第169話 おひさしぶりね
短いですけど、ブックマークや評価をつけてくださった方が、また、ちょっとだけ増えたので、調子に乗って、書いてみました(笑)。ほんとうに、ありがとうございました。
じいちゃんが、小瓶の真っ赤なリボンを解いたとき、それは始まった。
金色の液体は、金色の煙となって、じいちゃんの体を覆った。
それから、じいちゃんから離れると、ニンゲンの形を取り始めた。
「おお…、おまえは……」
それは、うつくしい女の姿になった。
じいちゃんの眼の前でふわふわと浮かんいる。
「あなた、おひさしぶりね…」
やさしい声だった。
「お元気……そうには見えないわね。また、変なものでも食べたのかしら?」
ジジイは、さり気なく目をそらした。
……ほんとに食ったのか、ジジイ。
ルネちゃんは、その若い女の姿を見て、すぐに祖母と気づいたらしい。不思議なことだった。
「ルネのせいなのだ。おばあさま…」
おじいさまは、やめなさいと言ったのだ。
「そういって、『毒味』と言って、先におじいさまが食べたら…」
そこまで言うと、泣き出してしまった。思い出したのだろう。
それにしても、
『毒味役』などいくらでもいるだろうに。
よほど、食い意地が張ってるんだろうか。
…………
…………
じいちゃんと、その美しい女は、しばらく言葉を交わしていた。
「若い頃の、お前の姿を、もう一度見られるなんて……」
じいちゃんの目に、涙が浮かんでいる。
「わしは、もう、なんも、思い残すことはない…」
「さあ、わしを天に召しておくれ……」
そういって、すがすがしい顔で、女に両手をのばした。
「お、おじいさまっ!」
ルネちゃんが、いっそう泣き出した。
「宰相さまっ!」
イケメン中年まで、あわてて止めに入っていた。
さっきまで、喉元に、剣をつきつけてたのに…
「あなた…」
うつくしい女が、すこしきつい口調で言った。
「冗談はほどほどにしなさい…」
ルネが泣いてるじゃないの。
すると、
ジジイが、笑いながら言った。
「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ…、すまんのう、ルネ」
「ちょっと、場を盛り上げようと思ってのう…」
「「「「「「「「盛り上がるかぁーーーー!」」」」」」」」」」
さすがに、みんな怒っていた。
…………
…………
『エリクサー』の不思議な幻想も、そろそろ終わりを迎えるようだった。
じいちゃんは、名残惜しそうに、女の頬に触れていた。
「ああ、わかったよ……、待っていておくれ……」
そして、手を離すと、声を振り絞るように、そう言った。
うつくしい女は、もう一度やさしく微笑むと、金色の光へと姿を変え、じいちゃんの胸のあたりに、すうっと入っていった。
きゅうに、じいちゃんの全身から、どす黒いもやが立ち上る。
しかし、その黒いもやは、つぎつぎと光の粒子に変わり、そして、消えていった。
金の光が、すべて消えてしまったとき、さきほどまで、全身を覆っていた黄疸もすべて消えて、肌もつやつやになったじいちゃんが、そこにはいた。
『エリクサー』の治癒力は、本物だった。
まあ、いろいろと、首を傾げたくなることもあったが…
「お、おじいさま…」
ルネちゃんがかけよって、じいちゃんに抱きついた。
じいちゃんは、ルネちゃんの頭をやさしく撫でてはいたが、どこか物思いにふけっているようにも見えた。
…………
…………
こうして、
『皇帝ルネちゃんと薬草をさがそうクエスト』は、無事に終了した。
…………
ああ…
もちろん、
そのあと、まもなく、駆け込んできた大男によって、イケメン中年の娘が、すっかり元気になったことも、付け加えておかないといけないだろう。
それから、
ルネちゃんによって、罪を許された大男が、部屋の床を雑巾がけしていたことも……