表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お嫁さん&魔物さんといっしょに、ムテキな異世界生活  作者: 法蓮奏
ゼリー帝国(カルシウム大陸)編
172/631

第172話 サイドビューに真実が…


 「ぜ、脆弱ぜいじゃくすぎる…ケロ」

 カエルさんが、なげいていた。


 「足りないっ!足りないっ!…ウサ」

 ウサギさんは、天を仰いでいた。


 「…ヘイヘイ、ライト行クゼ…クマ」

 クマさんは、ノリノリだった。



 戦いは、一方的だった。


 そもそも、


 ①ドラゴン

   ↓

 ②サイクロプス

   ↓

 ③転移魔法

   ↓

 ④魔物さんうじゃうじゃ

  

 …というだけでも、すでに、

 茫然自失ぼうぜんじしつしていた自称『盗賊』集団に、やたらと強い魔物さんたちが、飛びかかっていったのだ。無理もなかった。



 『ひとり10人しか倒してはいけない』

 *ここで、いう『ひとり』とは、『魔物さん』を指し、『10人』は、エネミーである自称『盗賊』を指している。



 そういうルールであったのに、カエルさんなどは、つい、一度に10個ほどのクルミのからを、いつもの舌技で、高速射出してしまった。


 もちろん、このクルミの殻は、舌技パワー向上のために、日頃、カチカチと口の中で、転がしていたものだ。

 ちなみに、舌技といえば、『さくらんぼのヘタ結び』が著名であるが、もちろん、彼らも『長ネギ』を舌で結んで、洗練された絶技へと磨きをかけていた。


 高速射出されたクルミの殻は、もののみごとに、自称『盗賊』たちの眉間みけんに、炸裂さくれつし、彼らを吹き飛ばした。わずか、3秒ほどの戦闘であった。


 「ぜ、脆弱ぜいじゃくすぎる…ケロ」


 カエルさんは、そうつぶやいて、自分が倒したニンゲンたちの前に、カクンとひざをついた。




 ウサギさんのそれは、まさしく『舞』といってよかった。

 

 まず、得意の俊足で、まだ、身構えることすらできていない自称『盗賊』たちの前に、突如、姿を現した。それは、すでに、物理限界をも超え、『しゅんかんいどう』の域に達していた。


 ウサギさんは、彼らの前で、クルリとその純白の背をさらした。

 それから、左足を軸として、前方に倒れ込みながら、右にゆるりと旋回した。


 まず、一番前にいた男の顔に、しなやかな耳が、したたかに叩き込まれた。殴り飛ばされた男は、その隣にいた男と激突。二人の男の意識を刈り取った。


 つぎに、左手の手刀が、その後ろにいた兵士の肩をいだ。本来は、首筋に撃ち込まれるものであったが、『直に肌に触れるのは、感染の危険がある…ウサ』との用心によるものだった。ウサギさんの手刀が、振り切られる頃には、三人ほどの兵士が、宙を舞っていた。

 目の前の五人の兵士が、この半回転のうちに、消えていた。


 「くっ…、このままでは…」

 最大パワーの右のキックが、さらに後ろの兵士に届かない。

 

 ウサギさんは、軸足で地を蹴った。

 しかし、この時、彼は、つい、力を入れすぎてしまったのである。

 右足の回転より早く、彼は兵士に『体当たり』をしてしまった。

 ドミノ倒しのように、兵士が飛ばされていった。その数、六人。すでに、約束の10人を、ひとりオーバーしていた。


 得意の右足は、そのまま、一抹のむなしさとともに、空を切るしかなかった。


 「足りないっ!足りないっ!…ウサ」

 せめて、右足のキックを炸裂さくれつできるだけの人数を…と、彼は天を仰いだ。


 

 

 

 

 

 魔物さんたちが、ぜんいん飛び出していくのを確認したオレたちは、つぎの段階ステージへと移行した。


 カミーユちゃんが魔法を発動した。

 すでに、八つもの転移ゲートを開いていたのに、カミーユの魔力にはまだまだ余力がある。


 『転移元、変更』

 

 まず四つのゲートが、明滅めいめつを始めた。


 『ゼリー城ゲート…』

 もちろん、城に、あらかじめ設置してあったゲートだ。


 明滅が終わると、ゲートから、次々に騎士や兵士たちが出現した。


 「おお、ほんとうに、平原に出たぞ!」

 「すばらしい!」

 「これが、転移か!」

 みんな感動していた。

 「あとで、田舎の母さんに手紙で知らせないと…」

 親孝行な兵士もいた。



 ふたたび、カミーユは魔法を発動する。



 『転移元、変更』

 

 残りの四つのゲートが、明滅めいめつを始めた。


 『ゼリー冒険者ギルドゲート…』

 同様に、あらかじめ設置してあったゲートだ。


 明滅が終わると、ゲートから、次々に冒険者たちが出現した。


 「すげえ!、平原に出だぜ!」

 「やったぜ!」

 「これが、転移魔法ってやつか…」

 みんな、同様に、感動していた。

 「あとで、日記につけておかないと…」

 意外とこまめな冒険者もいた。

 


