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お嫁さん&魔物さんといっしょに、ムテキな異世界生活  作者: 法蓮奏
ゼリー帝国(カルシウム大陸)編
173/631

第173話 その頃、王城のある一室では…


 その頃、海を隔てた、シャーベット王国の王城では、重鎮じゅうちんたちが集められていた。


 シャーベット王国とは、あの、ミルフィーユを辺境に置く国である。

 スフレ帝国などに比べれば、ずっと小さな国であった。


 ただ、これまでは、『勇者召喚』が定期的に行われ、その勇者が、王国以外でも活躍していた。これは、勇者たちが、王国を嫌って国外に出ていたのがいちばんの理由であったが、結果的にそのお陰で、シャーベット王国は、小国ながらも、一目置かれる位置を堅持していた。


 しかし、


 もともとの持ち主であったドラゴンが、王城に設置されていた『魔法陣』を召喚して取り返してしまった。もっとも、ジュンは自力でドラゴンを召喚できるので、敢えて取り返す必要はなかったとも言える。

 いずれにしても、王国の『勇者召喚』は、その幕を閉じた。


 あとに、残ったのは、例の『勇者(ばか)』である。

 とても、国外に出せるはずはなかった。下手をすると、これまでの実績もまとめて帳消しにしてしまう可能性すらあるのだ。

 

 王国では、こんな噂が、巷間こうかん流布るふしていた。


 いわく、『第二皇女が、あんな勇者(ばか)を召喚したから、神の怒りを買って魔法陣を取り上げられたのだ』と。


 もちろん、『事実』とは、ことなっている。しかし、『実態』が、この噂を裏付けていった。『勇者(ばか)』が、街に出るたびに、ひとびとに迷惑をかけていたからである。


 

 

 「そもそも、なぜ、聖女セシリアは、皇位をはく奪された上に、王都追放になったのですかな」

 シフォン伯爵が、尋ねた。

 彼は、『第一皇子派』の領袖りょうしゅうであり、クレアの父でもある。


 「いまさら、言うまでもあるまい…」

 宰相は、あっさり突っぱねた。

 今までは、それで済んでいたからである。それほど、宰相の権力は肥大していた。


 しかし、今回はそれでは、すまなかった。


 「それは、わたしたちも、疑問に思っていた」

 「確認のためにも、ご説明いただきたい」

 黙りこむどころか、さらに、問いただされた。

 警備隊長であった。副隊長とともに、この会議に出席していた。


 「なんじゃと…」

 宰相は、気色けしきばんだ。


 しかし、


 シフォン伯爵も警備隊長も、ひるむようすはなかった。

 答えを聞くまでは、引かない、そんな決意さえ感じられた。


 彼は、しぶしぶ答えた。

 「『勇者召喚』に失敗したからだ」


 「ほう…」

 「おや…」

 シフォン伯爵たちは、意外そうに声を上げた。


 『勇者召喚』に失敗したからといって、罰を受けるようなことは、

 「これまでに、一度たりと無かったと記憶しておりますが…」

 なぜ、聖女セシリアだけを罰せられたのですか?

 警備隊副隊長が、さらに、切り込んでいった。

 いつもの眼鏡がきらりと光った。


 「そ、それは…」

 「『召喚失敗』の言い訳に、き、虚言きょげんいたからじゃ…」

 虚言の罰としても、重すぎるのだ。

 非常に、おそまつな言い訳だった。


 しかし、


 虚言への罰の軽重けいちょうよりも、問いただすべきことがあった。


 「念のため、お伺いする…」

 「具体的に、どのような虚言でしたかな…」

 シフォン伯爵が、尋ねた。


 「き、決まっておろうが…」

 「召喚した相手の『魔力の器が大きすぎてはじかれた』などと、下らぬ嘘をついたことじゃ!」

 宰相は、いかにも腹立たしそうに言った。



 シフォン伯爵たちは、にやりと小さく笑った。

 言質げんちをとったようなものだからだ。


 「今でも、ほんとうに、虚言であったと、お考えで…?」

 警備隊長が、ゆっくりと確かめるような口調で、念をおした。


 この会議の場には、彼ら以外にも『重鎮』と呼ばれる貴族たちが集まっていた。

 そのなかには、第二皇女派、つまり宰相派の有力貴族も、参加していた。


 『この問いは、まずい…』

 宰相派の有力貴族のひとりが、ひそかに思った。

 彼は、聖女セシリアを迫害したときにも、宰相に向かって、苦言くげんを吐いた人物だった。


 宰相殿は、『虚言に決まっている』と、ふたたび突っぱねるに違いない。

 しかし、それは、決して、言ってはならないことだ。


 彼は、あわてて口を挟んだ。

 宰相よりも先に、発言しなければならない。

 「わ、我々も……、き、虚言ではなかった可能性もあると、考えている…」

 

