第192話 鍵
かなり書いてから、結局ボツにするしかなくなって焦りました。
でも、なんとかここまでは、書けたので投稿します(笑)。
前話を、コピペして、別名で保存して、削除して、再度、投稿するのに、手間取ってしまいました。
まちがえると、まるごと消してしまうので、ひやひやです(笑)。ベテランの方は、投稿前の原稿とかも、バックアップをとってるのかもしれないと思いました。
エッグといえば、超巨大な卵を横においたような形の、ジュンたちの『船』である。
このエッグの改造も、日々、進んでいた。
魔物さんたちは、かつての日本人のように、ひじょうに勤勉であった。
建設部の『オーク』さんや、『ミノタウロス』さんという、『匠集団』も、その例外ではない。
たとえば、第三城壁には、豪華な宿泊施設が設置されている。
だから、大規模なものは、必要なかったが、エッグにも、それなりに豪華な宿泊施設は造られていた。
いま、エッグでは、新設された『会議室』にて、作戦会議が執り行われていた。
その扉の横には、立て看板が掛けられ、そこには、
『魔道士失踪事件緊急対策本部』
と、墨痕鮮やかに大書されていた。
「これが、プーディング城地下の、予想図になります」
「最下層の、遺跡部分は、ほんとうに予想でしかありません」
真夏が、中央の大きなモニターを、『指示棒』で指し示した。
あの、さきっちょをつまんで引っ張ると、かちかち伸びる棒である。
『よくあんなものを見つけてきたな…』
ジュンは、真夏のこだわりに、感心した。
モニターには、3DCGが映っていた。
内部がわかりやすいように、基本的にはワイヤーフレームだが、それだけでは見づらい。ところどころに、壁も描き込まれ、着色もされていた。
「おお、これは、すごいものだな…」
作務衣を着たおっさんが、感嘆の声をあげた。
その隣には、リオナが寄り添っている。
昨日の深夜から、ジュンの心の中で『グラビア女王』として、彼を魅了している美少女である。
ただ、彼女は、むしろスレンダーなお嬢様体型をしている。『ぼん、きゅっ、ぼん』をイメージしてしまうと、違和感があるかもしれない。
どちらにしても、本人には、まったく、あずかり知らないことであった。
彼女が、隣にいるということは、この作務衣おっさんこそ、プーディング王ドメニコであった。彼は、なぜか、ジュンのクローゼットの数ある衣服のなかから、この作務衣を選んで、たいそう気に入っていた。
それは、王という立場上、堅苦しい服装に耐えてきたせいかもしれない。
その証拠に、その近くに座っていた、ゼリー帝国宰相レオポルドも、さっそく真似をしようと、作務衣を所望していたからである。彼は、もちろん、皇帝ルナちゃんの、じいちゃんであった。
『エリクサー』効果なのか、めっぽう元気になったじいちゃんは、近頃では、ひそかに愛人探しに、血道を上げていると噂されていた。
プーディング王国といえば、隣国にも等しい。対岸の火事などと悠長にかまえてはいられない。知らせを受けて、さっそく、じいちゃんも、会議に参加していたのである。ただ、城を抜けて息抜きがしたかったのも事実であったが…。
「とうぜん、中からしか見たことはないが、おそらく、大きな違いはないだろう」
ぜひ、後で、これの写しをもらいたいと、作務衣王は、真夏に頼み込んだ。
「被害者の現在位置ですが、おそらく、この部屋に、幽閉されていると、予想されます」
指示棒で、画面をこんこんと叩きながら、真夏は、説明を続けた。
今回捕らえた、騎士や兵士や冒険者などから、聞き出した内容から、わりだしたのだ。
『被害者』と呼ばれているのは、もちろん、捜索中の『魔道士』のことである。
「はい……ケロ」
カエルさんが、手を上げた。
「被害者の現在状況は、どうなってる?…ケロ」
プーディング王の例もある。瀕死であれば、急を要する。
「それは、わたしが答えるわ」
リオナが、立ち上がった。
きょうは、チェックで、膝上のワンピースを着ていた。昨日は、やはり、ジュンの気を引くために、あんなミニの衣装を着ていたのだろう。
