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お嫁さん&魔物さんといっしょに、ムテキな異世界生活  作者: 法蓮奏
プーディン王国(カルシウム大陸)編
193/631

第193話 ベニート

また、投稿日時とか間違えると怖いので、すぐ、投稿しました(笑)。

ブックマークが、100ちょっとになりました。ありがとうございます。うれしいです。

読んでいただけてると思うと、とても励みになります。

また、これから、続きを考えます(笑)。

楽しいのですけど、うまく思いつかなかったり、ぜんぶボツにしたりすると、けっこう焦ります(笑)。



 「わたしは、むしろ、これでよかったのだ、と思ったよ」

 「これは、見つからなかったことにするべきだと…」

 作務衣さむえの王は、しずかに語った。



 それは、懸命な判断だろう。


 仮に、扉をあけられても、目覚めさせることができるかわからない。

 また、目覚めさせたとしても、制御できるかわからない。

 むしろ、こちらが滅ぼされてしまう可能性のほうが高いのだ。

 

 そればかりではない。

 

 いずれ他国に知られれば、『怪物』を奪おうと、攻めてくるに違いない。


 冷静に考えれば、むしろ、厄介者としか思えないはずだ。



 しかし、


 

 「なかなか、そうは思えんじゃろうよ…」

 学院長が、しみじみと、つぶやいた。

 『学者』としての本音ほんねだった。


 作務衣の王は、学院長をじっと見ていた。

 そして、苦笑しながら言った。


 「まったく、そのとおりでしたよ」


 「遺跡を埋め戻すように命じた時、それに同意したのは、ベニート君だけでした…」

 ベニートとは、現在、幽閉されている魔道士の名だ。


 発掘に加わっていた学者たちは、みな、とんでもないと憤慨ふんがいした。

 息子のディエゴまで、これはチャンスだと、力説し始めた。

 もちろん、あのテンパで癇癪かんしゃくもちの殿下のことだ。


 

 「息子が『この世界の支配者となれるのですよ』と言ったときには、耳を疑ったよ」

 これには、学者連中さえ、『いや、いくらなんでも、それは…』と鼻白はなじろんだものだ。

 自分では何もできない者ほど、つい夢を見てしまうものだ。悲しい夢だが。

 


 らちが明かなかった。



 「わたしは、護衛の騎士に、彼らの捕縛ほばくを命じた」

 ところが、その騎士まで、『陛下、お考え直しを…』などと言ってきた。



 「みな、何かに取りかれていたのだよ」

 もちろん、あの『怪物』のせいにするつもりはないがね…


 だから、


 わたしは、思った。

 『この鍵さえなくなれば、みなも目を覚ますに違いない』と

 遺跡を、消し去ることにはできない。

 しかし、鍵ならば、何とかなる。



 王は、鍵をつかみ取ると、さきほどの小さな部屋へと戻った。


 ひとびとは、その意図がつかめず、ただ、呆然ぼうぜんと立ちすくんでいた。

 しかし、そのうち、誰かが、気づいて叫んだ。

 「陛下をお止めしろ!鍵を捨てるつもりだ!」


 いっせいに追いかけてきた。


 「わたしは、走ったよ。まったく、一国の王が、臣下に追いかけられるとは…」

 作務衣のおっさんは、ふたたび苦笑した。


 それでも、王のほうが、ずっと早く部屋に到着した。

 彼は、いくつもならんでいる、覗き窓に、鍵を放り込もうとした。

 そこから、谷底のように深い隣の部屋に、鍵を落としてしまえば、拾うのは不可能だ。



 ほんのいっしゅんの差だった。



 王は、手に持った鍵を、床に落とした。

 そして、みずからも、床に崩れ落ちた。



 「息子に、刺されたのだよ。それも、後ろからね…」

 「あれは、脚だけは速いやつでね。忘れていたよ…」

 ふふふっと、寂しく笑いながらも、王は、ちらちら皆を見ている。

 これは、たしかに、『ブラックジョーク』のたぐいだろうと、誰もが思った。

 しかし、肉親に、刺されたシーンである。

 笑うに笑えなかった。



 こ、こほん!

