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お嫁さん&魔物さんといっしょに、ムテキな異世界生活  作者: 法蓮奏
プーディン王国(カルシウム大陸)編
190/631

第190話 あらゆる超自然の存在に感謝した

もうひとつの、引っ張ったお話の続きです。


きりのいいところまで、一気に書いてみました。



 どくんっ…


 どくんっ…


 どくんっ…


 どくんっ…


 どくんっ…


 どくんっ…



 『()()』が、目覚めたのは、最近のことだった。

 なにか、強力な波動が、東から来て、何度となく、『()()』に衝突した。



 たしかに、非常に、強く、激しい波動であった。


 しかし、


 『()()』にとっては、


 幼馴染の同級生が、まだカーテンも開けていない男の子の部屋に乗り込んできて、『もう、○○ってば、ほんとに、ねぼすけなんだからぁ』と愚痴ぐちりながらも、懸命に、体を揺すって起こしてくれているような、そんな覚醒かくせいへのいざないであった。



 『()()』は、思った。


 いったい自分は、

 「ドレダケ、ナガイアイダ、ネムリニ、ツイテイタノダロウ…」


 

 どくんっ…


 どくんっ…


 どくんっ…


 どくんっ…


 どくんっ…


 どくんっ…

 

 

 『()()』は、まだ、動き出すことができなかった。

 だから、いまは、待たねばならない。



 やがて、必ず、おとずれる…



 『覚醒の瞬間(とき)』を…


 

 ただ、こうして、じっと待っているそのあいだにも、

 『()()』の意識には、たったひとつのことばが、こびりついて離れなかった。



 「マモノ…」と。



 『()()』は、やがて来る覚醒を心待ちにしながら、ふたたび、まどろみへと落ちていった。







 

 ジュンは、じっと、正面の大きなモニターに、映し出されている映像を見ていた。もちろん、そこには、神秘メモ美少女が映っている。

 魔物さんたちは、そんなジュンをじっと見守っていた。


 しばらくして、ジュンが、ようやく口を開いた。

 「あの子の、現在位置をナビしてくれる?」

 「ちょっと、行ってくるから」

 そういって、メガネをかけた。 



 そのときだった。



 「時代は、刻一刻と、進化し続けている……クマ」

 とつぜん、クマさんが、転移してきた。


 「ちょっとだけ、待って……クマ」


 クマさんは、ここで、頬を赤らめた。

 もちろん、厚い毛皮に包まれているので、ふつうのひとには、識別できない。


 クマさんとしては、『ちょっとだけ、待って()()』というところを、『ちょっとだけ、待って……()()』と、()()()つもりだったのだ。


 だれにも、気づかれないシャレをいてしまった自分が恥ずかしかった。日頃から、まじめなインテリには、よくあることである。ただ、まわりの人間が、それに気づいていないだけだ。


 根がまじめすぎるインテリの『孤独』が、ここにはある。



 クマさんは、カエルさんから、コンソールをり受けて、なにやら、カチカチと打ち込んでいた。

 

 「ふうっ………、クマ」


 終わったようだ。


 「これで、さらに、『ステルスハッチ_Mark2』が、パワーアップする……クマ」

 「ウサギさん、準備はいい……クマ…か?」

 疑問辞の文末における「位置」には、個体差があった。


 「オーケー…、いつもでもいいよ…ウサ」

 エッグの巨大な艦橋から、ウサギさんが、答えた。



 「それじゃぁ……、行()()っ!」



 …………



 …………



 やはり、誰もきづくことはなかった。


 

 ……くっ、…クマ



 やはり、言うべきではなかったと後悔したが、いまは、集中だ。


 クマさんが、デフォルトのちっちゃな目を、くわっと開いた。

 

 そして、


 右前足を、たかがかと振り上げた。黒い肉球がにぶく光る。


 「『ステルスハッチ_Mark2』、転移ネットワーク開放!…クマぁ!」



 ばっしーーーーん!


