第180話 やめたほうがいいかのう
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「いよいよ、来やがったぜ兄弟」
「じゃあ、いっちょうやろうぜ兄弟」
「気をつけて行くんじゃぞ」
ワイバーンたちが、『塔』から飛び立った。
ここは、まもなく、①元海賊の民、②ミルフィーユ、③スフレ賢帝親子、④ランパーク国王親子、ついでに、⑤ゼリー帝国皇帝とじいちゃんたちの『総合リゾート』となる『クレープ湾』である。
まあ、実際には、漁場であり、釣り場なので『リゾート』と呼ぶのは、おこがましいけれど、たまには、海水浴くらいするだろう……
もともと隠れ家として使われていたので、入り組んだ海路をくねくねと通過して、ようやく湾にたどりつく。しかし、湾には、とうぜん『入り口』がある。
すこし、見分けにくくはなっているが、サバラン王国の連中が知らないはずはない。彼らは、あきらめが悪いらしく、いまでも、この湾に入って来ようとしていた。湾内にずらりと並んでいる軍船を取り戻そうとしているのだ。
「な、なんだアレは…」
「ま、まさか、ワイバーンか!」
軍船から、驚愕の声が聞こえる。
きょうは、彼ら『ワイバーン海上警備隊』のデビューの日なのであった。
ミルフィーユの戦力は、あまりにも『過剰』である。
しかし、いくらサイクロプスさんでも、海の上を走り回ったりはできない。クマ開発陣がいれば、そのうちできそうな気もするが、おそらく、無駄な機能だろう。
そこで、
鳥さんならばっちりだよね、ということになった。
『適材適所』の配属であった。ワイバーンたちも、ひろびろとした海上を飛び回れるので、まさに、願ったりかなったりだった。
いちおう、ワイバーンである。
ミルフィーユでは、炭火焼きのネタのひとつ、という位置づけであったが、そもそも、カテゴリー上は『竜』のなかま。サバランの軍船にとっては、たいへんな脅威であった。
「撃て、撃て、撃て、撃て、撃て、撃て、撃て……」
軍船では、かるく、パニックが起きていた。
ぱーん、ぱーん、ぱーん…
どっかーん、どっかーん、どっかーん…
弾の無駄遣いが、始まった。
しかし、宝くじですら、『当たる人には当たる』のである。おかしなことである。ゆえに、まぐれで、当たることがないともいえない。
それに、ワイバーンたちには、つい最近、矢をたくさん刺されて、疑似『はりねずみ』化した経験もあった。
かきん、かきん…
こーん、こーん…
「ばかやろう!自分から弾に当たりに行くやつがあるか!兄弟」
一匹のワイバーンが、急降下しながら、アクロバット飛行で、弾に当たりに行ったのだ。
「だってよぉ兄弟…、コレ、すげえ楽しいんだぜ…」
そういって、海面に落下寸前の砲弾に、体当たりしていた。
「そ、そうなのか…、兄弟…」
かきん、かきん…
こーん、こーん…
「うっひょー!こりゃいいぜ!兄弟」
トーリィほどの『匠』が育てても、しょせんは、『トリあたま』である。『ワイバーン海上警備隊』の限界であった。
おわかりかとは思うが、彼らの首には、クマさん新開発の『シールド発生装置』が装備されていたのである。砲弾など、パチンコ玉以下であった。
しかし、
クレープ湾には…、
『自分から必死で弾に当たりにいく、気の狂ったワイバーンがいる』
理解不能なものほど、人間にとって恐ろしいものはない。
クレープ湾の『ワイバーン海上警備隊』は、その奇行によって、船乗りたちから、おおいに恐れられることとなった。
「こまったもんじゃのう…」
「育て方を間違ったかのう…」
トーリィじいさんが、煎茶をすすりながら、つぶやいた。
眼下には、奇声をあげながら、砲弾に体当りする『子どもたち』が見える。
ジュンたちが、急遽、建造してくれた『塔』の畳敷きのへやからは、広い海を一望することができた。
「なにか、新しい趣味でも始めるかのう……」
トーリィじいさんは、ジュンからもらった日本茶に、舌鼓をうちながら、『子どもたち』とともに、第二の人生を歩み始めようとしていた。
「再婚は……」
じいさんは、かすかな痛みを感じて、頭に手をやった。
そこには、ジュンの治癒魔法をもってしても、治せなかった『ヒール跡』が残っている。
「…やめたほうがいいかのう」
空は、晴れ渡り、雲ひとつ見当たらなかった。
デビューの日にふさわしい、晴天であった。