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お嫁さん&魔物さんといっしょに、ムテキな異世界生活  作者: 法蓮奏
ゼリー帝国(カルシウム大陸)編
175/631

第175話 三人の客

ブックマークが、70になりました。ほんとうに、励みというか、支えになります(笑)。ありがとうございました。

最近、投稿時間がまちまちで、申し訳ありません。もうすこし落ち着いたら、きちんと定められるように頑張りたいと思います。

ミルフィーユの話は、久しぶりなので、やたらと説明が長くなってしまいました。


 「シフォン伯爵…、ご一緒してもよろしいですか…」

 帰りぎわに、シフォン伯爵に、声をかけてくるものがいた。

 第一皇子派騎士団長のラノワだった。


 かれは、『帝国魔法学院』の後輩だった。

 『帝国魔法学院』では、シャーベット王国出身者がきわめて少なかった。そのために、シフォンたちと、ともに行動させてもらうことが多かったのである。

 とくに、当時、アルベールを中心に彼らが、学院内で頭角を現していたお陰で、ラノワも一目いちもく置かれていた。それには、もちろん彼自身の実力もあったのだが、今も、彼は、そのことに恩義を感じていた。


 「…………」


 ラノワ騎士団長は、緊張した面持ちで、彼の言葉を待っている。

 シフォン伯爵は、考えた。

 そろそろ、彼のような信頼できる友人たちにも、ある程度のことは知らせる頃合ころあいではないのか。そもそも、そのために、声をかけてきたのだろう。


 「…それでは、……我が家に招待しよう」

 そういって、彼は、騎士団長に笑いかけた。


 すると、


 「我々も、お願いできないでしょうか…」

 警備隊の隊長と副隊長コンビも、そばに来ていた。

 

 もちろん、彼らは、『帝国魔法学院』の後輩などではない。

 当時、さまざまな事情でスフレまでは行けなくとも、こころざしの高かった若者は多くいた。そうした青年たちの面倒を見ていたのが、『大賢者』だった。つまり、アルベールの両親である。


 すでに、二十日近く前になるだろうか。

 『大賢者』のふたりと『マリア大司教』が、王都を出ていく際に、警備隊に立ち寄った。

 その時、宰相が、100名にも及ぶ騎士や兵士を引き連れて、この三人を捕縛ほばくしようとしたという。

 彼は、そのあと、宰相たちが、どんな目にあったのかも、聞いていた。

 それを聞いて、ひそかに溜飲りゅういんをさげたものだった。

 『あれ』が、いかなる魔法だったのか、それは、未だに謎のままであった。

 『闇魔法、金縛り』は、あの『大賢者』ですら知らなかった魔法である。ほかの者にわかるはずがなかった。


 

 「…ああ、そうだね。では、いっしょに行こう」

 警備隊のふたりは、おそらく、かつての師匠ししょうである『大賢者』の安否あんぴ気遣きづかっているに違いない。

 『使徒』と思しき少年と一緒に旅立ったことは、うすうす気づいているだろう。しかし、それでも、心配なことに変わりはない。

 シフォン伯爵は、このふたりも、屋敷に招くことにした。



 

 屋敷に到着した一行が、客間に向かっていると、娘のクレアと出くわした。

 クレアは、エッグにあるジュンの家に、マイルームをもっている。それでも、毎日のように、こうして帰宅して、顔を見せに来ていた。

 貴族の娘が、男の家に寝泊まりするなど言語道断である。しかし、十名ほどの女の子も、ともに暮らしているし、ジュンもまだ、深い関係になろうと思っていないことは、よく聞いていた。

 


 「みなさま、ようこそ…」

 クレアが客人に、挨拶あいさつを始めるなり、それをさえぎって、伯爵は、娘に耳打ちを始めた。やや、行儀の悪いことではあったが、急ぎの用件だった。


 「…わかりました」

 じっと、話を聞いていたクレアは、短くそう答えると、

 「それでは、みなさま、ごゆっくり…」

 丁寧に挨拶するなり、やや急ぎ足で、二階へと上がっていった。





 

 「…おそらく、魔石とポーションのせいですよ」

 ラノワ騎士団長が、言った。

 オーラン伯爵が、突如、裏切った理由についての話だった。


 「…どういうことかね」


  少し前まで、宰相経由でなけば手に入らず、高額なものを、買わされていた。しかも、宰相の気分次第(しだい)では、入手できないこともたびたびあった。


 しかし、今では、ミルフィーユが健在だった頃と変わらない価格で、シフォン伯爵から入手可能になっていた。もちろん、出処でどころたずねることは、禁じられていたが、それは、だれもが納得していた。

 宰相に対抗するためでもあるのだ。出処を隠すのは、当然のことと思われた。


 「いまは、それなりに手に入るようになったはずだが…」


 「ええ…。あれは、我々も、非常に助かってますよ」

 警備隊長たちは、第一皇子派ではなかったが、シフォン伯爵は、別けへだてなく提供していた。宰相の権力基盤を崩す目的もあるのだ。宰相の第二皇女派以外であれば、融通ゆうずうするに越したことはなかった。


