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お嫁さん&魔物さんといっしょに、ムテキな異世界生活  作者: 法蓮奏
プーディン王国(カルシウム大陸)編
186/631

第186話 ボレーキックした

こういうのも、お約束かなと思って、書いてみました。


 

 翌朝、ジュンは、予定通り、冒険者ギルドにやってきた。

 

 朝の混雑がおさまるのを、地下のオペレーションルームで、確認してから、転移してきたのである。地下からは、地上のギルド内も全て見渡すことができた。『隠し』というと聞こえは悪いが、カメラが設置されていたからである。



 「あら、いま、ちょうど朝の混雑が終わったところよ」

 メガネ美人のサブマスに、入り口のあたりで、声をかけられた。

 きょうは、彼女が、ジュンの手伝いをしてくれるらしかった。


 「なんだか、まるで、どこかで見ていたみたいね」

 ふふふっ……と笑いながら、ジュンを二階へと案内してくれた。



 先に、階段をのぼっていく、サブマスのかたちのよいヒップが、目の前で揺れている。

 

 ああ……、そういえば、

 ゼリー帝国のギルマスのお尻は、じつに、うつくしかった……。

 かれは、ともすれば、自分のこころを埋め尽くしてしまいそうな、郷愁きょうしゅうを振り払いながら、サブマスのあとに続いて階段を上った。




 「あなたは、会議室で、座って待っていてね」

 情報提供者は、すでに数名、隣の部屋で待機しているらしい。昨日のうちに、依頼を見たのかもしれない。


 サブマスと、会議室の入り口で別れると、ジュンは、所定の位置についた。

 机を前にして、座っていると、自分がまるで、面接官になったような感じがした。




 しばらく待っていると、サブマスがドアを開けた。

 

 情報提供者が、入ってくる。



 ……………



 ちびっ子だった。


 それも、人相のよくない男の子だ。

 ジュンが、天敵とするタイプに似ていた。

 こいつは、『くそがき』と呼ぼうと心に決めた。



 くそがきは、キッと、ジュンをにらみつけるなり言った。

 

 「オレが、お前の探している優秀な男性魔道士だ!」

 「さあ、預かり物と、金貨をよこせ!」


 

 ……………


 

 ジュンは、黙っていた。



 ……………



 くそがきは、しびれをきらしたように、ふたたび、えた。

 「さあ、どうした!さっさとよこせ!」



 ……………



 ジュンは、しずかに、こころで、魔法を唱えた。

 そもそも、彼は、無詠唱なのだ。



 ……………

 

 

 ……………



 そのころ、美人サブマスは、ドアのそばで、聞き耳をたてていた。

 実は、彼女が、この役目を引き受けたのは、興味本位からだった。

 

 彼女は、宮廷魔道士をしのぐ、黒目黒髪の少年に興味しんしんなのだ。

 なにしろ、彼女は、どうぶつでも、こんちゅうでも、めずらしいものが好きだったから。




 ガチャリ…




 いきなり、ドアが開いた。


 彼女が、驚いて、飛び退くと、ドアの隙間すきまから、ジュンが顔を出した。


 「あのう……」


 なにやら、困ったような顔をしている。

 美人サブマスは、あわてて、会議室に入ってみた。



 ……………

 


 ……………


 

 しばらくすると、



 ちびっ子(くそがき)は、ギルドの男性職員たちによって、会議室から、まるで彫刻でも運ぶように、搬出はんしゅつされた。


 別に、倒れていたわけではない。ちびっ子に、意識はたしかにあった。

 しかし、なにか、とんでもない恐怖に取り憑かれた表情で、フリーズしていたのである。



 「さっきまでは、あんなに元気だったのにね。どうしたのかしらね」

 メガネ美人は、しきりに首を傾げている。

 

 「きゅうに、あんなふうになってしまって……」

 たしかに、いっしゅんで魔法にかかったのだ。うそはいってなかった。

 




 頭のおかしいちびっ子に遭遇したせいだろうか。


 なんとなく、のどが渇いたので、リュックからお茶の道具を出した。

 もちろん、急須きゅうす湯呑ゆのみである。お茶をたてるわけではない。

 


 お茶を飲みながら、ほっと一息ついていると、メガネ美人のサブマスが、二番目の情報提供者を連れてきた。




 三人組だった。

 さっきのちびっ子が、そのままラージサイズになったような、悪人づらトリオだ。



 サブマスがいなくなるなり、ひとりが、さっそく、会議室の扉のドアノブに、イスを押し込んだ。

 外から、ドアを開けられないようにしたらしい。


 すると、

  

 一番体の大きな男が、ニヤニヤしながら、ジュンの目の前にやってきた。

 それから、ゆっくりと、剣を抜くと、ジュンの顔に突きつけた。


 「金貨一枚なんてケチなことは言わねえ。あるだけ出しな」

 「ああ、それから、預かり物とやらもな。売れるかもしれねえからな」


 「ちげえねえ。『帝国魔法学院』の預かりモンだ。きっと高く売れる」

 もうひとりの、小柄な男だった。ナイフを出して、ペロペロしている。


 「おっと、助けを呼ぼうなんて、甘いことを考えるじゃねえぞ」

 「そのまえ、お前の喉が、串刺しになるからよぉ…」

 剣を喉のあたりにまで下げて、いかにも、突き刺しそうな素振りをしている。

 

