第162話 切迫した状況?
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「このアタシが気づかれるとはねぇ…」
「アンタたち、ただもんじゃないね…」
そんなことを言いながら、太い木の陰から、それは、ゆっくりと姿を現した。
………
子狐だった。キタキツネだろうか。
ただ、金色の毛並みと、やや多めの尻尾のせいか、『ポケ〇ン』ぽくも見える。
「おおっ!」
大喜びで、ルネちゃんが駆け寄った。
気持ちは、わかる。たしかに、かわいい。
しかし、オレは、さっとルネちゃんを抱え上げて、10メールほど子狐から、遠ざけた。
異世界だからと言って、エキノコックスがないとは断定できないのだ。
それから、リュックをごそごそして、目当ての品をみつくろった。
アイテムは、すぐにそろった。
一枚の皿を地面に置いて、とある缶詰のなかみを、きれいに盛り付けた。
『わんわんまっしぐら』で有名なドッグフードだ。
さらに、
ちいさな毛糸の手袋を、その皿の横に置いた。
やはり、子狐には、コレだろう。きっとよろこぶに違いない。
こう見えて、オレは、かわいいもの好きなのだ。
準備は万端だ。
オレは、小皿と手袋から、5メートルほど、離れてから、子狐をよんだ。
「よーしよし、おいでおいで…」
…………
…………
「くくくくくっ……」
「このアタシが、よもやこんな屈辱を受けようとは…」
このラブリーすぎる外見ではしかたがないかねぇ…
そんなことを言いながら、イヌ座りして、前足をぺろぺろしている。
これは、また、かわいい。
「いいじゃないか…」
見せてやるよ。アタシのほんらいの妖艶な姿を……
ちいさな子どもの前だよ。
「いきりたって、襲い掛かって来るんじゃないよ!」
「おお!変身もできるのか」
ルネちゃんが、いっそう盛り上がった。
ここまで、魔物の一匹もいなかったから、うれしいのだろう。
それでも、10メートルをキープしている。聞き分けのよい子だった。
「…ほう」
たしかに、アニメなどでは、キツネが変身して、
『ぼん、きゅっ、ぼん』な上に、たいそう色っぽくなるのがたくさんある。
オレは、身体の特定部位が、熱膨張する危険を感じた。
ルネちゃんの前である。
さっきは、『立たない』とか言われてしまったが、だからといって、『すっくと屹立する姿』を見せてよいものでもない。
もちろん、ズボンの上からだが…
子ぎつねは、近くに落ちていた葉っぱを、頭上に用心深くおくと、なにやら、呪文のようなものを唱え始めた。
子ぎつねのまわりに、ちいさな竜巻のようなものが出現した。なかなかの演出だ。
オレは、ルネちゃんが吹き飛ばされないように、抱きかかえた。
ごうっ!
いっしゅん、竜巻が高い天井に届くほどになったかと思うと、あっさり消え去った。
ひらひらと、さきほどの葉っぱが、落ちてくる。
その葉っぱが、ぽんっ!と煙になった。
すると、そこには、ひとりの少女が、一糸まとわぬ姿で立っていた。
おへその下のあたりをみる限り、女性であることは、まちがいなかった。
肌は、透き通るほどに白く、それでいて、耳と尻尾だけは、輝く金色のままだった。
『ケモノ属性』のないオレですら、いっしゅん息をのんだ。
が、
ちびっ子だった。
『ぼん、きゅっ、ぼん』の、最初の『ぼん』部分など、単なる平面としか見えなかった。
もしかすると、真横から目を凝らして見れば、多少の起伏は確認できるのかもしれないが…
くっ…
これで、熱膨張を起こすには、ある種のマニアックな『想像力』が必須だろう。
危機は、回避されたのだが……
どうして、こうも、オレの周りには、ちびっ子ばかり、うじゃうじゃ集まるのだろう。
「これは、なかなかのモンだねえ」
そんなことを言いながら、カレーを頬張っている。
数本ほどある尻尾を、左右に振ってるから、きっとおいしいのだろう。
さきのドッグフードは、『あとで、ブラックウルフ』にあげるからとか言いながら、『収納』に入れていた。もちろん、魔道具だ。
ちっちゃな手袋に関しては、しばらく、嬉しそうに眺めていたが、それから、さりげなくしまっていた。
やはり、正解だったようだ。
ラノベばかりでなく、ちゃんとした絵本も読んでおいてよかったと、つくづく思った。
野生動物とはいえ、人間の姿になったのだ。
全裸というわけにはいかない。
いまは、紺色のワンピースを着ている。
ただ、いわゆる『ノー〇ン』なので、すこし大きめのものを選んだ。
ちびっ子とはいえ、さすが、ちらちら見えるのも気まずい。
かといって、いくら、我が家の万能クローゼットでも、お尻から数本の尻尾を出せるような『穴あきパ〇ツ』などなかった。
無理にでもふつうの『パ〇ツ』を、はかせようとして、悪戦苦闘を始めたものなら、たちまち、お嫁さんたちに包囲されてしまうだろう。
オレは、即断した。
ただ、立派な尻尾があるので、ワンピースのお尻のあたりは、ずっとめくれている。
この状況が、続けば、いずれ、お嫁さんたちが、転移してくるだろう。
状況は、切迫していた。