 彼らが遅れてやってきたのには、理由がある。

 今回の彼らの業務は、『戦闘』ではなかった。

 『捕縛ほばく』であり、『武装解除』であり、『尋問じんもん』であった。


 ようするに、

 ①「縄で縛りあげて」

 ②「武器や、防具は、ぜんぶもらって」

 *ついでに、金目の物も。どうせ盗んだり奪ったりしたものだし…

 ③「盗賊などではなく、兵士である言質げんちをとる」ことである。


 また、


 彼らによって、不幸にも命を奪われたものいた。

 その犯人を特定し、しかるべき罰を下すことであった。



 彼らの先頭には、あの3メートル男がいた。

 「おう、いいぐあいに、ころがってやがるじゃねえか!」

 「野郎ども、片っ端から、縛り上げて身ぐるみいでやんな!」

 

 「「「「「「「「「おおっ!」」」」」」」」」」」

 

 さすがは、3メートル男、偽装もしていないのに『盗賊』っぽかった。

 Sクラスの冒険者で、じつは、騎士にも兵士にも信頼の厚い人物らしいが…




 戦況は変化していた。


 自称『盗賊』たちが、我に返って、一目散に逃げ出したのだ。

 そもそも、ジュンたちに、依頼が来たのも、彼らは逃げ足が早く、一網打尽いちもうだじんにすることがどうしてもできなかったからだった。


 もちろん、逃げた先には、サイクロプスたちが、盾を構えて、がっちりガードしている。

 しかし、自称『盗賊』たちには、そちらに逃げるしか選択肢はなかった。


 逃げ惑う自称『盗賊』に、魔物さんたちが、後ろから襲いかかって、次々と倒してゆく。

 見ようによっては、ただ、魔物が、人を襲っているようにも見えたが、まあ、しかたがないだろう。

 そのうち、規定の10人に達したのか。ほとんどの魔物さんが後を追うのをやめた。



 「ヘーイ、ミンナ!オレタチノ出番ダゼィ…クマ」


 今まで、キャッチボールをしていたクマさんたちが、みんな、バットを手にして、一列に並んだ。

 いつの間に着替えたのだろうか。

 お揃いのユニフォームを着て、野球帽をかぶっていた。

 背中には、『がんばろうぜベアーズ』と書いてある。


 「…ヘイヘイ、ライト行クゼ…クマ」

 なぜか、カタコトでしゃべりながら、右翼めがけてノックした。



 かっきーーーーーーーーーーーん。



 ちなみに、クマさんたちは、非常に体格が大きい。

 バットは、特製であり、ボールは、バスケットボールだった。

 だが、なぜか、硬球を打ったような音がしていた。音の魔道具だろうか。

 もちろん、バスケットボールも、ふつうのボールではあるまい。


 

 絶妙なコントロールだった。

 クマさんが、高々と打ち上げたバスケットボールは、弧を描きつつも、急速に落下して、逃走する兵士にジャストミートした。


 「ヘイ、ツギ、センター行クゼィ…クマ」


 かっきーーーーーーーーーーーん。



 「「「「「「「ヘイ、ヘイ、ヘイ……」」」」」」」」」


 かっきーーーーーーーーーーーん。かっきーーーーーーーーーーーん。

 かっきーーーーーーーーーーーん。かっきーーーーーーーーーーーん。


 クマさんたちのカタコトの掛け声とともに、逃げる兵士たちが、つぎつぎに、バスケットボールごと地面にたたきつけられていった。



 

