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お嫁さん&魔物さんといっしょに、ムテキな異世界生活  作者: 法蓮奏
プーディン王国(カルシウム大陸)編
184/631

第184話 カトレア

ここまでは、なんとか書けました(笑)

ただ、この先は、すこし難渋しそうです(笑)



 「あら、カトレアは?」

 ギルドの受付嬢が、隣の机の上に置かれた『名札』を見て言った。


 このギルドでは、席をはずすときに、『名札』をおいていくルールがあった。

 席をはずすとは、もちろん、トイレに行く程度の時間ではない。すこし、出かけてくるとか、早退するとか、そんな感じだ。


 「夕方の混雑までには戻るとか、言ってたわよ」

 近くにいた、栗毛の受付嬢が、手元の書類を見ながら答えた。



 「ふーん……」

 「まさか、さっきの男の子?」

 名札を見てたずねた、赤毛の受付嬢が、意味ありげに言った。



 「「「「「「「えっ?」」」」」」」

 カウンターの受付嬢が、いっせいに、声を挙げた。


 「「「「「「「どういうこと?」」」」」」」

 まだ若く、美人ぞろいの受付嬢たちにとっては、優先度の高い話題だった。みな、手をとめて、話に加わった。


 

 「なーんか、おかしいと思ったのよ…」

 赤毛は、得意そうにいった。

 「あの子ったら、きゅうに、席を立ったと思ったら、わざわざ外に出て、あの男の子に話しかけるんだもの…」


 「「「「「「「うっそー!」」」」」」」

 もちろん、誰も、虚偽きょぎの報告とは思っていない。


 

 「そんなにかっこいい子なの?」

 ジュンを目撃していない金髪の受付嬢が、興味しんしんにたずねた。


 「「「「「「「うーん…」」」」」」」

 みなが、悩み始めた。

 もし、この場にジュンが居たら、泣きながら外に駆け出していたかもしれない。



 「でも、けっこう、かわいい子だったわよ」

 救いの手が、差し伸べられた。


 「「「「「「「たしかに…」」」」」」」

 そもそも、日本人は、地球上においてさえ、若く見られるのだ。

 平均寿命も、成人年齢もずっと低い異世界では、とうぜんのことであった。

 この時点で、ジュンは、救済されたと言ってよかった。



 「なに言ってるの。あの子、かわいいだけじゃないわ」

 メガネ美人だった。このギルドのサブマスである。


 「宮廷魔道士クラスの魔力だったわ。いえ、もしかしたらそれ以上かも…」

 もちろん、ジュンの魔力を見破っているわけではない。

 何重にも隠蔽いんぺいをかけた状態で、ジュンは『宮廷魔道士長』クラスなのだ。

 これ以上は、隠しようがないのである。



 「そうそう、それに『帝国魔法学院』の学生でしょ」

 栗毛だった。ジュンとの話を聞いていたのだろう。

 「依頼書にも、書いてあるはずよ」



 「じゃあじゃあ…、もしかして『玉の輿こし』?」

 もちろん、日本酒の銘柄めいがらではない。


 「そうとはかぎらないわね。だって、あの子、『黒目黒髪』だもの」

 美人サブマスの眼鏡が、キラリと光った。

 『黒目黒髪』は、異世界人の可能性が高い。シャーベット王国では常識だが、ほかの地域でも、うわさとしてはあった。

 異世界人である以上、『高位の貴族』ではない。



 「「「「「「「ふーん…」」」」」」」

 コレは、なかなか『微妙な物件』だと、彼女たちは思った。


 

 宮廷魔道士をしのぐ魔力をもつ異世界人であるとすれば、それなりに、豊かな生活は保証されたようなものだ。

 『国』が放っておかないし、『冒険者』としても十分にかせげるから。

 しかし、『高位の貴族』のように、最初から、ゴージャス一点張りではない。



 受付嬢たちは、通常勤務に復帰した。

 『微妙物件』であれば、カトレアにゆだねるのもやぶさかではない。

 もちろん、彼女たちには、ジュンが、『とてつもない物件』であることなど、知るよしもなかった。


 そして、彼女たちの話を、物陰から、じっと聞いていた人物がいたことも、最後まで気が付かなかった。

 



 


 『くちゅん…』


 そのころ、ジュンは、なかなか止まらない、くしゃみに首をかしげながら、街なかを歩いていた。  

 彼は、めずらしくメガネをかけている。

 もちろん、クマ開発陣特製の『メガネ』だ。


 少し前のことだ。


 『ジュンさま、じゅんさま……、聞こえますか…ケロ』

 地下のオペレーションルームから、通信が入ったのだ。

 彼らは、今、ライブカメラを使って、この街をぐるりと監視していた。


 そこで、彼らは、非常に興味深い『商品』を発見した。

 しかし、ここは、スフレ帝国の帝都ではない。

 うっかり買い物に出るわけにはいかなかった。


 そこで、


 ジュンに、『おつかい』を頼んだのである。

 せっかく、金貨を配布したのだ。魔物さんたちの買い物に協力するのは、やぶさかではない。ジュンも気安く引き受けた。


 メガネには、『AR(拡張現実)』の機能が付属していた。

 まあ、ゲームの『画面』みたいなものだと思えばいい。もちろん、HP表示があるわけではない。いまは、カーナビのような機能を果たしていた。


 ようするに、メガネをかけると、数メートルまえに、『矢印』が出現して、道案内をしてくれるのだ。

 ジュンは、目の前に光景に、上書きされた矢印を目当てにしながら、街なかを歩いていた。




 そのときだった。



 

