表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お嫁さん&魔物さんといっしょに、ムテキな異世界生活  作者: 法蓮奏
ゼリー帝国(カルシウム大陸)編
181/631

第181話 三箇条



 ジュンは、ふたたび、ゼリー帝国を出て、ひろい平原を歩いていた。 

 


 車を走らせてもよかったが、天気もよく、風もおだやかで、散歩日和(びより)だった。ときおり、商人の馬車も、のんびりと彼を追い越していった。



 前回は、いわば『おとり』だった。


 だから、事前に、ジュンが、複数のエリクサーを持ち歩いていることも、ワンボックスカーを持っていることも、噂としてばらまかれていた。

 もちろん、そんなことをしなくても、『エーゲレス王国』は、密偵を送り込んで、ゼリー帝国の情報を集めていたはずだ。しかし、できることなら、『さっさと済ませて』しまいたい。

 『祝ダンジョン制覇せいは』で、やや浮ついた空気になっている帝都には、たくさんの密偵も送り込みやすいはず。そういう状況を踏まえての『囮』作戦だった。


 

 ゼリー帝国に、思い残すことが、ないわけではなかった。


 もちろん、ルネちゃん皇帝の寝所には、転移ゲートが置かれ、ジュンの家につながっている。だから、もし、ルネちゃんが、寂しくなれば、ゲートに足を踏み入れればよかった。

 ジュンのお嫁さんは、ひとり残らず、ルネちゃんをかわいがった。ちびっ子シャルでさえ、妹ができたと言って、ちまちまと世話を焼いていた。まあ、相手は、いちおう皇帝ではあったが……

 だから、いつでも会えるルネちゃんには、とうぜん未練などない。



 思い残すこととは、あの美人ギルマスであった。


 いくぶん、男らしすぎるところはあったが、とにかく、きれいなお姉さんだった。しかも、ジュンの周りには希少な『ぼん、きゅっ、ぼん』タイプだ。


 『まだ、見せてもらっていないのに……』


 ジュンは、後ろ髪をひかれる思いだった。

 しかし、前にも書いたが、彼は、正真正銘しょうしんしょうめい、『気の小さい少年』だった。

 まかりまちがっても、自分から『そろそろ、見せてもらってもいいですかね』などとは、言い出せなかった。


 さらに、彼は、ムード重視の『ロマン主義者』である。

 『見せて、見せて!』とおねだりして、見せてもらっても、果たして感動できるものなのか。そういうものとは、すこしおもむきが違っている気もした。

 『美人ギルマスの白いパ○ティ』には、非常に繊細(デリケート)な問題が横たわっていたのである。



 こうして、ジュンが、難問(あぽりあ)と取り組んでいる時だった。


 

 気配が、動いた。

 さっきから、ずっと、目障めざわりに思っていた気配だった。

 すでに、効果範囲は、設定している。


 昨日は、ミルフィーユに戻り『ミルフィーユ防衛作戦会議』に参加した。

 だから、今朝、わざわざここを歩く必然性はなかった。

 しかし、一昨日、『捕縛作戦』の現場から逃走した『エーゲレス王国』の貴族だか皇族だかに、『金縛り』をプレゼントしてある。あれは、魔法かどうかすらわからない。いずれにしても、目の前に『エリクサー』をもつ者がいるのだ。なんらかの接触を試みるのは、当然だろう。

 放置してもよかったが、そのせいで、また、ゼリー帝国の人々に迷惑をかけられては目も当てられない。

 

 それにしても、


 まさか、また『ちからずく』とは、どれほど、学習能力のない連中なのだろう。ジュンは、ややイラっと来ていた。



 「きさまが、ジュンだな。エリクサーを渡し……ぐはっ!」

 黒装束くろしょうぞくが、10人くらいだろうか。

 登場してすぐに、地面に埋まった。重力魔法だった。


 ジュンは、気にせずに、そのまま街道を歩いていった。



 すこし歩くと、道端みちばたに、見覚えがあるような無いような豪華な馬車が停めてあった。

 正面の街道の真ん中には、執事ぽい男が、土下座している。



 ジュンは、無視した。

 最初から話し合いに来たのなら別だが、襲いかかっておいて、失敗したらお話に切り替えるなど、調子がよすぎる。

 そもそも、ジュンが寛容かんようなのは、美人と美少女と美幼女だけだ。



 すると、



 「よい。わらわが、じかに話す」

 そんな声が、馬車のなかから聞こえてきた。女の声だった。若い声のような気がした。



 ジュンの足は、おのずと止まった。



 声の感じからして、ルネちゃんとか、シャルのような子どもではないだろう。

 エネミーが、たいそうな美人という設定もあってもよい。いや、むしろ大歓迎?


