第183話 金貨一枚の依頼
なんとか書けました(笑)。
今回は、できれば、すこし、いままでとは、趣向を変えてみたいと考えています。
何をするにも、初めてのことなので、かなり書き込んでから、すべて、ボツなったりします(笑)。
毎回、自転車操業なので(笑)、こんかいは、とくに、慎重に進めないと、つじつまが合わなくなったらどうしようかと不安です(笑)。
「きれいに書いてあるわね。まるで本の文字みたい!」
「そんなに長い時間じゃなかったのに、すごいわね」
美人の受付嬢が、たいそう感心していた。
それはそうだろう。
自宅のワープロで書いて、プリンターから出したのだから。
どういう仕組みなのかは、わからない。しかし、前にも書いたが、ジュンの家は、この異世界仕様になっている。プリンターから出てきた紙には、この世界の文字で書かれているらしい。もちろん、ジュンには、日本語にしか見えない。
フォントとかどうなっているのだろうかと、ジュンは首をかしげた。
冒険者ギルド地下の、オペレーションルームでは、カエルさんたちが、和気藹々と、業務?に勤しんでいた。
ジュンは、いちおう『管理職』である。
管理職が、いつまでも、ちかくで見張っていては、息苦しいかもしれない。
ジュンは、外に出てみることにした。
もちろん、もう、掃除箱の居場所を脅かす必要はなかった。
ギルドの裏手に、すでにゲートを設置しておいたからだ。
「ちょっと、外に出てくる。ギルドの裏手を確認してもらってもいい?」
ジュンは、カエルさんに声をかけた。
「了解……ケロ」
カエルさんが、手元のパネルを操作すると、目の前の大画面の中央に、大きめの分割画面が形成され、ギルドの裏手が、映し出された。
さらに、その分割画面のまわりの映像も、次々と、切り替えられていく。
ギルド裏手の周辺を、ぐるりと確認してくれているのだろう。
「大丈夫……、周囲にも人影はない……ケロ」
「ありがとう…」
ジュンは、外にでた。
どこにいくあてもない。
ジュンは、とりあえず、ギルドの正面に出てみた。
今朝、すでに、一度、足を踏み入れていたが、あらためて見ると、けっこう立派な建物だった。ゼリー帝国よりは、ひとまわり小さいだろうか。
ジュンが、ぼんやり、建物を眺めていると、
「ギルドに、何か、ご用かしら?」
「よければ、相談に乗るわよ」
とつぜん、声をかけられた。
きれいなお姉さんが、微笑んでいた。
ジュンの胸のあたりを見ているから、もしかすると、バッチをみてるのかもしれない。学院長の代わりに人探しをするので、学院の制服を着ているのだ。
今は、もう、こそこそする必要もないので、ローブは脱いでいた。
「ギルドの方ですか?」
ずいぶんと親切なギルドなのだなと感心しつつも、いちおう尋ねた。
「受付をしてるの、ほら…」
そういって、ギルド内のカウンターを指差した。
たしかに、目の前のお姉さんと同じ制服をきた美人がずらりと並んでいる。
間違いないようだ。
きれいなお姉さんは、いつでも大歓迎である。
ジュンは、嬉々(きき)として相談することにした。
「そうね…」
オレの話をじっと聞いていたお姉さんが、口を開いた。
「ギルドは、依頼を『出す』こともできるの」
「少なくとも、自分でさがすよりは、ずっと効率がいいとおもうわ」
セールストークとも思えたが、むしろ親身になってくれているようだった。
「まず、依頼内容を、紙にまとめてもらえると、わたしたちも扱いやすいのだけど…」
それはそうだろう。オレは、メモ書きを作ることにした。
どっちみち、転移するのだ。
お姉さんには、すこし待ってくれるようにお願いして、オレは、いったん、エッグ内の自宅にもどって、メモ書きを作ってきた。
「依頼料、金貨一枚。たしかに受け取ったわ」
依頼内容にしては、けっこうな高額らしい。でも、見向きもされないと困るので、金貨一枚にした。
そもそも、お金の価値とか、ジュンはまるきり理解していなかった。使う場面がほとんどないので、しかたがなかった。
『金貨一枚』といえば、例の魔物さんのお小遣いが、思い出される。
じつは、娘が元気になったアイロス伯爵は、『さすがに1080枚では、申し訳ない』と言って、『金貨2160枚』ほどくれたのだ。
