第171話 戦闘開始…クマ
ブクマークが60ちょっとになりました。とてもうれしいです。ほんとうにありがとうございます。
すこし、長めなので、きょうの投稿は、この一回だけになると思います。
オレは、いま、ゼリー帝国を出て、やたらとだだっ広い平原を、てくてく歩いていた。
ときおり、さわやかな風が、吹き抜ける。
じつに気持ちのいい朝だった。
平原には、街道が伸びている。
ふだんは、ここを帝国商人たちの馬車が行き交うそうだ。
今朝は、商人たちの馬車の姿は見えない。
…………
それはそうだろう。
いま、オレのまわりには、自称『盗賊』とやらが、ぞくぞくと集まってきているのだから。
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ひさしぶりに、時間はさかのぼる。
ゼリー帝国は、じつは、サバラン王国の隣の国だ。
隣と聞くと、まるで、近くにあるような気がするが、そうとは限らない。険しい山岳地帯を挟んでいるからだ。
だから、サバラン王国から、ゼリー帝国へと移動するには、この山々を迂回しなければならなかった。
オレたちが、サバラン王国に、殴り込みをかけてから、すでに、一週間ほど経過していた。一週間という時間が、長いのか短いのかは別としても、かの国で起きた事件の『情報』が伝わるだけならば、十分な時間だった。
「どれも、これも、信じがたい話ばかりなのだがね…」
イケメンおっさんのアイロス伯爵が、話し始めた。
まず、ジュン殿は、サバラン王国と……
「『一戦交えた』ということで、よろしいか?」
………
サバラン王国とは、山を挟んでいるとはいえ、隣国だ。
ごまかしきれるものでもないだろう。
「あのときは、ちょっと、話し合いをする必要があって…」
まあ、じっさいに、話したのは、別の人たちだったんですけどね。
そんなふうに、言葉を濁した。嘘は言っていない。
すると、
ルネちゃんが、きゅうに抱きついてきた。
「あれは、怖かった」
「怖かった?」
オレは、聞き返した。
誰が、この子を怖がらせたのだろうか。許せないやつだ。
「君の声が、聞こえたのだよ」
「『責任者出てこい』だったか?」
あの美人のギルマスが、笑って教えてくれた。
……くっ
オレだったとは。
オレは、リュックから取り出したチョコで、ルネちゃんの機嫌をとった。
…………
伯爵は、話を続けた。
「空を覆うほどの卵型の船、ドラゴンのゴーレム、サイクロプスの軍団、巨大なケルベロス……」
どれも、馬鹿げた話ばかりなのだが…
「昨夜話していた『魔物の家族』とは、この『災害級の魔物』たちのことかね?」
たしかに、聞いただけで、めまいがするような話だった。
「まあ……、大きい順だと、そうですかね……」
「でも、そんなに大きいのは、半分くらいですよ」
あとは、ウサギさんとか、カエルさんとかだからな。
「半分って…、それだけで五百体になってしまうだろう!」
伯爵が、コーフン気味に言った。
大型の魔物が好きなのだろうか。
「……まあ、そうなりますね」
そういえば、ゼリー帝国のダンジョンも、オレたちの『仲間』というなら、また、増えるんじゃないだろうか。お小遣いを、稼いであげないと…
…………
「…サバランのギルドの連中は」
ここで、ふたたび、美人ギルマスが尋ねてきた。
「…みんな、無事なのだろうか」
さっきとは、うってかわって、不安そうな表情だった。きっと、心配しているのだろう。色っぽいお姉さんが、少女のように見えた。
「ええ、みなさん、元気ですよ」
「ぜんいん、ミルフィーユでのんびりされますよ」
ご案内しますよ。温泉もありますから。
「…そ、そうか。ぜひ頼む」
美人ギルマスは、心底ほっとしたような顔をした。
あとで聞いた話では、サバランのギルマスとは、魔法学院からの親友だそうだ。サバランのギルマスは、エルフのイザベルさんの妹さんだ。
