第167話 仲間は、仲間だよ
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「よく言った!さすが、アタシが見込んだ男だけのことはあるね!」
キタキツネが、細い目をきらきらさせて言った。
「「「「「「「「キツネがしゃべったぁーー!」」」」」」」」
まあ、ここは、驚くところだろう。
「いや、ただのキツネじゃねえ。尻尾を見てみろ!」
さっきの大男が、キツネっ子の尻尾を指さした。
みんなの視線が、キツネっ子のお尻に集まる。
キツネっ子まで、自分の尻尾を見ようと身をよじっていた。
「ま、まさか、九尾の狐かっ!」
喉元に剣を突き付けられながら、じいちゃんが叫んだ。
なんだ、けっこう元気じゃないか。
「き、九尾の狐?」
「ア、アタシの正体が、ば、ばれちまった…ようだ…ね」
そう言いながらも、さりげなく尻尾の数を数えている。自信がないのだろうか。
それにしても、
どうしたのだろう。やはり、オレたちの後を追って、ついてきてしまったのだろうか。
そんなことを思いながら、じっと、キツネっ子を見ていたら、
「ああ、忘れるところだった…」
そう言いながら、犬座りして、首に下げた巾着をごそごそしはじめた。もちろん、亜空間収納だ。
「これ、返してなかったから…」
キツネっ子に着せていた紺のワンピースだった。きれいにたたんである。
それから、カレー皿と、スプーンも取り出した。こちらは、ちゃんと洗ってあった。
「…おまえ」
オレは、ことばに詰まった。
どちらも、汚染物質となった可能性があったので、わざとおいてきたものだった。
キツネっ子は、にこにこしながら、皿の上にたたんだワンピースを載せて、前足で捧げもっている。
前足には、ちゃんと手袋をはいていた。
…………
…………
オレは、胸にちくりと、痛みを感じた気がした。
もちろん、エキノコックスが発症したわけではない。
…………
「そうか……、そうだな……」
オレは、右手を高く上げた。
「召喚、クマのお医者さん…」
みよーーーん。
空間がゆがむ。
どっすーーーん。
白衣を着て、聴診器を首から下げたクマの魔物さんが出現した。
クマさんたちは、基本的に『開発チーム』だが、『医療関係』も担当しているのだ。動物のお医者さんといえば、やはり、クマさんだろう。
「ジュンさま、来ましたわよ…クマ」
「「「「「「「「「「「………」」」」」」」」」」」」
まわりのひとたちは、あんぐり口を開けたまま、ことばをうしなっている。
転移だけでも驚異なのに、クマが白衣を着てしゃべっているのだ。無理もない。
オレは、キタキツネを抱き上げて、言った。
「この子を、検査してくれないか」
この子さえよければ、連れて帰りたい……から。
「検査…?」
クマさんは、怪訝な顔をした。
それから、オレが何を心配しているか、気付いたのだろう。笑いながら、
「ジュンさま…、この子は、わたしたちの『お仲間』だよ…クマ」
きっぱりと、そう言った。
「…仲間?」
どういうことだろう。オレは首をかしげた。
「仲間は、仲間だよ。ジュンさま…クマ」
クマさんは、オレからキタキツネを受け取ると、
「この子は、エッグに連れていくからね…クマ」
オレのリュックに触れて、転移を始めた。
「詳しいことは、後で、真白ちゃんにでも聞いて…クマ」
言い終わるころには、すでに、この場から消えていた。
あとには、カレー皿とワンピースが残った。
収納に入れようと持ち上げると、皿の中から『エリクサー』が、二本ほど転がり落ちた。金色の光が、ころころと床を転がっていく。
お礼のつもりで、持ってきたのだろう。なんとも律儀な子ぎつねだった。
赤いリボンの小瓶を追いかけていると、頭の上から、叫び声が聞こえてきた。
「ま、まさか…!そ、それも……『エリクサー』なのか!」
見上げると、イケメン中年がいた。
ベッドに寝ているじいちゃんに、剣を突き付けている。
…………
…………
くっ…、
…………
子ぎつねに気を取られて、忘れていた。いまは、取り込み中だった。