 宰相派の貴族は、驚いて、彼を見た。

 宰相に至っては、彼をきつくにらみつけている。


 それでも、彼は、ここでひるむわけにはいかなかった。


 「そうでしょうな…」

 警備隊長が、言葉をつないだ。


 「二度に渡る『大魔力の波動』、さらには『火の柱』や『土の柱』……」

 これらは、我々の知る『魔力』を、はるかに超えていた。

 

 「も、もちろん、承知している…」

 と、宰相派の仲間から、きつい視線を受けながらも、彼は言った。


 あの大異変に、気づいていないなどと言ってしまったら、危機管理の能力以前に、正気を疑われてしまう。以前はそれでも、押し切れたかもしれない。しかし、いまは…


 「では…」

 警備隊長は、さらに、続けていった。


 その『大波動』が感知されたその日に、

 「聖女セシリアが、冒険者ギルドで、『黒目黒髪の少年』と一緒であったことは、ご存じか?」


 「ああ…」

 シフォン伯爵が、話を補足した。

 ケンイチ殿や、うちの息子たちはもちろん、

 「多くの冒険者たちも、それは目撃しているらしいね」



 この世界には、「黒目」も、「黒髪」もいないわけではない。ただし、『黒目で黒髪』は、非常に珍しい。

 それは、『異世界人』の特徴であると、頻繁に『勇者召喚』を行ってきたこの国では、常識となっていた。

 


 初めて聞いた者もいたのだろう。

 宰相派の貴族たちは、顔を見合わせている。


 ここで、


 警備隊長が、いかにも、いま、思い出したかのように言った。

 「そういえば…」

 「シフォン殿のご子息が、今の『勇者殿』に、魔剣で、肩を切られたそうですな」

 「なんでも、ご息女を連れ去ろうとしたのを、止めにはいったところ、斬られたとか…」


 警備隊長は、話しながら、宰相のようすをじっと伺った。

 シフォン伯爵も、おなじように、鋭い視線を向けている。


 宰相は、あっさり謝罪した。もちろん、謝罪で済む問題ではないが…

 「それは、たいへん申し訳ないことをしたのう」

 「…して、ご子息のケガのほどは…」


 「ええ、幸い、先ほどの『黒目黒髪の少年』が魔法で治してくれたそうです」

 帰宅したときには、傷跡きずあとひとつ見当たりませんでしたな。

 シフォン伯爵の口調は、おちついていた。

 

 「魔剣で切られた傷を、あとかたもなく治癒するとは、たいしたものですな」

 第一皇子派の騎士団長が、感心してうなった。

 

 「それどころか…」

 シフォン殿のご子息を助けに入ったときに、戦闘になったらしいのですが、

 「魔剣の『奥義』でさえ、かるがると退しりぞけたそうです」

 残念ながら、我々が駆け付けたときには、すでに戦闘が終わりかけておりましたが…

 警備隊副隊長が、残念そうに言った。



 言ってみれば、『状況証拠』がそろったようなものであった。

 この『黒目黒髪の少年』こそ、聖女セシリアが召喚に失敗した『魔力の器が大きすぎる』存在である可能性が非常に高くなった。


 「く、くだらぬことを…」

 宰相が、怒鳴どなり散らした。

 「召喚に失敗した相手が、なぜ、聖女セシリアと行動を共にできるのじゃ!」

 そもそも、召喚もされずに、どうやって来たというのじゃ!


 ここで、待ち構えていたように、警備隊長が言った。


 マリア大司教が、こうおっしゃっていました。

 「大教会の大聖堂に、送還されてきたのを、たしかに見た」と。

 そればかりか、

 「精霊さまと、女神さまを伴として、お連れになっていた」と。


 「「「「「「なんだと…」」」」」」


 この場にいた『重鎮』ぜんいんが、驚きの声を上げた。


 「そ、それでは、まるで…」

 「『使徒』ではないか…」


 …………


 会議は、重苦しい沈黙に包まれた。

 宰相派は、聖女セシリアを迫害したことで、とんでもない相手を敵に回したかもしれないことに、ようやく気がついたのだ。


 このとき、


 警備隊副隊長の眼鏡は、シフォン伯爵をとらえていた。

 シフォン伯爵だけは、表情も変えずに、淡々と聞いていたからである。

 『シフォン伯爵は、すでに何かご存じのようですね』

 『おふたりのご子息を助けてもらったのだから、とうぜんでしょうか…』



 ようやく、



 宰相を追い詰めることができそうだった。

 少なくとも、シフォン伯爵たちは、そう思っていた。


 ところが、


 ここで、予想外の人物が、宰相の味方に回った。


 「話は、聞いておった…」

 だが、

 「今は、宰相殿とちからを合わせて、ミルフィーユを何とかすべきときであろうよ」


 『第一皇子派』の長老ともいうべき有力貴族だった。





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