 「なんともすさまじいな」

 美人のギルマスが、いつのまにか、隣に並んでいた。

 『おおっ!』

 真横から見た、ギルマスの胸は、ただ、大きいばかりではなく、やや外向きにつんと張っているような、きれいな形をしていた。

 やはり、バストというものは、サイドビューに真実があるのかもしれない。

 オレは、ふと、そんなことを思った。


 「どうやら、ひとり残らず、捕まえてくれたようだね」

 イケメン伯爵も来ていた。



 美人ギルマスの美しい胸に別れを告げて、戦場に目を向けると、自称『盗賊』たちは、一人残らず、地に伏していた。


 「こっちも、終わったわよ」

 クレアの声が聞こえてきた。

 小さい頃から、元勇者のケンイチに随行していたせいか、彼女は剣術にもひいでていた。


 みると、さきほど、オレに、『命はもらうがな』とか言っていた男が、顔をボコボコにされて倒れている。

 オレは、とっさに駆け寄って、クレアを手を握った。

 あんな野蛮な顔を殴って、爪に傷でもついては、たいへんだ。

 クレアの手は、ふだん剣を握っていると思えないほど、やわらかかった。


 「もう、ジュンくんたら……」

 クレアが、ぱっと頬を染めた。

 「大丈夫だよ、アタシこれ使ったから…」

 そういって、ニコニコしながら、木製のバットをぶんぶん振っていた。


 「…そ、そうか」

 手に傷を負う心配は消えたが、別の不安が頭をもたげた気がした。



 すると、



 こんどは、誰かが、オレのローブを、クイクイ引っ張っている。

 振り向いても誰もいない。

 不思議におもっていると、また、ローブをクイクイ引っ張られた。


 カミーユだった。


 相変わらずの、無表情だ。

 顔立ちが整っているだけに、いっそうクールに見える。


 「ああ、カミーユの魔法は、すごかったな…」

 オレは、ひざをついて、カミーユを抱きしめた。

 

 「………」 

 返事はないが、ぎゅっと抱きしめると、嬉しそうにしていた。

 カミーユは、抱きしめられるのが好きだった。

 十年以上も、あの水晶玉の中に閉じ込められていたせいだろう。

 オレは、そのまま、カミーユを抱き上げた。


 

 そのときだった。



 『指揮官っていうか、逃走する貴族の馬車をみつけましたわ…ごしゅじんさま』

 真白からの連絡が入ってきた。


 『揚陸艇ようりくていは、いま、どこ?』

 伯爵やギルマスにも来てもらうとすれば、乗り物が必要だ。


 『ステルスモードで、馬車を追跡してますわ…ごしゅじんさま』

 さすが、真白だった。ぬかりはない。




 すぐさま、オレたちは、『揚陸艇』に転移してきた。もちろん、伯爵も、ギルマスもいっしょだ。


 窓に駆け寄って、下をのぞくと、たしかに、馬車が走っていた。

 ひどくあわてているようだった。


 隣りで、下をのぞき込んでいた 美人ギルマスが、言った。

 「多少、偽装ぎそうはしてるけど、『エーゲレス王国』の皇室専用馬車ね」

 

 「ああ、そうだね。たしかに、あの馬も皇室用だね」

 伯爵も、同じ意見のようだ。


 「つかまえますか?」

 オレはたずねた。


 「残念だが、ここでらえてもしらを切られるだけだろう」

 「下手をすると、こっちが、不当に捕縛ほばくしたことになるな」

 ふたりとも、残念そうに言った。



 それなら、



 「すこし、魔法で痛めつけてもいいですか?」

 『精神系の魔法』なので、攻撃されたとは気づきませんから。

 国ぐるみで他国の商人を狙い撃ちして、略奪りゃくだつをくりかえてきたのだ。

 義憤ぎふんなどとはいわないが、さすがに、オレもカチンと来ていた。



 「ほう…それはぜひ頼みたい」

 「おもしろそうだな…」

 ふたりとも、うれしそうだった。


 「ちょっとでいいから、ステルス解いてくれる?」

 『了解しました…ウサ』

 真上から追跡している。あの慌てようだし、気づかないだろう。


 オレは、窓を開けた。


 ひゅーーーーーーーーーーーっ!

 

 一陣いちじんの風が、室内を吹き抜ける。


 「ま、まさか…」

 オレは、緊張しつつ、隣の美人ギルマスをチラ見した。


 「…すまんな」

 美人ギルマスが、言った。

 「わたしは、短いスカートなどもっておらんのだ」

 だが、

 「君がどうしても、見たいというなら、今度用意しておこう」

 「下着は、白がいいのか?」

 とても、男らしい美人だった。

 

 「いえ……、ああ、はい……、し、白で、おねがいします」

 このさいなので、頼んでみた。

 せっかくのご厚意を無にするのも、なんだし…



 すこし離れたところから、カミーユが、オレをじっと見ていた。

 カミーユの魔女っ子衣装は、風にひるがえって、いちごプリントのかわいい下着が顔をのぞかせている。

 『おおっ…』

 定番とは、やるな、カミーユ! 

 カミーユは、オレがしばらく鑑賞しているのを確かめると、そっと、すそをもどした。


 

 くっ、



 オレは、あの小さな子に、こんな気配りをさせていたのか。

 カミーユに感謝しつつも、オレは、己の生き様を振り返る必要性を感じた。



 「効果範囲設定」

 「可視化、赤」


 馬車だけが、赤い光に包まれる。

 もちろん、御者ぎょしゃは、範囲外だ。

 あのスピードで御者がフリーズしたら、馬車が横転してしまうかもしれない。


 「闇魔法、金縛り」

 ねんのため、すこし強めにかけておいた。死ぬことはないだろう。


 もちろん、馬車のなかは見えない。

 

 しかし、まちがいなく、今ごろ、あの馬車に乗っている人物は、身動き一つとれずに、悪夢に悲鳴を上げているだろう。ああ、声も出せないんだっけか…


 

 『揚陸艇』は、旋回して、帝都カーンテンへと向かっていった。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