表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お嫁さん&魔物さんといっしょに、ムテキな異世界生活  作者: 法蓮奏
ゼリー帝国(カルシウム大陸)編
165/631

第165話 知らないほうがいいこともある



 思えば、うちのダンジョンを踏破する時も、最初のボス部屋から最下層のボス部屋まで、ショートカットしてしまった。


 それでも、いちおうは、メカドラゴンとの、それなりに激しいバトルがあった。 


 ところが、こんかいは、バトルなど一度もしていない。


 それどころか、やったことといえば、キツネっ子にカレーを食わせて、『エリ草』料理をいくつか作っただけだ。

 あとは、紺のワンピースもプレゼントしたっけか…。『パ○ツなし』だったが…



 このダンジョンは、これまで、10階層までしか攻略されていなかったという。


 しかし、これだけの街を構えているのだ。

 さぞかし、おおぜいの冒険者が、日々、このダンジョン攻略を目指して戦っているのだろう。



 そんな人たちに、


 『カレー食わせて、料理作って、ノー○ンでワンピ着せたら攻略できちゃった』


 …などとは、口が裂けても言えない。

 この世の中には、『知らないほうがいい真実』というものがあるのだ。


 オレは、すべてをちびっ子皇帝陛下にゆだねて、さりげなく、後ろに下がった。


 もちろん、ルネちゃんが、先の『ノーパンカレー』を暴露してしまうかもしれない。


 しかし、皇帝とはいえ、しょせんは、ちびっ子。

 民衆は、何かのジョークか、勘違いと聞き流してくれるだろう。


 それにしても、


 言葉遣いがおかしいから、最初は『残念系の美幼女』と誤解してしまったが、まさかの皇帝陛下さまだったとは。

  

 前にも言ったが、オレにとって異世界人は、等しく『現地人』に過ぎない。

 問題は『人柄』であって、『地位』など何ほどのものでもない。

 むしろ、皇帝だろうと何だろうと、(独身)美少女は、みんな平等に大切にするのが、オレのポリシーだ。



 …………



 あんじょう、ルネちゃんこと、ゼリー帝国皇帝は、あっというまに、街の人々に囲まれてしまった。


 もちろん、こういう時を狙ってくる暗殺者の類もいる。

 だから、ルネちゃんには、強力な結界を張ってある。

 うちの荷電粒子砲でもなければ、破れまい。


 結界内にいると、けっこう『包まれ感』があるらしい。

 ルネちゃんも、心細いことはないだろう。



 …………



 そのときだった。



 「た、頼む。道を開けてくれ!」

 「こ、近衛隊だ。頼む!」

 よく通る声が聞こえてきた。

 女性というより、『女の子』の声という感じだった。


 「おお、近衛このえの嬢ちゃんじゃねえか…」

 「みんな、道を開けてやれ!」

 ベテランの冒険者ぽいひとが、みんなに声を掛けた。 


 すると、


 人々が開けた道を、馬に乗った騎士たちが、進んできた。

 なるほど、みんな少女といった感じで、しかも、美形ぞろいだった。


 アイドル系の近衛なのか?

 いちおう、皇帝の近衛なのだろう。少し心配になった。

 まあ、怖そうなおばさん近衛より、ルネちゃんとっては親しみやすいのかもしれないが…



 そういえば、シャルにも近衛ぽい、(美)少女騎士団がいたっけ。


 あの魔物に囲まれた事件のあと、ふつうの女子学生に戻ったと聞いている。

 オレが、シャルといっしょに学院に通うことになったので、護衛から解放されたのだ。


 もともと帝国魔法学院の学生だったが、シャルの警護についてからは、学院に通えなくなっていたらしい。

 晴れて学生に戻ることができて、本人たちは喜んでいたと聞いている。


 うちのメカドラゴンのせいで、とんでもなく怖い目に合わせてしまったのだ。

 少しでも彼女たちの役に立てたのなら、幸いだった。



 …………



 彼女たちは、ルネちゃんの前に到着するなり、馬から飛び降りて、駆け寄ってきた。

 

 「「「「「「陛下っ!」」」」」」」


 近衛の子たちは、さっと、ルネちゃんの周りを囲んだ。

 街の人たちから、ルネちゃんを守るような形に見えてしまうが、しかたがないだろう。

 このあたりは、きちんと訓練されているようだった。


 「…よかった。とても心配していたのですよ」

 「少年に、抱きかかえられて帝都を出たと聞いたので…」

 そういいながら、心底、ほっとした顔をしている。


 「ほんとうに、よかった」

 「よく、ご無事で…」

 「ご無事でなによりです」


 そんなことを言いながら、かわるがわる皇帝陛下を抱っこしていた。


 ふっ…


 近衛という立場を利用して、ルネちゃんを『抱っこしほうだい』とは。

 考えることは、オレと変わらないのだな。



 …………



 ひととおり、みんなに抱っこされて、落ち着いたところで、

 ルネちゃんが、語り始めた。

 

 「すまぬな」

 「どうしても、おじいさまに薬草を採ってきたかったのだ」


 でも、 


 「ほら、このとおりだ…」

 そういって、赤いリボンを結んだ小瓶こびんを高くかかげた。

 液体から放たれた金色の光が、きらーーーんと、あたりに広がった。


 「「「「「「「「おおおおーーーーーーーっ」」」」」」」」」」


 「「「「あれが、『伝説のエリクサー』か!」」」」


 「伝説は、ほんとうだったのだな…」

 

 周囲のひとびとが、どよめいている。

 やはり、『エリクサー』は、伝説級の品らしい。

 これなら、魔物さんのお小遣いも稼げそうで、なによりだ。

 


 まさか、広い畑いっぱいに生えている上に、余りすぎて、魔物でさえ食べ飽きている、などとは、想像もつかないだろう。


 真実というものは、ときに、残酷なものだ。

 オレは、ぜったいに、余計なことは言わないと、心に誓った。




 本格的なお祝いは、明日、帝都で行うことなったらしい。

 自国の皇帝が、ダンジョンを制覇したのだ。

 みんなで盛大に祝いたいのだろう。


 この場はいったんお開きとなった。

  

 何人もの冒険者たちが、オレに何か聞きたそうにしていたが、ルネちゃん皇帝に、手柄を譲るかのように後ろに控えていたのだ。

 

 ここで、おれに、話しかけるのは、無粋ぶすいとおもったらしい。

 ざんねんそうな顔をしながら、解散していった。


 

 …………



 危機は去った。

 

 ダンジョンを攻略したのに、なんて謙虚な少年なのだろうと、みんな思ったに違いない。


  

 …………


 

 帝都までの帰り道は、アイドル系の近衛たちの馬に合わせて、いくぶんゆっくりになった。

 

 ルネちゃんは、さっさとじいちゃんに、『エリクサー』を届けたいだろうが、ここでまた、近衛を置いてきぼりにはできなかった。


 オレは、あまり近衛を引き離さないように、ときおりバックミラーで確認しながら、街道を走っていた。



 ルネちゃんの面倒をみているうちに、『エリクサー』も手に入った。

 異世界に来て、はじめての一人旅だったが、ここまでは、ほんとうに順調と言えた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