 「おめえをさっさと殺して、持ちモンだけもらって、窓から逃げりゃすむんだぜ…」

 小柄な男が、ガラガラと、窓を開けながら言った。


 

 ……なるほど、窓か。

 ジュンも、ちらりと、窓を見た。



 「さあ、おめえだって、死にたくねえだろう。さっさと出しな」

 さっきのちびっ子とちがって、吠えないだけましかと、ジュンは思った。


 ふう…


 ジュンは、おおきくため息をつくと、ずずっとお茶を飲んだ。

 冷めてはもったいないのだ。


 それから、


 その湯呑みを、喉元に突きつけられた剣の真上に、持ち上げた。


 男たちは、その動作に、つられたのか。

 湯呑みをのぞき込んでいる。茶柱が立っていた。


 ジュンは、


 ゆっくりと、


 湯呑みから、手を離した。


 …………


 湯呑みが、剣の上に落ちていく。


 …………


 ぱきんっ!


 小気味のよい音が、会議室に響いた。



 つづけて、


 「「「へっ?」」」


 間の抜けた声が、聞こえる。


 

 …………



 クマさん特製の湯呑みなのだ。

 こんな安物の剣くらい、いっしゅんで、ぽっきりだった。



 とうぜんのことながら、『効果範囲』は設定済みだ。

 昨日のような失敗はない。



 「反重力魔法」



 ジュンが唱えた瞬間、三人の男は、天井に『落下した』。



 ずっしーーーーーーーーん。



 けたたましい音が響いた。



 「ど、どうしたの!」


 がしゃ、がしゃ!


 「あ、開かないわ!」

 美人サブマスは、必死で、ドアを開けようとしている。



 ジュンは、ゆっくりとイスから立ち上がると、天井に張り付いている男たちの真下で立ち止まった。



 ミシミシミシミシ…



 天井がきしむ音が聞こえる。


 ジュンは窓の位置を確認した。



 「…解除」

 

 三人が同時に落下してきた。


 この程度の高さだと、空気抵抗とかよりも、万有引力の法則のほうが、優先するのか。ジュンは、勉強になったと感心した。


 ジュンは、右で、ボレーキックした。

 本気でふりきると、三人が、六つになる可能性がたかい。

 


 まず、ひとり目の重量が足にかかった。

 ジュンは、やさしく押し出した。中身が出てくると困るのだ。

 つぎに、ふたり目の重さがくわわった。

 そして、すぐに、三人目も。


 ジュンは、窓を、しっかりと見た。

 ゴールをしっかりと見るのが、ボールコントロールの基本だ。



 ……………



 ……………



 会議室のドアは、いくら押しても、びくともしない。

 さすがに、クール系のメガネ美人も、焦った。

 

 せっかく、おもしろそうな少年を見つけたのに、ここで死なせるのは、もったいない。


 彼女が、階下の人を大声で呼ぼうとしたとき、



 がちゃり、



 ドアが開いた。

 


 なかから、ジュンが困ったように、顔を出した。



 ……………



 美人ギルマスが、あわてふためいて、会議室に駆け込んでいく。

 

 その後ろ姿を見ながら、すそが、ひらひらのミニだったら、どんなにか見応えもあったろうにと、ジュンは悲しんだ。




 

 会議室には、ほかに誰もいなかった。

 

 ただ、窓が開け放たれ、カーテンが、ひらひらとはためいてる。

 

 メガネ美人は、吹き込んでくる、さわやかな風に誘われて、窓から顔をだしてみた。


 窓の下には、さきほどの、ガラの悪そうな三人組が、おもいおもいの姿で、転がっていた。

 


 ……………



 ……………


 

 この異世界では、なかなかお目に書かれないような美しい茶器からは、芳醇ほうじゅんな香りがただよっている。

 彼女も、ジュンに、いれてもらった日本茶の味を楽しんでいた。


 窓の下では、さっきの三人組が、男性職員たちの手で、ずるずると引きずられていた。



 

 ジュンは、三番目の情報提供者を、待っていた。


 すでに、のどうるおっている。次は、せんべいとか、いいかもしないとジュンは思った。


 そんなふうに、ジュンが思いをめぐらしていると、メガネ美人が、ドアをあけた。


 

 三番目は、若い女の子だっだ。

 かなりかわいい。しかも、ひらひらミニだった。


 

 バタン



 彼女は、サブマスが、出ていくのを確かめると、イスから立ち上がった。

 立ったり座ったりするたびに、淡いブルーのやわらかそうな下着が、ちらちらと見える。


 ジュンは、感謝した。

 最初、神に感謝しようかと思ったが、身近にいる女神やら、剣神を思い出して、やめた。

 しかたがないので、漠然と感謝することにした。感謝のきもちこそ大切だ。



 女の子は、机をぐるりとまわって、ジュンの隣のイスに座った。

 そうして、ジュンの耳元で、ささやいた。

 二の腕に押し付けられた胸は、かぎりなく柔らかい。


 「先生は、いま、らえられているの。お願い、助けて…」

 彼女は、あたりに、目を配りながら、続けていった。


 「ここも、きっと監視されてるわ」

 だから、あとで、

 「ここに来て…」

 そういって、彼の手に、小さなメモ書きを握らせた。


 

 三番目は、当たりのようだった。


 



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