表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お嫁さん&魔物さんといっしょに、ムテキな異世界生活  作者: 法蓮奏
ゼリー帝国(カルシウム大陸)編
176/631

第176話 いつもお世話になっております


 「ほ、ほんとうに、て、転移したのですか…」

 三人ともに、転移魔法は、なかなか実感できずにいた。

 しかし、豪華なシャンデリアや、色鮮やかなステンドグラス、意匠いしょうらした家具の類などは、あっさりと彼らを圧倒した。

 あたりをきょろきょろと見回していた、騎士団長がおもわずつぶやいた。

 「そ、それにしても、贅沢ぜいたくなホテルですね…」


 「…ホテルか。まあ、そう見えるだろうな」

 シフォン伯爵は、ただ、笑っている。

 それを見て、娘のクレアが、説明した。

 「でも、ここ……、城壁の中なんです」

 

 

 まず、外観から確認したほうが、いいだろうということで、三人は、出口にむかった。


 「こ、ここが、出口ですか?」

 扉の類がなかった。そのうえ、


 「いらっしゃいませー…ウサ」

 受付のしゃべる魔物が、にっこりと笑っていた。


 もちろん、事前には聞いていた。しかし、 

 「!」

 三人そろって、飛び退いた。

 みな、『魔法剣士』と分類される戦士であったが、その『剣士』のカンが、彼らに、とっさの行動を取らせたのだ。


 「こ、このウサギ、で、できるっ!」

 『何が』の部分が省略されていたが、もちろん、『うさぎ跳びができる』という意味ではない。かなりの戦闘力を持つという意味である。


 「まあっ!みなさん、ご冗談ばっかり!…ウサ」

 そういいながら、

 「クッ、クッ、クッ…」と、口の端をつり上げて笑った。

 もちろん、ウサギさんとしては、かるいウィットのつもりだったが…。


 三人は、震え上がった。

 三人がかりでも、勝てるかどうか…、それほどの力量と感得できたからであった。



 「こ、こほんっ!では、外に出たら案内をお願いしますね。クレアさん…ウサ」

 もしかして、『はずしてしまったのだろうか』。ちょっとがっかりした顔で、ウサギさんは言った。



 転送装置に載った三人は、すでに外がまばゆく見える広い通路に出ていた。

 この城壁のセキュリティのかなめが、ここにあった。『出入り口』が存在しないのである。全ては転送で行われた。そして、その転送は、かならず、何らかの認証が必要であった。

 もちろん、これには、『あちこち歩くのは、めんどくさい…クマ』というクマ開発陣の意見が大きく反映したのも、事実ではあった。


 

 水堀というより、川といったほうが適切だろう。

 ながい吊橋つりばしを渡ると、ようやく、対岸の地面に到着した。


 細い方の吊橋しか降ろしていない。

 それでも、けっこうな幅があり、橋の途中では、釣りを楽しんでる魔物が何匹もいた。ときおり、『オーパっ!』と叫ぶ声が聞こえてきていた。



 「おや、クレアさん、いらっしゃい。そちらの方たちは?」

 頭の上から、太い声が聞こえてきた。サイクロプスさんだった。

 となりには、ケルベロスさんもにこやかな顔で座っている。


 三人は、身構えることすらしなかった。

 身構えてどうなる相手でもないと、0.5秒で悟ったからである。

 それは、皮肉にも、三人ともに、達人の域にあったことを示していたといってよい。


 「父とその友人です」

 クレアが、かんたんに紹介すると、

 「いつも、娘がお世話になっております」

 伯爵が、ていねいに、頭を下げた。


 「おとうさま…」

 これには、クレアも驚いた。それは、うれしい驚きであった。


 「いえいえ、こちらこそ…」

 サイクロプスさんが、巨体を折り曲げて応えた。


 「それに、クレアちゃんは…」

 「うちのマスターの」

 「とっても大切なお嫁さんですから…」

 ケルベロスが、順々に話した。いまは、めずらしく、眠っている『頭』がいなかった。



 「我々がいますから、安心して見学してくださいね」

 「それでは、ごゆっくり…」

 そんなふうに言われて、五人は、やや城門を離れてから、振り返った。


 「な、なんという…」

 「高さなのだ…」

 「王国の城壁の、三倍、いや、四倍近いのではないのか…」

 現代日本の、十階建てビルを越えるのだ。驚いても無理はなかった。


 「硬さが尋常じんじょうではないらしくてな」

 「大砲の砲弾でも、傷一つつかないらしい…」

 伯爵まで、あきれたように言った。



 三人は、あぜんとしていた。そして、



 「宰相たちは…」

 「こんな城壁(もの)を破れると思い込んでいるのか…」

 あまりにも絶望的な思い違いに、同情すら覚えた。



 いずれにしても、



 信頼できる連中には、今回の遠征には、絶対に加わらないよう、説得しなければならないと強く思った。


 多数の兵士を送り込むことは、多額の費用がかかる。

 元が取れなければ、ただの大損になるのだ。なんの見返りも期待できない、あまりにも悲惨な負け戦となるだろう。貴族といっても、千差万別だ。手持ちの資金がすくない領主などにとっては、巨額の負債を抱える可能性すらあった。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