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お嫁さん&魔物さんといっしょに、ムテキな異世界生活  作者: 法蓮奏
ゼリー帝国(カルシウム大陸)編
164/631

第164話 陛下、なぜ、このようなところに…


 「では、さっそく、おじいさまに届けるのだ」

 ルネちゃんが、すっくと立ち上がった。


 オレも、魔物さんたちのお小遣い用に、『エリクサー』をもらった。

 ルネちゃんに頼まれるままに来てしまったが、結果的に、手に入ってしまった。


 うちのダンジョンでも栽培できるように、何株かもらっていこうかと思ったが、やめておいた。

  

 ダンジョンの最下層、キツネっ子の住まいの前には、広大な『エリ草畑』が広がっている。サラダごときで、食べ切れるものではない。

 

 もしかして、このダンジョンが、未だに10階層までしか攻略されていないのは、この畑から放出される大量の『エリ草』の始末を、魔物たちも請け負っているせいかもしれない。

 『エリ草』って意外と戦闘力にも影響してるんじゃないだろうか。

 魔物たちでさえ、ちょっと食傷気味しょくしょうぎみで、嫌がっているらしいが……


 

 「そ、そうか…、もう、行くのか…」

 キツネっ子の、金色の耳と、尻尾がしょんぼりしていた。

 皮肉なことに、尻尾がしょんぼりすると、お尻が隠れた。


 最下層は、地下50階層になるらしい。


 何しろ目立ちたくはない。

 自分で転移して、さっさと戻ろうとすると、専用のゲートに案内された。

 『見送りもしたいから…』と、泣きそうな顔で言われると断れなかった。


 

 専用ゲートに着くまで、オレたちも、キツネっ子も、ひとことも話すことができなかった。



 専用ゲートに乗ると、転送が始まった。


 キツネっ子は、しょんぼりうつむいたままだ。

 オレと、ルネちゃんが、光の粒子に変換されていく。

 

 オレたちが消える間際、キツネっ子が、きゅうに何かに気づいたように、口をぱくぱくさせていた。

 なんて言っていたのだろうか…

 なんとなく、置き去りにしてきたようで、後味が悪かった。



 ぴかーーーーーーーーーーーーーーっ!



 いっしゅんで、地上に出た。

 ちょうど、あの、劇場のような立派な入り口の前だった。


 光の粒子から、また、もとの体に変換されてゆく。


 「じゃあ、帝都に戻ろうか……」

 言いかけたときだった。


 「「「あっ…」」」


 入り口を警護している衛兵さんと、目が合った。

 

 それだけではない。


 「「「「「「「「「「「えっ!」」」」」」」」」」」」


 通りを行き交う、大勢の冒険者や店の店員たちが、目を丸くして、いっせいに、オレたちを見た。


 そもそも、ダンジョンの入り口前は、大きな通りが伸びており、繁華街になっていたのだ。

 

 例の姉弟にダンジョンに運んでもらったのは、夕方だった。

 探索は、さくさく進んだし、15階層からは、転移したのだ。


 だから、いまは、ちょうど、このダンジョンの街が、賑わう時間帯だった。



 しぃーーーーーーーーーーーーーーーーーーん



 賑やかなはずの通りが、いっしゅんの沈黙で静まり返っている。



 そのときだった。


 あの、キツネっ子なりに、気を使ってくれたのだろう。



 ひゅるるるるるるーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!



 ……………



 ……………



 どっかーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!



 ディズ○ーランドのように、盛大な花火が上がった。

 ダンジョンの街が、いっしゅん昼間のような明るさになった。


 

 ひゅひゅひゅひゅーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!

 どかどかどかどっかーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!



 ひゅひゅひゅひゅーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!

 どかどかどかどっかーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!



 黙って見つめ合う、オレたちと、街のひとたちを、つぎつぎと打ち上げられてゆく花火が、あかあかと照らしている。



 「や、や、や、や、や……」

 「や、やりやがったぁーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」


 どっかの若造が、声高らかに叫んだ。



 ちっ…


 オレは、思わず、舌打ちをした。

 ルネちゃんは、何が起きているのかわからず、呆然ぼうぜんとしている。


 「空間魔法……」


 オレは、トンズラするために、魔法を発動した。

 とにかく、この場から消えてしまえば、何とかなるに違いない。



 「「「へ、陛下っ!」」」

 「へ、陛下が、なぜ、このようなところに……」

 

 そんな声が聞こえてきた。


 

 陛下って誰?



 そう思って、声のする方を見ると、

 ルネちゃんが、兵士やら騎士やらに、捕まっていた。


 ……っていうか、むしろ、ひざまずかれてる?



 「「「「うおおおおおおおーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」」」」」

 

 目の前の、大勢のひとたちが、どよめいた。


 「「「「「陛下が、ダンジョンを踏破されたぞぉーーー!!」」」」」」

 

 街のひとたちの歓喜の声と、あいかわらず頭上に響き渡る花火の音のなか、


 オレは、すでに、トンズラ不可能な状況下にあることを理解した。



 


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