 女は、馬車の中からゆっくりと降りてきた。

 長いドレスの裾から、わずかに、白い脚がちらりと見える。



 だが、その前に、ジュンに向かって駆け出して来るものがいた。

 馬車の周りを囲んでいた騎士だった。すでに剣を抜いている。

 20騎くらいだろうか。隠れていたわけでもないのだ。

 すでに、『効果範囲』を、馬上の騎士に『限定』してあった。


 「陛下っ!このような小僧に、お言葉をかける必要など…うわぁ」

 二十人ほどが、空に浮き上がっていった。風船みたいだと、ジュンは感心した。もちろん、重力魔法だ。加重すると馬の脚を折ってしまう。だから、浮かせることにした。馬に罪はないのだ。


 『そのまま、浮かんで行って、お星さまにでもなるがいい』


 ふと、そんなジョークを思いついて、ひそかに笑った。声には出さない。

 だが、あまり使ったことのない魔法なので、このまま天に昇るのか、途中で止まるのか、正直、ジュンにもわからなかった。しばらく眺めて、検証してみたい気もした。


  

 「だから、わらわが、話すと言っておる…」

 すこし憤慨ふんがいしたような物言いで、うつむきかげんで、降りてきた。

 

 ジュンは、どきどきした。今まで、ハズレってあったろうかと自問した。


 女が、顔を上げた。

 

 …………


 おばさんだった。


 たしかに、美人ではあったが、ジュンの守備範囲はそんなに広くはない。

 ああ、そういえば、以前にもこんなことがあったなと、思い出した。ひとは、都合の悪い記憶に封印しがちなものだった。



 「言い値で良い。『エリクサー』を売ってくれぬか?」

 おばさんはそう言った。

 『陛下』とか呼ばれていたから、女王なのかもしれない。



 ジュンは、きわめて平静をよそおった。

 勝手に期待して、勝手に失望したのだ。顔には出せない。

 「オレに、言い値とやらを払う金があるなら…」

 「もっと、別のところに、払うのが先じゃないのか」


 

 おばさんは、すこし意外そうな顔をした。

 ジュンが、すぐに、話に食いつくと思ったのだ。

 ジュンも内心は、魔物さんのお小遣いをかせぎそこねたと思った。

 しかし、譲っていいことと、譲れないことがある。



 「私の息子が、奇妙な病にかかっておっての…、何とかしてやりたい」

 そういって、ジュンの顔をうかがっている。ジュンの魔法かもしれないと疑っているのだ。

 さぐりをいれた上に、情に訴えたといったところだった。



 「あんたの手下に、殺された家族は、何とかすることさえできないだろう」

 そう言ってから、はっと思い出した。

 『今が、チャンスだ』と心が踊った。


 「『殺さず、犯さず、貧しきものからは奪わず』、これこそ、盗人ぬすっとの三箇条だ。覚えておけ…」


 いちど、シリアスなシーンで言ってみたかった。

 ジュンは、「おに○いはんかちょう」の大ファンなのだ。

 しかし、ある意味、今後も盗賊を継続するのを推奨すいしょうしているような気もした。

 とは言っても、盗賊とお話できるチャンスなど、そう、あるものではない。今を逃すわけにはいかなかった。



 …………



 おばさんは、怪訝けげんな顔をしていた。



 それはそうだろう。

 ジュンに、『真の盗賊のおきて』を教えられても、反応しようもない。



 …………


 

 気まずい沈黙が続いた。



 …………


 

 「ア、アレは、放っておいても、数日で、元にもどる。そういう魔法だ」

 「『エリクサー』どころか、治癒の必要もない」

  

 「せ、せっかく、ここまで出向いてきたんだ。それだけは教えてやる」 

 ジュンは、そう言い残して、また、街道を歩いていった。

 教えてやる必要はなかったが、この場をごまかして、立ち去るためにはしかたがなかった。

 


 

 あとには、


 地面に落ちてきた騎士たちと、ようやく立ち上がることができた黒装束の男たちの、うめき声が聞こえていた。

 そのままにしておいても、気になるので、解除したのだ。

 もちろん、せいぜい骨折した程度で、命に別状はない。


 




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