 

 クマさんの大きな前足が、やや加減して、タッチパネルに叩きつけられる。 



 そのとき、



 『ステルスハッチ_Mark2』は、全機、光の渦に包まれた。


 光の渦の中を、ハッチが、ゆっくりと回転する。

 すると、ハッチの背中に、七色に輝く光のかたまりが出現した。


 七色の光は、ぴかーーーっと、激しい光を発して、あたりを照した。


 たまたま、近くを歩いていひとは、あまりのまぶしさに、目を覆った。

 多くのハッチたちは、現在勤務中だったので、街なかを飛び回っていたのだ。

 とつぜん、大きな物体が現れたかと思ったら、激しく光りだしたのだ。

 思えば、はた迷惑なはなしだった。もちろん、光のせいで、ハチとは気づかなかった。


 しだいに、回転するハッチに合わせるように、光の渦と、七色の光がおさまっていく。


 すべての光が消失したとき、ハッチ全機は、背中にリュックを背負っていた。


 そう、あのリュックである。

 亜空間のお部屋と、転移ネットワーク端末の機能を兼ね備えた、ジュンたちがみんなで、しょって歩いている、あのリュックだった。




 「『ステルスハッチ_Mark2』全機、転移ネットワークリュック装備完了……ウサ」



 最初から、ハッチにリュックを背負わせておけば、それで済むことではないかとも思うが、それは無粋ぶすいというものだろう。



 「よし、じゃあ、次だよ……みんな、いい…クマ…か」

 少し迷ったが、こんどは、ふつうにしゃべった。



 「「「「「「「「「「「「ラジャー!」」」」」」」」」」」」」

 

 魔物さんたちが、みんなごそごそしだした。



 ……………



 しばらく、待っていると、



 「よいしょ……ケロ」

 「よっこらしょ……ケロ」

 「ちょっと、このベルトひっぱって……ケロ」

 「余った部分を縛っとくね……ケロ」



 魔物さんたちも、みんなリュックを背負っていた。

 ちいさなリュックなので、それほど、邪魔にはならないらしい。


 それにしても、ハッチと、魔物さんでは、リュック装備シーンに、ずいぶんな格差があった。

 これは、装備イベント担当のクマさんが、ハッチ用のエフェクトに凝りすぎて、魔物用を作る時間がなくなったせいであった。

 やはり、仕事というのは、全体を俯瞰ふかんしながら進めないと、このように尻窄しりつぼみな結果に終わることが多いものだ。



 「ぜんいん、リュック装備完了!……ウサ」

 完了の報告が、入った。


 「よし!……クマ」

 クマさんが、腕を組んで、瞑目めいもくしながらうなずいていた。



 「おおっ、これは、すごい!」

 ジュンは、感心した。

 これで、ハッチの居る場所なら、どこにでも転移できるのだ。

 魔物さんたちも、これから、いちだんと便利になるだろう。

 


 ……………



 いずれにしても、


 これで、すぐに、あの美少女のところに、転移可能になった。 

 ジュンは、自分のリュックに手を触れて、転移した。



 ……………



 それは、『故意』だったのか、『過失』だったのかは、わからない。

 あるいは、ジュンのひそかな悲しみを知って、クマさんか、ウサギさんが、さりげない贈り物をくれたのかもしれない。


 

 ジュンが、転移してみると、いつもと風景が違うことに気がついた。

 なにやら、床に、はいつくばっているような感じだ。視点がやたらと低いのだ。


 それが、すぐに、何によるものか、ジュンは、理解した。


 神秘地図少女の、かわいい足首が、わずか30センチほど前に、見えていたからであった。

 ハッチのリュックが、床に落ちてしまったらしい。

 床の高さから、出てきたために起きたハプニングのようだ。


 ジュンは、いま、床から、頭だけを出している状態だった。

 少しずつ目を上げていくと、神秘美少女の、足首からお尻、そしてワンピースのすきまから、背中までが一望された。

 無理な姿勢をとっているのか、大きく脚をひらいている。


 床のゲートから、すこしずつ、体を出すにつれて、少女の足首からはじまって、ふくらはぎ、そして、ふとももを、詳細に観察することができた。

 そして、とうとう、お尻の高さに到達した。

 

 『うおおおおおおおおーーーーーーーーーっ』

 ジュンは、こころで、歓喜の声をあげた。


 淡いブルーのコットン生地だった。

 少女は、前かがみになっている。

 目と鼻の先では、そのやわらかい生地が、わずかにシワになって、よれているのが、はっきりと見えていた。

 少女が、体を動かすたび、そのシワも、微妙にかたちをかえた。

 

 ジュンは、ありとあらゆる超自然の存在に、感謝した。

 あやうく、少女の下着に向かって礼拝らいはいしかけたところだった。



 

 そのときだった。




 「は、早く、おゆき……、ここにいては、いけな…い」

 「い、いやです。おとうさま……」

 「……みつか…たら、お前が、また、……ひどく、なぐら……ごほっごほっ」

 肺に血が溜まっているのだろうか。くぐもった重い咳だった。



 「……ふう」


 ジュンは、ため息をついた。

 こんなことをしている場合ではない。すこし反省した。

 ジュンは、メガネを外して、リュックにしまった。

 まあ、これで録画終了となり、自動で保存されるのだけれど…。不可抗力ふかこうりょくなのだ。しかたがない。



 ジュンの漏らした溜息ためいきせいだろうか。

 女の子は、驚きのあまり飛び退いた。


 そのときには、ジュンは、いつものとおり立ち上がっていた。

 ぎりぎりセーフだった。


 

