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お嫁さん&魔物さんといっしょに、ムテキな異世界生活  作者: 法蓮奏
プーディン王国(カルシウム大陸)編
195/631

第195話 操り昆虫から、生き物へ

内容的に、すこし、申し訳ない気もするのですが、ここで、書かないと、書くタイミングがないと思ったので…。


 

 天井は、大聖堂のように、ひろい空間をへだてた上にあり、通路は、幹線道路のように広がっている。



 この超大な空間の中を、一匹の『ハッチ』が、ゆらゆらと飛んでいた。

 クマさんの開発した『ステルスドローン』である。

 新機能を装備した今は、『Mark2』の名を新たに加えられていた。

 やや使い古されたネーミングではあるが、『Deluxe』よりは、ずいぶんマシだろう。

 

  

 通路の行き止まりで、『ハッチ』は、とまった。

 空中で、ホバリングしていると言ったほうが適切だろうか。

 ここは、巨大な扉の前である。



 ホバリングしている『ハッチ』に背負われた、小さなリュックが、七色の光を放ち始めた。


 すると、


 リュックの中から、ひとりの黒目黒髪の少年が、出現した。


 すたん!


 『ハッチ』は、やや上空に、浮いていたため、飛び降りることになったのだ。

 


 「ここか……」


 少年は、ちいさくつぶやいた。

 もちろん、あたりに人影はない。 

 少年は、目の前に立ちはだかる大きな扉を見上げた。


 すこし、停止位置が高すぎたと判断したのだろうか。

 ハッチも、少年の頭の高さくらいまで、降下してきた。


 

 「お前は……」


 ジュンは、そうつぶやくと、自分のリュックをごそごそとあさり始めた。

 そして、一本のスプレーと、タオルを取り出した。


 「ちょっと、貸りるぞ……」


 ジュンは、ハッチのリュックを外した。

 それから、「シュッ」とスプレーをかけた。

 『セスキ炭酸ナトリウム』5グラムを、500ミリリットルの水で溶かした汚れ落としであった。

 非常に経済的で、かつ、よく落ちる。

 

 ジュンは、ごしごしとリュックの汚れを落とした。

 …といっても、汚れというほどのものではない。

 土を払い落としたあとに、わずかに、落ちきれなかった土が、かすかに染みこんでしまったような感じだった。


 もちろん、彼は、物体をきれいにする魔法も知っていた。

 しかし、いまは、自分が手ずからきれいにしてやりたかった。

 

 …………


 「…よし」


 すっかりきれいになったのを確認して、ふたたび、ハッチの背にもどした。

 さすが『セスキ炭酸ナトリウム』であった。


 ジュンは、スプレーとタオルをしまうと、今度は、小さな金色の小瓶こびんを取り出した。

 さいきん、よく登場する『エリクサー』ではない。

 メカドラゴンが、白い部屋で、お客様と一緒に、紅茶のふりをして飲んでいる、高級オイルである。


 ジュンは、何も言わずに、それを、ハッチのリュックにしまった。



 

 「…………」


 ハッチは、じっとリュックに収納された、「高級オイル」をみていた。


 しかし、なにも言わなかった。

 …というか、まだ、話すことができなかった。


 話す機能も、「高性能AI」とともに、搭載したのだが、なぜか、未だに話ができない。クマ開発陣にも、それは、謎であった。


 もしかすると、何か、きっかけが必要なのかもしれない。クマさんは、そう思った。




 「…いいよ、おいで」


 ジュンは、リュックに向かって声をかけた。

 もちろん、彼は、リュックに話しかけねばならないほど、孤独なわけではない。いまは、たくさんのお嫁さんにも、魔物さんにも囲まれているのだから。



 すると、


 ふたたび、リュックが光を放った。


 中から、ひとりの少女が飛び出してきた。幼女以上少女未満といったところだろうか。

 シャルロット姫だった。ひさしぶりの登場だ。


 ハッチは、さきほど、高度を下げていた。

 それでも、シャルには、高すぎる。


 「きゃっ!」


 シャルは、この急な落下に驚いた。


 「おっと……」


 もちろん、ジュンが、しっかりキャッチした。

 それから、いかにも、だいじそうに、ぎゅっと抱きしめた。

 そのせいか、シャルの、スカートが背中までめくれてしまった。


 淡いグリーンのかわいい下着(おしり)あらわになる。


 ハッチの、メカ眼球にも、その下着(おしり)が、はっきりと映った。




 そのときだった。




 ハッチのメモリに、とつぜん、『高級オイル』がフラッシュバックした。

 そして、『ジュンが、スプレー片手に、ごしごしする映像』が、現れた。

 さらには、『飛び降りるジュンの後ろ姿』が。

 時間をさかのぼるように、映像の数々が、走馬灯そうまとうのように、流れていった。


 そして、


 ちーん!


