第178話 どこが防衛会議なの
ジュンの出番になったのですが、ためしに、第三者視点のまま書きました。
いろいろ試すと、いろいろ練習になるので(笑)。
「はい」
ここで、ジュンが手を挙げた。
「さいきん、魔物さんたちに、任せっぱなしでわからないんだけど…」
「魔石の坑道と、薬草の採取場は、どうするの?」
ジュンは、このところ、『帝国魔法学院』に通っていた。もちろん、つい、昨日は、ゼリー帝国で盗賊捕獲のバイトをしていたが…
そのため、坑道や採取場から、危険な魔物を遠ざける役目を、ダンジョンの魔物さんたちが、担っていた。サイクロプスや、ケルベロスが、うじゃうじゃいるところに、ふつうの魔物は、近寄れない。せいぜい、離れて、ようすを伺う程度だ。
「ああ……、坑道のほうは、わしが説明しよう」
ドワーフのレギンだった。
「出入り口は、大きな岩を集めて塞いでしまう予定じゃ」
実質、転移ゲートで、採掘場に入っている。
出入り口がなくなれば、危険な魔物も入ってこられなくなるのだ。
「ジュン殿には、出入り口を塞いだ後、岩に強化魔法をかけてもらいたい」
そうすれば、たとえ、大砲の砲弾でも、弾き返せるからのう…、
「空気穴とか、換気方法は、今、検討中…クマ」
「もしかすると、街の中から、新たな坑道を掘るかもしれない…クマ」
昔のアニメで見た、先端に大きなドリルのついた車両を、ジュンは思い出していた。ジェットモグたんタンクだったろうか。ああいうのに乗って、坑道を掘り進むのだろうか。かっこいい……とジュンは感動した。
「薬草のほうは、私が説明するわね」
ほんとうにひさしぶりの、マリアンヌだった。辺境伯夫人であり、イレーヌの母親だ。
「上級の薬草がある場所は、そのままそっくり掘り出して、街のなかに移植させる予定よ」
街のなかで、ハウス栽培でもすれば、安全このうえない。
「宰相たちが、この地を訪れたときには…」
ミルフィーユ領主が、笑いながら、ここまでの話をまとめた。
「魔石の採掘場へと至る坑道は、入り口が岩で塞がれていて、薬草の採取場には、おおきな穴が開いているだろうね」
魔石と、薬草を取り戻しにくるのだ。これだけで、絶望的になるだろう。
「いままで、やろうやろうと思いながら、つい先延ばしにしてきたことばかりじゃ…」
レギンが、しみじみと言った。
「そうですね…」
「そういう意味では、今回の攻撃の話で、ふんぎりがついたようなものですね」
アルベールも、頷きながら、続けた。
それを聞いていたエルフの剣士、エミールが、
「そんなら、宰相には、感謝しなきゃいけねえかもな…」
真面目な顔でそんなことを言い出したので、みんなは声をたてて笑った。
会議は、明るい笑い声に包まれた。
「これのどこが、『防衛会議』なのだろう…」
ラノワ騎士団長が、あきれはてていると、隣にいた賢帝と目が合った。
「さぞかし、驚いただろう」
賢帝が、笑っている。たぶん、同じ気持ちなのだ。
しかし、驚いたと言えば、賢帝たちが、見物に来ていたことのほうが、よほど驚きだった。
いまこの場には、大国の『皇帝』がふたりいた。
一人は、今、話をしている、スフレ帝国の賢帝である。まだ、幼い姫君を、后との間に挟んで座って、せっせと世話をしていた。
もう一人は、海のむこうのゼリー帝国の皇帝だと聞いた。
ただ、その皇帝は、ジュンのお嫁さんと呼ばれる女の子たちに、じゅんぐりじゅんぐり、抱っこされ、頬ずりされて、ご機嫌のようすだった。
さらに、大国の『国王』もいた。
ランパーク王国の国王で、やはり、后とかわるがわるに、まだちいさな姫を抱っこしたり、頬ずりしたりしていた。
それでも、この姫は、まったく表情を変えなかった。ずいぶん、クールな姫だなと、眺めていると………、目があった。
巨大な氷山のように、冷たく静かな眼差しだった。もちろん、騎士団長が氷山を見たことなど、あるはずもないが…。
騎士団長は、背筋が凍りつくような、恐怖に襲われて、おもわず目をそらした。恥も外聞も吹き飛んでいた。
『いったどうなっているのだ!この途方もない魔力は!』
騎士団長とて『帝国魔法学院』の卒業生である。それなりに魔力探知ができたのが、裏目に出たようだった。
会議は、もう少し続いた。