たしかに、すでに、秘蔵映像として、ジュンの宝物と化しているのだ。彼女の狙いに間違いはなかった。
「遺跡の発掘のためには、先生は、欠かせない」
「だから、殴られたりすることはあっても、重傷を負わされている心配はないわ」
「「「「「「「そうか……」」」」」」
ほっとした空気が会議室内に流れた。
ところで、
「その遺跡というのは、どんなものが、発掘されとるのかのう……」
学院長が、遠慮がちに尋ねた。
そもそも、今回は、学院長がジュンに相談を持ちかけたところから始まった。
故郷であるプーディング王国に戻った弟子から、きゅうに、便りが来なくなったのである。
帝国から、海を隔てたうえに、内陸の地である。
手紙などが、そう短期間で届くわけはないのだが、これまで、定期的に送られてきていた便りが、ぷつりと止まってしまったのであった。
学院長は、心配でならなかった。
そんなときに、ジュンが、所用で、いったん学院に戻ってきた。聞けば、いまは、ゼリー帝国にいるという。ゼリー帝国と、プーディング王国は、それなりに離れてはいるが、隣国のようなものだと聞いていた。
学院長は、渡りに船と、ジュンに、弟子のことを依頼したのであった。
したがって、弟子の捜索こそが、目的ではあったが、やはり、彼も『学者』である。『遺跡』と聞いては、黙ってはいられなかった。
「それは、わたしから言おう」
作務衣の王が、立ち上がった。
「地下の遺跡への通路が発見されて、まだ、一年にも満たない」
「たいしたものは、手に入っていないのだが…」
作務衣の王は、ちょっと苦笑した。
ただ、
「巨大な通路と、そして、やはり巨大な扉が、発見された」
その扉の前には、看板のようなものが落ちていた。
劣化がひどく、解読には難渋した。
そこで、件の魔道士が動員されたらしい。彼は、ドメニコ王の主治医のような役目についていたが、『帝国魔法学院』出身者である。たちまち白羽の矢が立ったのだ。
しかし、結局、彼にも、いくつかの文字しか判読はできなかった。
「ベニートくんが、解読に成功した古代文字は、これだけだ」
①『まもの』
②『せんとう』
③『まじん』(『ましん』かもしれない)
なんとも、わびしい結果であった。
しかし、目の前には、巨大な扉があり、さきほどの3つの文字がある。
誰もが、この扉の奥には、おそろしい『魔神』が眠っていると想像した。
そして、その直後に、大きな扉から、やや離れた場所に小さな部屋が発見されたのである。
その部屋には、細い覗き窓のようなものが、いくつも並んでいた。
そこから、中を覗いたものは、誰もが声を上げた。
おそろしい姿をした『怪物』がそこにはいたのである。
もっと驚いたのは、その大きさだった。
この覗き窓は、その先にある巨大な部屋の、かなり上に設けられており、その下は谷底のように深かった。
細い窓からではあったが、その『怪物』は、プーディング城ほどの大きさがあることが、誰にもわかった。
ただ、幸いなことに、もう、数え切れないほどの年月を、眠りについたままなのか、動く様子はまったく見られなかった。
「さらに、その部屋には、『鍵』が置かれていたのだよ」
それも、あまりにも無造作に、机の上においてあったそうだ。
ひとびとは、『鍵』を持って、あわてて、扉の前に戻った。
そして、ぜんいんで、鍵穴を探した。
ところが、それらしいものは、見つからなかった。
この扉の『鍵』ではなかったのだろう。だれもが落胆した。
「だが、私の息子が、それを見つけた」
でもね……
「鍵穴を見て、誰もが、すぐに絶望したよ」
おそらく、あの『怪物』がいる部屋が、重すぎたのだろう。
部屋自体が、わずかに沈んで、廊下との間に段差ができていた。
そして、鍵穴が、その段差の下に潜り込んでいたのである。あたかも、ガラス製の自動ドアのような鍵穴の位置であった。
何とか、『鍵』が差し込めそうにも見えたが、わずかに鍵が傾いてしまい、どうしても鍵穴には入らなかった。
とうぜん、床の強度は、すさまじく、どんな工具や魔法をもってしても、傷ひとつつけることはできなかった。