 「あれは、カトレアさん…」

 さっきの、ギルドの受付嬢を発見した。


 日頃、まったく、人名に関心のないジュンでも、彼女の名札は、すぐに目にとまった。

 小さい頃から知り合いだった、ご近所の『カトレアおねえちゃん』と同じ名前だったからである。もちろん、名前だけで、まったくの別人だ。


 知り合いなどと書いたが、じつは、『だいだいだい好き、カトレアおねえちゃん』だった。『アイツ』こと『アイリス』が、ときおり、家を留守にするときに、彼の面倒をみに来てくれたのであった。

 きれいでやさしくて、それはもう、『完璧なおねえちゃん』だった。

 小さい頃から、彼をかわいがってくれたが、年をとることがなく、いつもおなじ、『とびっきりの美少女』だった。



 あのおねえちゃんと、同じ名である。目に止まらないはずはなかった。

 まったくの別人とはいっても、さいわいなことに、美人だったし…



 カトレアさんは、ギルドの制服から着替えたらしく、真っ赤なワンピースを来ていた。もちろんミニで、すそはひらひらである。

 ジュンは、いっしゅん、『まさか、オレの好みが、見抜かれている!』と戦慄せんりつした。が、いまは、目の前のカトレアミニさんに、集中せねばならない。



 そのときだった。



 一陣いちじんの風が巻き起こった。

 彼は、ゼリー帝国からの帰途きと、己の不幸を嘆きながらも、決して、希望を捨てなかった。その希望を捨てない心が、いま、報われようとしていた。

 

 その風は、彼女のひらひらの裾を、ふわりと浮上させ、輝く純白の下着を鮮やかに、披瀝ひれきさせたのである。しかも、フロントビューだった。


 「おおっ!」

 彼は、感動に身を震わせた。

 カエルさんたちのために、お使いにきてよかったと思った。

 他人の幸福をねがうものは、きっと、自分も幸せになれるものだ。



 そのときだった。


 

 目の前を、大きな馬車が、列車のように、何台も通過した。

 カトレアさんの『白パン○ィー』が、いっしゅで、さえぎられる。

 ひっひっひっーーーーーん

 走り抜ける馬が、彼をあざ笑っているかのようだ。



 くっ、



 「反重力魔法…」



 それは、1秒には、とうてい満たない。

 0.5秒、否、0.1秒だったかもしれない。



 おそらくは、この街の『すべて』が、わずかだが浮上した。

 もしかすると、この大陸の『すべて』かもしれない。



 はっ、



 ジュンは、われにかえった。

 しゅんかん、発動途中の魔法は、解除された。



 …………


 

 オ、オレは、なんということを……



 おそらく、『カトレア』という名前と、『パン○ィー』が、脳内で結びついたために、彼が、我を忘れたしまったのだろう。それほどまでに、ほんもののカトレアおねえちゃんは、すきすきだいすきおねえちゃんだったのである。…っていうか、ほかにやさしいひとは誰もいなかったのも事実であった。



 彼の主観としては、彼と、カトレアさんを引き裂く、あの憎き馬車を目の前から排除しようとしただけだった。

 しかし、そのために、馬車のついでに、このあたり一帯を、おそらくは、大気圏ぎりぎりまで吹き飛ばしかけたのであった。重力の軽減魔法とは、別の分類の魔法であった。

 そんなことをすれば、とうぜん、カトレアさんも『パン○ィー』も吹き飛んでしまう。我を忘れた愚行ぐこうとしか言いようがなかった。



 …はあ、はあ、はあ、はあ、



 彼が、呼吸を荒くしながらも、なんとか顔をあげたときには、すでに、馬車は、走り抜けていた。

 刹那せつなの異変だったせいか、街のひとびとも騒ぐことはなかった。

 異変は、潜在意識の外には、感知されなかったらしい。

 あるいは、すべてが浮き上がるなどという、ありえない事実は、無意識の内部に封印ふういんされたのかもしれなかった。

 まあ、魔力探知の高いルネちゃんは、きっと、泣いているかもしれないが…

 *しょせんファンタジーである。海面はどうなったのだとか、そういうつっこみはご容赦願いたい。



 しかし、カトレアさんの姿も消えていた。



 あとに残っていたのは、


 『ここです』という文字と、点滅する矢印が指し示す『串焼屋さんの屋台』にたたずむ、おばちゃんの姿だけだった。

 




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