 

 王は、気まずそうに、咳払せきばいをした。

 やはり、笑ってほしかったようだ。ハードルの高いジョークだった。 



 「で、殿下、なんということを……」

 さすがに、これには、憤慨ふんがいしていた『学者』たちも、ひるんだ。

 騎士や、兵士たちも、戸惑とまどっている。



 テンパ殿下ことディエゴは、叫んだ。

 「何をうろたえている!きさまらも、共犯者だぞ!」

 こういうときばかり、威勢いせいがよくなる人間というのはいるものだ。



 「…しかし」

 「…そうはいっても」


 みなは、そろって、うろたえている。

 王殺しの責任など共有させられては、たまったものではない。

 


 このとき、素早すばやく行動したものがいた。

 

 

 主治医のベニートだった。


 彼は、王に駆け寄り、応急処置をほどこした。

 しかし、傷は、深い。

 彼は、まよわず、自分の首に下げていた『魔石』を引きちぎった。

 そして、それを、気づかれないように、王のふところに忍ばせた。



 そして、彼は、人々が、動揺しているすきに、鍵を握って走り出した。

 ひとびとは、すぐに、気づいた。そして、叫んだ。


 「鍵を持って逃げたぞ!」


 



 ベニートは、学院長の弟子だ。

 彼は、いまでこそ、王の主治医を務めていたが、もともとは、武闘派の魔道士である。いや、むしろ、戦闘魔法の研究家だった。

 そのために、海を渡り、『帝国魔法学院』の狭き門をくぐったのだから。


 彼は、いわゆる大貴族の四男であった。

 しかし、戦闘魔法ならば、『投資』する値打ちは、十分にある。まして、『神童』とすら呼ばれていたのだ。父は、『帝国魔法学院』留学の資金を与えた。


 『帝国魔法学院』入学後、彼はたちまち頭角とうかくを現した。

 学院長も、すぐに、彼を弟子のひとりに加えた。

 彼は、パーティを組み、『魔物の森』に入って、戦闘に明け暮れた。戦えば戦うほど、戦闘魔法の研究も加速する。


 さらに、彼は、当時、同級生の間でもひときわ人気の高かった美しい女学生を、妻としてめとることもできた。かわいい女の子もさずかった。


 彼は、すっかり有頂天になっていた。まだ、若かったし、才能もあったのだ。無理はなかった。

 しかし、そのために、産後に体調をいちじるしく崩していた愛妻に、気づくのが遅れた。彼女も、彼の研究のさまたげにはなるまいと、彼の前では、平静をよそおっていたのである。


 あっけない最期さいごだった。


 『神童』とまで呼ばれ、『帝国魔法学院』の学院長の弟子にすら加えられた。

 それほどまでに、魔道に生きた自分が、愛妻ひとり救えなかった。


 彼は、絶望した。


 しかし、自暴自棄やけになることも許されなかった。生まれたばかりの娘がいたからである。娘だけは、命にかえても守り抜かねばならない。それ以外に、亡き妻にむくいる道はないのだから。

 

 彼は、その日から戦うことをやめた。

 パーティのメンバーも、愛妻を失った彼を責めることはできなかった。


 そして、何よりも娘を大切に育てながら、治癒魔法の研究を始めた。

 妻を救えなかったかわりに、多くの人を救いたい……などいう理想は、かけらもなかった。大切な娘が、万が一、病にでもかかったら……、そう思うと、おのずと治癒魔法の研究に、手がのびたのである。

 彼の天才は、治癒魔法においても、ぞんぶんに、発揮された。





 ベニートは走った。

 追いかけてくる兵士は、近衛も混じっている。

 しかし、彼は、恐怖も、不安も感じなかった。


 かつて、学院長に、弟子として認められるほどの、戦闘魔道士である。

 彼は、殺さない程度の魔法を、次々と撃ち放った。

 それは、近衛ですら、ただ、翻弄ほんろうされるしかなかった。


 そして、ベニートが、遺跡から出る直前に、打ち立てた土の壁は、兵士たちをを完全に足止めしたのであった。

 


 

 これで、時間を稼ぐことができる。




 彼は、まず、娘を守ることを考えた。

 だから、娘とともに、逃げることは、むしろ危険に思えた。幼い子供を連れての逃避行とうひこうは、なにより、娘にとってつらいものとなる。


 もともと、武闘派であり、戦闘の研究家である。

 娘には、万が一の場合に備えて、脱出経路と、隠れ家の使い方をたたき込んであった。

 もちろん、娘の顔など、城の連中には知られていない。しかし、だからといって、娘をひとり置いて、この地を離れることなどできるはずがない。


 彼には、治癒魔道士として、戻ってきた彼とその娘を、温かく迎えてくれた妹がいた。彼女は、母のいない娘の世話をよく焼いてくれていた。

 彼は、娘を、妹に預けようかとも考えた。

 しかし、すぐに居所いどころぎつけられてしまうに違いない。

 


 彼は、考えた。何が最良の方法であるかを。





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