 「ど、どうして、あんたが、こんなところに……」

 少女は、驚愕きょうがくのあまり、言葉につまった。

 

 「お前の地図が、どうしても、判読できなくてな…」

 ジュンは、そう言いながら、今の今まで、少女が必死で、腕を差し入れていた鉄格子てつごうしの扉に、手をかけた。


 「しかたがないから…、こうして……」

 ぐっと力を入れて、しずかに手前に、引っ張った。



 がきんっ!



 「直接、聞きにきたのさ…」

 ジュンは、やすやすと扉をあけた。

 鍵がついていたところだろうか。ぐにゃりとゆがんでいる。


 「う、うそ……鍵がかかってたのよ……」

 信じられない光景だった。

 そもそも、彼は、鍵など最初から、無視していた。



 ジュンは、扉をくぐった。


 

 「は、はは……、すまん…な。ひど…い、悪筆だった…ろう」

 「で、きれば、……なおし…て、やりた……、ごほっ、ごほっ」

 寝台に仰向あおけになっているおっさんが、ジュンに話しかけた。


 「無理にしゃべらなくていい…」

 ジュンは、静かに言った。

 そもそも、悪筆ってレベルじゃないし…


 体中に刺し傷があった。

 血はすでに、真っ黒に固まって、ざらざらして見える。

 生きているのが、不思議でならなかった。


 おそらくは、神秘地図美少女が、ここに通って、鉄格子に、無理に手をつっこみながら、治癒魔法をかけ続けていたのだろう。

 神秘地図&親孝行少女だったのだ。


 

 「お、おとうさまっ!」

 思い出したように、美少女が、駆け寄った。


 しかし、ジュンがそれを腕で、せいした。


 「…え、どうして?」

 困ったように、ジュンを見上げている。



 ジュンは、おっさんの胸のあたりに手をおいた。

 すでに、固まった血は、ざらりとして砂のようだ。

 

 「すこしだけ、待ってくれ」


 おっさんが、強烈な光に包まれた。

 全身、血まみれなのだ。

 傷がふさがっていくようすは、はっきりとは見えない。

 しかし、血がこびりついていない肌に、色彩がもどってくるのが見えた。

 

 「な、なにこれ……」

 少女は、激しい光に、目をおおうことも忘れて見入っていた。



 「な、なんとも、これは……」

 「すさまじい…ものだね……」

 光がおさまったころ、おっさんは、すでに、寝台から起き上がっていた。

 


 「お、お、お、おとうさま…、ほんとうに……?」

 少女が、震える手で、おっさんに触れた。


 「ああ、心配をかけたな。もう、大丈夫らしい」

 おっさんが、わらっている。



 おっさんは、泣きながらすがりつく娘をなだめながら、


 「ありがとう、たすかったよ」

 ふかぶかと、ジュンに、頭を下げた。



 このおっさんは、もちろん、捜索そうさく中の、魔道士ではない。

 れっきとした、この国の『王』だった。



 

 「まず、風呂に入って、着替えて、それから食事かな…」

 「案内します。来てください」

 そういって、ゲートを開いた。


 王様は、ゲートに、いっしゅん、驚いたように、目を見開いていたが、すぐに、


 「ああ、それはありがたい。よろしくたのみます」

 そういって、ゲートをくぐって行った。




 そのときだった。




 「だれかいるのか!」

 兵士が数名、牢獄の前に、駆け込んできた。


 「だ、誰だっ、きさまはっ!」

 「おい、侵入者だっ!」

 口々に叫んで、牢獄に飛び込んでくる。



 ぷすっ、ぷすっ、ぷすっ、ぷすっ……


 ばたっ、ばたっ、ばたっ、ばたっ……



 牢獄ろうごくのある地下室は、すぐに、静かになった。


 転移してきたクマさんが、黒いゴミ袋に、兵士たちを回収していた。カトレアも目撃した、新開発の転送ゴミ袋『たまりません』だ。

 クマさんは、ぜんいん、回収し終わると、軽く庭箒にわぼうきで周りを、はいていた。

 そして、すっかり床がきれいなると、満足したように、帰還していった。


 

 「身もふたもないな…」

 ジュンは、ちょっと兵士に同情しながら、ゲートをくぐった。





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