 「シフォン伯爵を非難して…」

 「領袖りょうしゅうから引きずり下ろす口実がなくなったから…ですかね」

 副隊長のメガネがキラリと光った。

 魔石とポーションを独占され、宰相に逆らえなくなっていた。これを全て、領袖たるシフォン伯爵の力量不足のせいだと、非難するつもりだったのだろう。


 「ええ、そうです」

 ラノワ騎士団長がうなずいた。


 それどころか、

 「我々、いわゆる第三勢力でさえ、シフォン伯爵に感謝している」

 警備隊長が、付け加えた。

 ある程度なら、値をつり上げても、誰も文句は言わなかったはずだ。

 それなのに、以前と同じ価格で、仲介していた。

 

 「…なるほど」

 それで、宰相と一緒になって、ミルフィーユを攻略しようとしているのか。

 魔石とポーションを大量に手に入れて、自分に対抗しようとしているのかもれしれない。領袖の座など、こちらから譲り渡したいくらいなのに…、彼は苦笑した。

 いずれにしても、とうていかなわない皮算用かわざんようだろう。ミルフィーユを落とせるはずがないのだから。


 「宰相も、けっこう追い詰められていますしね」


 宰相が売っていた、魔石もポーションも、『輸入品』であることは知られていた。彼は、それを独占することで、権力基盤をより固めていたのだ。


 しかし、それほど安値で輸入できるとは思えない。

 魔石も、ポーションもどこの国でも、あり余っているわけではないのだ。ミルフィーユ健在時の、リーズナブルな値段では、とうてい輸入できるはずがなかった。

 彼は、それを、第二皇女派には、以前と同じ値段にまで、引き下げて売っていた。とうぜん、そこには、差額が発生する。その差額は、ほかの勢力に、きわめて高値で売却することで、補っていたのである。もちろん、差額を補ってあまりある高値であった。


 「いまでは、第二皇女派のほうが、ずっと高額で売られているようですよ」

 他の勢力から、もう差額分をもうけることはできない。かといって、差額分を自分のふところから出すのを嫌ったのだろう。ケチな宰相らしいやり口だった。



 いずれにしても、現状を打開するには、ミルフィーユを手に入れるしかなくなったわけだ。



 「第二皇女派の有力貴族の『離反りはん』の噂もありますし…」

 副隊長のメガネが、いちだんと輝きを増した。

 

 「…ほう、どういうことかね」

 シフォン伯爵は、尋ねた。こころあたりがないわけではないが、副隊長の考えも聞いておきたかった。

 

 「かつて、ミルフィーユに食い込んで、うまい汁をすっていたのは彼らです」

 ミルフィーユが、さかんに魔石とポーションを生産していた頃に、宰相派が、利権に食いついてきた。彼らは、第二城壁を築いて、自分たちの配下を次々と入植させたものだ。

 最終的には、第一城壁内の辺境伯たちから、奪えるだけ奪い取る計画だったのかもしれない。しかし、領主アルベールは、彼らよりも一枚も二枚も上手うわてだった。宰相派は、第一城壁内に立ち入ることすら、満足にできなかったのである。


 結局、そのあと、魔物の大量発生があり、彼らは、自分たちが呼び寄せた配下と共に、王国軍に守られながら、ミルフィーユから逃げ出した。


 しかし、そのあと、ワイバーンを使って、第二城壁の城門を開放し、魔物を城壁内に呼び込んだのである。

 今になればわかることだが、魔物の大群によって、アルベールたちが全滅するのを待って、そのあと、魔物からミルフィーユを取り戻す計画であったのだ。



 もちろん、いま、シフォン伯爵邸で語り合っている、この四人には、そこまでの推測は不可能だったが、領主のアルベールなどは、かなり前から気づいていた。

 いちはやく、第三城壁を築いたり、スフレ帝国との関係を強化したり、大司教や両親を呼び寄せたりしたのである。

 宰相の思惑おもわくに、気づいていなければ、とうてい、そこまでやるはずがなかった。


  

 「結局、ミルフィーユから利益を得られないなら、第二皇女派にとどまっても旨味うまみはない」

 例の『勇者(ばか)』だけでも、悪評が立っていた上に、『魔法陣』の消失もあった。さらに、城門前での『金縛り』による醜態は、衆目しゅうもくまとともなっていた。宰相にとっては、権力基盤を危うくする出来事が続いているのある。


 「まったく、あの連中らしい…、自分勝手な考えですがね」

 騎士団長は、き捨てるように言った。

 

 第二皇女派は、結局、宰相の権力のもとで、甘い汁を吸いたい者の集まりだ。第二皇女に忠誠を誓っているわけではない。

 そういう意味で言えば、第一皇子派も何も変わらない。皇子への忠誠よりも、宰相への反発が主である。

 それほどまでに、シャーベット王国では、王家への忠誠を失っていたと言えた。



 いずれにしても、宰相は、なんとしても、ここで、ミルフィーユを奪還だっかんする必要に迫られていた。それ以外に、権勢を取り戻す方策がなかったからである。



 話が一段落したのを見計らったのか、クレアが客間に姿を現した。



 「おとうさま…、『どうぞいらしてください』とのことです」

 それは、この三人の客を、ミルフィーユへ招く許可がおりたことを意味していた。 





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