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お嫁さん&魔物さんといっしょに、ムテキな異世界生活  作者: 法蓮奏
ゼリー帝国(カルシウム大陸)編
168/631

第168話 そろそろいいかのう

なんとか書けたので、投稿しました。



 「ま、まさか…!そ、それも……『エリクサー』なのか!」


 じいちゃんに剣を突きつけているイケメン中年が叫んだ。

 困ったことに、それほど悪人(づら)には見えない。


 ニンゲンは、どんなに体が大きくても、その人格は、ちいさな『顔』に表れる。


 『顔』というのは、ちいさいものだ。いくら頭部が巨大な人でも、1メートルを超えるひとはいないし、いたら怖い…


 また、いかな達人でも、太ももとお尻で、その女の人格を当てる者も、いないだろう。だいいち、顔を見ればわかることだ。わざわざ、太ももと尻を凝視して、何かを読み取ろうとする者がいるとすれば、ただの変態に過ぎない。


 つまり、まさしく、『顔』こそが、その人を象徴しているといって良い。


 さらに、その『顔』のなかでも、『眼』に人格が表れるものだ。

 鼻や口で人格をみるのは、『人相見』という専門職か、あるいは、イカサマ師だ。



 死にそうな高齢者に、剣を突きつけているのだ。

 客観的に見て、やってることは、悪辣あくらつなのだが、悪党の『眼』ではなかった。ただ、切羽詰せっぱつまって、必死なだけだった。



 「『エリクサー』のためか……」

 たずねたわけではない。つい口をついて出ただけだ。


 だが、

 

 「私には、君と同じくらいの娘がいてね」

 イケメン中年が、しずかに語り始めた。

 親ばかと思われるかもしれないが… 

 「ほんとうに気立てのいい、やさしい娘なのだよ」


 オレは、黙って聞いていた。

 このイケメンの娘なら、さぞかし美少女だろう。


 その娘が、

 「…日に日に、弱っているんだ」

 「最近では、話をするのも、苦しそうでね」

 それでも、決して、

 「つらいなんて言わないんだよ。いつもにこにこしていて…」



 …………



 「弱音のひとことくらい、いてくれてもいいのにね…」

 「わたしは、あの子の育て方を間違ったのだろうか…」



 …………



 …………



 だれも、何もいわなかった。

 この場には、軽々しく口を開くものはいなかった。



 …………



 「……まさか」

 陛下が、ほんとうに、

 「『エリクサー』を持ち帰られるとは思ってもみなかった…」

 「あの10階層までしか攻略できなかったダンジョンが、攻略されるなんて…」


 イケメン中年は、苦笑した。


 「『できるか、できないか』ではなかった。『やる』か『やらないか』だったのだ」

 「こんな幼い陛下が、必死でやり遂げたことを、愚劣な私は……」



 「わかった」



 オレは、イケメンの話をさえぎった。

 いま、この場では、『自嘲(じちょう)』も『自虐(じぎゃく)』も、意味はない。

 もちろん、正しく反省することを、オレは『自虐』などとは呼ばないが…



 「じつは、オレにも、魔物の『家族』が1000匹ほど居て…」

 みんな、オレやオレの知り合いのために、いつも働いてくれてるんだ。

 だから、オレは、

 「みんなに金貨一枚ずつでいいから、お小遣いをあげたいんだ」



 イケメン中年は、不思議そうな顔をしながらも、黙って聞いている。

 『魔物の家族1000匹』などと、さぞかし、馬鹿げた話だろうに。

 もともと、他人の話を聴けるおっさんなのだろう。


 「そこで……だ」

 オレは、金色こんじきに輝く小瓶を差し出した。

 「この『エリクサー』を、金貨1080枚で買わないか?」


 「「「「「「「「「「えーーーっ!」」」」」」」」」」」」

 この場の、だれもが、驚きの声を上げた。瀕死ひんしのじいさんまで…


 くっ…


 ちょっと、高すぎたのだろうか…

 なにしろ、オレは、この世界の物価とかしらないし…

 

 「…ほ、ほんとうに」

 イケメンが、震える声で言った。

 「()()()、金貨1080枚でよいのか…」


 えっ…


 まさか、安すぎたの…

 なにしろ、オレは、この世界の相場とかしらないから…

 

 でも、いまさら、ふっかけるのも恥ずかしいし……

 魔物さん1000匹って言ったのに、1680枚とか言いにくいし……

  

 「…お、おぅ…」

 オレは、ちからなく返事した。

 オレは、気の小さい男なのだ。



 …………



 「とにかく、これを飲ませてやってくれ」 

 イケメン中年に、『エリクサー』を手渡した。

 「おおかた、城門付近に停めてある、馬車の中にでも居るのだろう?」

 『覚悟』の上の凶行きょうこうなのだ。娘だけでも逃がせるようにしているはずだ。

 

 イケメン中年は、いっしゅん手をとめたが、

 「…すまない」 

 そう言って、大事そうに小瓶を受け取った。

 

 「オレが、届けよう…」

 ややふらつきながらも、大男が立ち上がった。

 そして、小瓶を貰い受けて、部屋から駆け出て行った。



 …………



 いかにもほっとしたように、イケメンは、深く息をついた。

 それから、剣を床において、ルネちゃんの前にひざまずいた。


 「陛下…」

 事がなったときには、自害する覚悟でおりました。しかし…、

 余計な詮索せんさくを封ずるためにも、

 「処刑していただくほうがよろしいかと…」

 

 そういって、両手を握り合わせて、ルネちゃんに差し出した。



 …………


 …………


 ルネちゃんは、黙って、イケメンを見つめていた。

 皇帝として、どうするべきか。一生懸命、考えているのだろうか。



 オレは、あえて口をはさんだ。

 「『エリクサー』の効果を確かめなくてもいいのか?」

 オレが偽物を渡した可能性もあるし、『エリクサー』では回復しない可能性もある。



 「そのことについては…」

 イケメンが、ゆっくりとオレのほうを見ながら言った。

 「……信用しているよ」


 それに、万が一、『エリクサー』では治らなかったとしても、

 「君が魔法で、何とかしてくれるつもりなのだろう?」

 そういって、ニヤリと笑った。


 なかなかどうして、食えないおっさんだった。



 「…こ、こほん」

 ルネちゃんが、せきばらいをした。

 考えがまとまったのだろう。

 

 真剣な表情で、イケメンを見ながら言った。 

 「そなたが死ねば、余が困る」

 「そなたは、余を困らせたいのか?」


 「め、滅相もございません!」

 イケメン中年が、必死で、頭を下げている。


 「ならば…」

 ルネちゃんは、ゆっくりと言った。

 「これまで以上に、余のために尽くすがよい」

 「それをもって、こたびのつぐないとせよ」

 

 いちおう、皇帝にふさわしい物言いだった、のではないだろか。

 それに、「この場の感情」やら「けじめ」とやらを、はかりにかけても、生かしておくべき重臣なのだろう。

 ちっちゃくて、かわいいけど、やはり皇帝だったらしい。


 

 そのときだった。



 「おおかた、落ち着いたようじゃの…」

 天蓋てんがい付きの大きなベッドから、じいちゃんの声が聞こえてきた。


 「ルネよ…」

 ルネちゃんのちっちゃな手に握られている小瓶を指差して言った。

 「わしにも、それを飲ませてほしいんじゃが…」

 「そろそろ、いいかのう?」




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