第191話 土がついているわ
みません。いま、第192話が、どうしても投稿できなくて、びびっていたのですが、この第191話を、明日の12時にしていました。
いま、コピペしたので、これから、間違った方を削除します。
申し訳ありません。
翌朝、プーディング王国の皇族専用の食堂で、ひとりの少女が、食後のお茶を飲んでいた。
すると、
ばったーーーーーーーん!
食堂の扉を、ちからまかせに、開ける者がいた。
テンパ殿下だった。もちろん、本名ではない。
怒り狂ったような形相をしているから、扉に八つ当たりでもしたのだろう。
気の毒な扉だった。
「リオナっ!」
テンパ殿下は、怒鳴りつけるように、少女の名を呼んだ。
もちろん、昨日、足首から背中の内側まで、ジュンに、詳細に撮影されていた美少女である。
彼女の珠玉の映像は、ジュンの宝ものとして、大切に保存され、リアル結婚生活に入るまでの、『糧』となる予定だった。
「きさまぁ…、きのう、冒険者ギルドに行ったそうだなぁ…」
『ネタはあがってるんだ』風に、ねちっこく言った。
本性というものは、ことばの端々に、つい、露見してしまうものである。
きょうは、昨日の騎士と、汗かきの事務官のほかに、もうひとり、男を連れていた。
「ずいぶん、おしゃべりな、ギルドマスターですのね」
リオナは、もうひとりの男を、じろりと見て言った。
たしかに、あの親切なおっさんギルマスだった。
リオナは、自分から白状することにした。
黙っていると、暴力をふるわれるからだ。まあ、きょうは、何もできないだろうが……
「先生の情報を、伝えるために……」
「あとで、城にくるようにメモ書きを渡しましたわ」
すかさず、
ギルマスが、テンパ殿下に、耳打ちした。
会議室の隠し窓から、覗いていたのである。
ギルマスは、あの三人組がしくじるとはおもっていなかった。魔力が強いと言っても、しょせん少年である。それも、おとなしそうな少年だ。
だから、隠し窓から、わざわざ覗く必要がないと、高をくくっていた。
ところが、その三人組が、なぜか窓から外に落下して、気を失っていた。それどころか、そのあと、いつの間にか、姿をくらましてしまった。
ギルマスは、焦った。
あの癇癪もちの殿下に、何をされるかわかったものではないからだ。
ちょうどそのとき、リオナ姫が、とても皇族とは思えないような格好で、こそこそと情報提供にやってきた。彼は、リオナ姫のことをチクることで、三人組を見失った失態を挽回できるに違いないと安堵した。
そして、いま、まさに、その機会がやってきたのであった。
ギルマスから、嘘でないことを、聞いたのだろう。
テンパ殿下は、「ふんっ」とせせら笑った。
「それで、その少年とやらは、城にやって来れたのか?」
小馬鹿にしたような言い方だった。
「……………」
少女は、何も言わなかった。だから、嘘は言っていない。
ひゃっ、ひゃっ、ひゃっ、ひゃっ…
テンパは、腹を抱えて笑いだした。
「そうであろうなぁ…」
「きさまのメモが読めるようなやつがいたら、すでに人間をやめているだろうよ」
彼は、以前、ついうっかり、リオナの落書きを見てしまい、失神しかけたことがあったのだ。
「……そうですわね」
少女は、小さな声で言った。
たしかに、鉄格子の扉を、鍵ごと引きちぎって開けるような少年だ。
人間をやめているには、ちがいないと彼女も思った。
ひとりしきり、笑うと満足したのだろう。
テンパ殿下は、とりまきの三人を連れて、食堂をあとにした。
すると、
廊下に出るなり、おっさんギルマスが、揉み手をしながら、テンパ殿下に尋ねた。
「陛下が姿を消されたことは、問いたださなくてもよろしいので…」
テンパ殿下は、軽蔑するような目で、中腰で揉み手をしているギルマスを見下ろした。
ギルマスは、中腰ポジションをとっていた自分をひそかに、ほめた。ギルマスのほうが背が高いのだ。
「鉄格子が引きちぎられた上に、死にぞこないの父上と、兵士四人が、姿を消したのだぞ」
ここで、
汗かきの事務官が、めずらしく、したり顔で言った。
「四人の兵士が、陛下をこっそり、運び出したと考えるべきでしょうな」
それならば、つじつまが合う。
汗かきは、自分が、ちょっと、めいたんていになった気がしていた。
『それなら、鍵を使えばいいはず。そもそも、兵士に、鉄格子は引きちぎれないだろうに…』
後ろを歩いていた騎士は、とうぜん、そう思った。
しかし、それを口に出せば、今度は、自分が、謎解きを迫られるだろう。
騎士は、余計なことは言わないことに決めていた。
リオナは、食堂の扉の陰から、彼らをじっとみていた。
そして、まちがいなく出ていったことを確認すると、あたりを見回した。
ちかくにも、ひとの気配はない。
ふと、母上が、生きていた頃には、ここも、もう少し賑やかだったなぁと、懐かしんだ。
しかし、いまは、回想にふけっている場合ではない。
「ハッチさん…」
彼女は、小さな声で、ステルスハッチを呼んだ。
みよーーーーん。
すぐ目の前に、あのハチが姿を現した。
「たしか、リュックに手を触れるんだったわね…」
そう、ひとりごちて、ハッチの背中のリュックに触れようとした。
「…あら?」
何かに、きづいたのだろう。ごそごそと、ハンカチを取り出した。
「このリュック、なんだか土がついているわ。地面にでも落としたのかしら」
そういって、リュックに付着していた土を、ハンカチで払い落とした。
彼女は、このとき、このハッチが、こめかみのあたりに、冷や汗とも見えるオイルを、いってき流していたことには、気が付かなかった。
なぜか、すこしびくびくしているような、ハッチを不思議に思いながらも、彼女は、リュックに手をふれた。
そのときだった。
「お嬢様、お茶のおかわりは、いかかでしょうか?」
若いメイドが、食堂に、紅茶のポットをタオルにくるんで、入ってきた。
食堂に、お嬢様の姿はなかった。
「お部屋に、戻られたのかしら…」
ふと、テーブルの上に残されたティーカップを見ると、まだかすかに、湯気が、たちのぼっていた。