。



 ジュンは、ハッチが消えたあたりを、しばらくじっと見ていた。

 ほんとうは、ジュンも、あの珠玉の録画の礼が言いたかった。

 しかし、うっかり、お嫁さんたちの前で言ったものなら、あのビデオに、どんな危険が迫るとも知れなかった。

 ジュンは、心のなかで、あのハッチに、手を合わせていたのであった。




 ジュンは、小部屋の扉に手をかけた。

 すこし、力を入れると、扉はあっさり開いた。鍵がかかっていたのかすら、よくわからなかった。



 「……なるほどな」

 「あんたが、あの波動のぬしか……」

 


 扉をあけるなり、そんな声が聞こえてきた。





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