ギルマスとの話も一段落すると、いよいよ本題に入った。
「これは、帝国とギルドの共同の依頼となるのだが……」
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「ジュンとかいうのは、お前か?」
馬上から、偉そうに尋ねてきた。
たしかに、薄汚い格好はしている。しかし、服装だけだ。
馬も、武装も、どうみても兵士のものだった。
そのうえ、どいつもこいつも、お揃いの装備だ。
偽装も、まともにできない連中らしい。
オレが何も言わないでいると、また、勝手にしゃべりだした。
「『エリクサー』を出せ!」
「ああ、ほかにも、『鉄の走る箱』とやらもあるのだろう。すべて出せ!」
まあ、おとなしく出しても、命はもらうがな。
そういって、ニヤニヤし始めた。
数百人はいるだろうか。
広い平原いっぱいに、自称『盗賊』が群がっていた。
オレのことを『ダンジョン攻略者』とだけ知って、頭数を揃えてきたのだろう。
『まもなく、最後尾の位置把握が終わります…ウサ』
耳につけたイヤホンから、連絡が入った。
じゃらり…
オレは、ローブのポケットから、金色の光を放つ小瓶を取り出した。
一本、二本、三本、四本、五本……
金色の光が、地面に、ゆっくりと並べられてゆく。
「「「「「「「「「おおおーーーーっ!これが!」」」」」」」」」」」
まわりの自称『盗賊』たちが、どよめいた。
『…最後尾、把握完了…』
『囲い込み開始します…ウサ』
そのしゅんかん、
どっかーーーーーーーーーーーーーーーーん!
ステルスを解除したドラゴンが、急降下してきた。
「「「「「「「「「「「「……」」」」」」」」」」」」」
数百人の『盗賊』が、空を見上げて、言葉を失った。
高速で旋回するドラゴンの周りの空間が歪む。
その歪みの中から、巨大な盾を握ったサイクロプスたちが落下してきた。
どすーーーーーーーーーーーーーーーーん!
どすーーーーーーーーーーーーーーーーん!
どすーーーーーーーーーーーーーーーーん!
弧を描いて旋回するドラゴンに後には、つぎつぎと、サイクロプスたちの盾によるバリケードが築かれていく。
『囲い込み完了…ウサ』
すると、真白の声が聞こえてきた。
『さらに後ろに、指揮官がいるかもしれない。調べてちょうだい』
『らじゃー…ウサ』
こんどは、後ろから、
セーラたちの声が聞こえてきた。
「いよいよ、カミーユちゃんのデビュー戦だね!」
「練習したとおりにやれば、大丈夫ニャ」
「……イエッサー」
カミーユちゃんがうなずいた。
妙な返事を教え込んだらしい。あとで、直してやらないと…
魔女っ子スタイルのカミーユが、先端に大きなハートのついた杖を構えた。
ちいさな体に、急速に、魔力が集まる。
いくらか、金色の光が混じっているのは、『エリクサー』からの魔力だろうか。
特別製の身体は、桁違いの魔力で満たされてゆく。
それは、素人にも、はっきりと感知できるレベルだ。
「なんだ、この魔力は!」
「何が、起きている!」
「まさか、魔王なのか!」
いや、魔王はちょっと、大げさだと思う。
カミーユちゃんが魔法を発動する。
オレ以外では、カミーユにしか使えない魔法だ。
『空間魔法…』
『転移ゲート、展開』
オレたちの周りに、いくつも魔法陣が、つぎつぎと描かれていく。
そして、
八つの魔法陣が、オレたちを囲み終わった時、それぞれのゲートから魔物さんたちが、次々と飛び出してきた。
「ああ、これでやっと、肩こりから解放される…クマ」
「やっぱり、デスクワークは、腰にくる…ケロ」
「ずっと、座りっぱなしだったからね…ウサ」
そうなのだ。
彼らは、主に、研究職であり、オペレータだ。
それで、さいきん、けっこう、肩こりや腰痛など、とにかく、ストレスがたまっていたのだ。
「ひとり、10人まで…ウサ」
「ズルは、だめ…ケロ」
「わかってる…クマ」
「「「じゃあ、戦闘開始…クマ、ケロ、ウサ」」」