第17話 辺境の街の危機
今回は、大半なので、続けて、次のお話も投稿します。
オレたちは、もちろん。
ただ、異世界ドライブを楽しんでいるわけではない。
少しでも早く、辺境の街に到着しようとしていたのだ。
なぜ、オレたちが辺境の街へと急いでいるのか。
その理由を説明するには、すこし時間をさかのぼる必要がある。
今朝はやく、城門で待ち伏せしていたシスターから緊急の呼び出しを知らされ、あわてて教会へと足を運んだオレたちを待っていたのは、沈痛な面持ちの大司教のばあちゃんだった。
「ミルフィール領が、やばいことになったのさ」
「イ、イレーヌ姉さまに、何かあったのですか?」
セシリアの知り合いがいる領地らしい。
「あの子は、まだ大丈夫だと思うけどね。それも、時間の問題さね。…いや、もしかするともうすでにミルフィーユの街は、魔物に落とされているかもしれない」
ばあちゃん大司教は、呆然とつぶやいた。
ミルフィーユというのは、『ミルフィーユ鉱山』と『魔物の森』を背後にひかえた辺境の街だ。
いま、この世界では魔物が異常繁殖していた。
数だけではない。
より強力な魔物も、増え続けている。
そうした魔物の被害をまっさきに受けたのが、辺境のミルフィーユだった。
王国はこの街に、騎士団をはじめてとして魔道士や兵士を300名あまりつぎ込んでいた。
しかし、この程度の数では、魔物の討伐はおろか。街道の維持すら危うくなっていた。
そこで、王国は、さらに300名からなる王国軍を派遣した。
これで、しばらく持ちこたえられるかと誰もが期待した。
だが、何を思ったのか。
合流して、600名余りとなった軍が、急遽ミルフィーユ領から撤退しはじめたのだ。
王国はミルフィールを見限ったと、街の人々は慌てた。
王国軍が撤退してしまうと、領主のわずかの私兵と冒険者しか残らない。
いや、冒険者だって命は惜しい。
ほとんどの冒険者は街から逃げてしまうだろう。
そうなったら、とうてい街を守れるはずがなかった。
場合によっては、街自体は頑丈な城壁で守ることができるかもしれない。
しかし、街道を魔物にふさがれては、いずれは食糧がつきてしまう。
今なら、撤退する王国軍に守られながら、街から脱出することができる。
ひとびとは我先にと荷物をまとめ、王国軍とともに街を捨てて去ってしまった。
残ったのは、辺境伯一族とその郎党。
いくつかのギルドのマスターと職員など。
立場上残らざるを得なかったとはいえ、ミルフィーユの街への愛着を捨てきれない人々だった。
「この情報ですら、もう一週間も前の情報なのさ」
それでも、結果的にではあれ、街に残る人々の数はきわめて少数だ。
備蓄した食糧で、しばらくはもつだろう。
それでも…
「一刻も早く、ミルフィーユ領に向かって欲しいのさ」
ばあちゃん大司教は、そう締めくくった。