 ある映像で、そのフラッシュバックは止まった。



 ………… 



 とある少女が、鉄格子てつごうしに手を突っ込んでいた。

 その150センチほどの身体の中央部分をおおう繊維のかたまりがあった。

 それは、

 うつくしい曲線を描くあわいブールの物体。


 ハッチのメモリ内で、大好きなマスタージュンの、とってもうれしそうな顔が、おおきく映し出された。

 さらに、マスターが、なによりも愛してやまない『それ』が、メモリ内に、顕現けんげんした。


 「…ぱ、……、パ……、ぱん………、パン……」


 ハッチにとって、この世界は、いまだ『連続して』いた。

 しかし、いま、この連続する世界から、少女が着用していた淡いブルーの物体が、くり抜かれようとしていた。

 分節化ぶんせつかされ、言語化されようとしていたのである。


 そして、とうとう、淡いブルーの物体と、言語とが、符合ふごうした。


 「パンツぅーー!」


 ハッチは初めて発声した。

 ハッチの言語能力が、いま、産声うぶごえを上げたのである。

 

 「ぱんつ!ぱんつ!はんつ!ぱんつ!」

 

 ハッチは、なんどもなんども、その名を唱えた。

 *てきとうに書いてるだけなので、つっこむのは、ご遠慮ください。


 


 そのとき、エッグの巨大な艦橋でも、ウサギさんたちに動揺がひろがった。


 「ま、まさか……ウサ」

 「そ、そうなのか……ウサ」

 「とうとう、この日が来たのか……ウサ」



 もちろん、動揺はエッグにとどまらなかった。

 クマさんが、日々、研究に取り組んでいる開発部も、この突然の出来事に、震撼しんかんした。


 「な、なんということだ……クマ」

 「こ、こんなことが………クマ」

 「うううううう……神よ……クマ」

 涙ぐみ、神を讃えるクマさんもいた。

 「おおっ……、ハッチの言語機能が……」

 「とうとう、………覚醒かくせいした、……クマ」


 泣きながら抱き合うクマさんたちから、歓声があがった。


 がおおおおおおーーーーーーーーっ!

 ぐおおおおおおーーーーーーーーっ!

 がるうううううーーーーーーーーっ!


 すこしこわいが、クマなのでしかたがない。




 シャルには、まさか、この瞬間に、ハッチの新時代が切り開かれたとは、知るよしもなかった。

 

 ハッチは、いつまでも、うれしそうに、『ぱんつ』を連呼れんこしている。

 

 「ちょっと、恥ずかしいのじゃ」

 

 シャルは、そういって、もう一度、ジュンの胸に顔をうずめた。




 ウサギさんたちも、艦橋で、抱き合って喜んでいた。

 

 これからは、ハッチたちとも、『会話』をかわすことができるようになるのだ。

 少し前まで、あやつり昆虫?にすぎなかったハッチが、生き物へと進化したのだ。

  

 しかし、


 ハッチが、最初に覚えた具体的な『単語』については、永久に『禁忌(タブー)』とされた。

 この感動を語るのに、かの三文字は、あまりふさわしくないと、判断されたゆえのことであった。

 

 


 

 その後、ジュンは、ゲートを設置した。

 ゲートからは、次々と、お嫁さんたちが、転移してきた。

 

 もちろん、お城サイズの『怪物』がいると聞いて、見物しに来たのである。

 すこしくらい怖がらないと『怪物』がかわいそうな気さえする。


 大きな扉の前に、到着したお嫁さんたちは、ふと、ハッチの聞きなれない声に耳をそばだてた。


 「ハッチって、しゃべれたんだね」

 クレアが、笑って言った。

 「ほんと!そうだったんだ……」

 ほかのお嫁さんたちも、感心している。



 しかし、



 なぜ、この(ハッチ)は、かわいい声で、『ぱんつ』を連呼れんこしているのか。


 彼女たちは、この事件の真犯人を、0.4秒ほどで割り出した。

 そして、いっせいに、ジュンを取り囲んだ。


 「「「「「「ジュンくんっ!」」」」」」

 お嫁さんたちの叱責しっせきの声が重なった。


 「…………!」

 カミーユからは、無言の圧力を感じる。


 ジュンは、仁王立におうちする彼女たちの真ん中に正座して、首をかしげるしかなかった。

 


 ハッチの『ぱんつ』連呼がひと息ついたころ、お嫁さんたちの折檻せっかんも終わった。



 

 「そろそろ、いいかのう…」


 ふたたびゲートからは、学院長たちが、出てきた。

 お嫁さんたちの叱責しっせきが終わるのを待ってくれていたようだ。

 ジュンは、こころで、感謝した。



 「ああ、たしかに、ここだ……」

 プーディング王が、感慨深そうにつぶやいた。

 彼は、あやうく命を落とすところだった。

 その、きっかけとなったのは、まさしく、ここだったのだ。


 彼の目の前では、相変わらず、巨大な扉が、自分を拒絶するかのように、屹立きつりつしていた。

 彼は、それを、しずかに見上げた。


 それから、視線を、一番下の鍵穴に、移したときだった。


 彼は、驚愕きょうがくのあまり、叫び声をあげた。



 「な、なんということだっ!」

 「こ、こんなことが……」





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