ついうっかり、消費税分を足して、『1080枚』と言ってしまったのだが、あのイケメン伯爵は、何も尋ねずに『2160枚』を渡してくれた。まあ、いいかと思って、ジュンは受け取った。
すでに、魔物さんたちには、『金貨一枚』ずつ配られている。会うたびにお礼を言われていたが、千匹である。いつになったら『お礼大会』が終わるともしれなかった。ちなみ、いま、地下にいるカエルさん五匹は、いぜんに、お礼を言われている。
『2160枚』あるのだから、ひとり金貨二枚では、と思うだろう。
しかし、魔物さんたちは、『買い物がしたい』のであって、『ほしいものがある』わけではなかった。だから、実際には、金貨一枚でも使いみちがなかったのである。
金貨というのは、使い勝手のいいものではなかった。
たとえば、魔物さんが、大挙して、金貨片手に、屋台などに行ったものなら、たちまち、お釣りがなくなってしまう。
そのため、これを聞きつけた賢帝は、すぐに、両替をしてくれた。
そもそも、魔物さんが『買い物』ができるのは、スフレ帝国の帝都『パルミエ』だけだ。帝都の民は、『ハーレム使徒さま』をよく知っているし、『帝都巡回ケルベロス部隊』は、人々の信頼を得ていた。
ほかの魔物さんも、ジュンの配下とわかれば、すぐに受け入れられたのである。
賢帝が両替の手配をしてくれたにしても、金貨全てを両替するのは、あまりにも無駄であった。そもそも、硬貨は小さいのだ。両替して、いっそう数が増えた硬貨を、じゃらじゃらと持ち歩くのは、大きな魔物さんたちには、けっこうな手間になる。
そこで、千春は、『魔物さん銀行(通称『まもバンク』)』をダンジョン内に設立した。
魔物さんたちは、その都度、必要な硬貨を引き出せば良い。
もちろん、最初から、全員分の口座が、設けられている。
魔物さんたちは、いそいそと『ATM』に並んで、『預金』と『引き出し』を楽しんだ。もちろん、『まもバンク』は、窓口業務など行っていない。すべて、『ATM』と『CD』でまかなっていた。
千匹が、いっせいに買い物をしたとしても、金貨1000枚分には、程遠い。
賢帝も、最小限の両替の手配ですむことになったのであった。
仕事の早いお姉さんらしく、たちまち、ジュンの依頼は、掲示板に貼り出された。ジュンの持ち込んだワープロ打ちの文面が、そのまま切り貼りされていた。
そこには、こう書かれている。
わたしは、スフレ帝国の『帝国魔法学院』の学生です。
学院長から頼まれて、人を探しています。
その方は、
①学院長の『弟子』で、
②以前、学院長に『とある品物』を預けました。
③男性で、
④優れた魔道士です。
『預かり物』をお返ししたいと思っています。
ご存知の方は、お知らせください。よろしくおねがいいたします。
ジュンは、自分で書いた文面を読み返しながら、『こんなアバウト依頼で、見つかるんだろうか』と不安になった。しかし、もし、実際に、知っている人がいれば、すぐにわかるだろう。
かの『帝国魔法学院』学院長の弟子で、優れた男性魔道士など、スフレ帝国でさえ、そんなにたくさんいるとは思えないのだ。
さらに、この文面の下には、
⑤お礼として、金貨一枚を支払う。
ただし、情報提供だけの場合は、その方であると確認できた時点で、支払う。
⑥ギルド二階の会議室で待機しているので、そこに知らせに来てほしい。
といった内容が書かれていた。
手数料として、銀貨一枚支払っていたが、会議室は、無料で貸してくれた。
残念ながら、おっさんのギルマスだったが、親切な人で、『会議室を、待機場所として、貸してあげよう』と申し出てくれたのだ。
ジュンは、会議室を確認してから、外に出た。
すでに、朝の依頼を見て、冒険者たちは、仕事にでかけてしまっている。
ジュンの依頼が、冒険者たちの目に止まるのは、明日の朝くらいからのようだった。
『待機するのは、明日からにしたほうがいいわよ』
美人の受付嬢に教えてもらったので、さきほどの文面にも、その旨書き込んであった。
『きょうは、このあとどうしようか…』
ジュンは、また、手持ち無沙汰になってしまった。