第166話 家族だから
ためしに、あまり行間を開けないで、ふつうに書いてみました。
すでに、帝都には、皇帝がダンジョンを制覇したという知らせが、届いていた。オレたちが、ダンジョンから戻ったときに、すぐに伝令を走らせたのだろう。
ダンジョンだから、『祝制覇ムード?』とでもいうのだろうか。
街なかが、異様な活気で溢れていた。すでに、酒盛りを始めているような、気の早い連中もちらほら見受けられる。
近衛の子たちが随行していたお陰で、貴族専用門から、ドライブスルーで帝都に入ることができた。
しかし、もし、助手席のチャイルドシートに鎮座している皇帝さまを見られたら、祝福しようとコーフンしている民衆に、車を力づくで停められてしまうかもしれない。さすがに、民衆を跳ね飛ばすわけにもいかないし…。
ルネちゃんには、亜空間のお部屋に隠れてもらって、車を城へと走らせた。
『走る鉄の箱』に、ひとびとは目を丸くしていたが、近衛に囲まれていたお陰だろうか。それほどの騒ぎにもならずに、城内にたどり着くことができた。
「こっちだ!」
ルネちゃんが階段を駆け上っていく。おじいちゃんとやらが、すぐ目の前にいると思うと、気が急くのだろう。
オレも、近衛の子たちも、走って後を追った。
おじいちゃんの部屋なのだろう。
背伸びをして、ドアノブに手をかけていたルネちゃんが、扉の向こうに消えていった。いよいよ、おじいちゃんとの対面だ。これで、『ルネちゃんと薬草を探そうミッション』もぶじにクリアとなるだろう。
そんな感慨にふけりながら、部屋の中に入ったオレたちを待っていたのは、喉元に剣を突きつけられたじいちゃんの姿だった。
ルネちゃんは、部屋の真ん中で、『エリクサー』を握りしめていた。何が起きているのか、とっさに理解できないのだろう。
「なにをしている!」
後から入ってきた近衛の子が、剣に手をかけようとした。目の前で、病人が剣を突きつけられているのだ。いっしゅんの判断としては悪くはなかった。
しかし、それを待ち構えていた大男が、扉の横に潜んでいた。剣を抜こうとする少女の腕に、大剣が振り下ろされる。
かきぃーーーーーん!
オレは、結界を張った腕で、振り下ろされた大剣を弾き返した。美少女の腕を切り落とそうとするなど、許すべからざる愚行だ。
弾かれた剣の反動と、驚愕で、大男が体勢を崩す。
オレは、そのまま、その腕で大男を、殴り飛ばした。もちろん、めちゃめちゃ加減したけど…
どぉーーーーーーん!
「ほう…」
オレは、素直に感心した。
大剣ごと壁に叩きつけられた大男が、がっくりと膝をつきながらも、意識を保っていた。両腕をクロスして、オレのパンチを受け止めたのだ。背中を壁に打ち付けてワンバウンドしたのに、大したものだ。
「くっ…、バケモノかよ…」
口ん中が血だらけだぜ…、そういいながら、ぺっと床に血を吐いた。
汚いやつだ。誰が、お掃除すると思ってる。あとで、こいつに自分で掃除させてやる。
「こんなにかわいい女の子の腕を切り落とそうとしたんだ」
「とうぜんの報いだ…、それに…」
オレは、きっぱりと言ってやった。
「お前みたいな馬鹿でかいやつに、バケモノ呼ばわりされる覚えはない。お前こそ、オークさんの仲間だろう」
こいつは、3メートルくらいありそうだった。すでに、ヒト科とは呼べない。
すると、
「そ、そんな…、かわいいだなんて…」
さっきの美少女の近衛が、頬に手を当てて、くねくねしていた。かなりの美少女なのに、言われ慣れていないのだろうか。ふつうの女の子ぽいところに好感が持てた。
まあ、いまは、照れてる場合じゃないとは思うが……
こんどは、
「オークさんだと…」
『さん』付けしたほうに、反応してきた。オーク種にカテゴライズされたのは、問題ないのだろうか。
「けっ、てめえこそ、オークに『お友達』でもいるんじゃねえのか」
そんなことを言い出した。
「ああ、いるさ。『お友達』というより、『家族』だな」
そうなのだ。魔物さんたちは、すでに、家族のようなものだ。
だいいち、そのへんのニンゲンより、よほど『人格者』なのだから。
「「「「「「「「家族…?」」」」」」」」」」」
なぜか、周りのひとが、いっせいに反応した。そんなに珍しいのだろうか。
そのときだった。
「よく言った!さすが、アタシが見込んだ男だけのことはあるね!」
なぜか、オレのあしもとに、キタキツネモードのキツネっ子がいた。
懐いて後を追ってきたのだろうか…