第160話 姉ちゃんのとこに案内して
あまりにも、タイトルと内容が、食い違っていたので、タイトル変えました。
ずっと気になっていたので、ちょっとすっきりしました。
心やさしい『遊郭』のお姉さんたちのお誘いを、丁重に断ったあと、
オレたちは、ふたたび通りを歩いていた。
ダンジョンは、もう目の前だ。
もしかすると、すでに、オレの魔力の影響が、ダンジョン内に出始めているかもしれない。
知恵を絞れば、なにか、きっと、方法があるはずだ。
オレは、必死で考えた。
そのときだった。
「なあ、兄ちゃんたちは、これからダンジョンに入るんだろう」
きゅうに、話しかけられた。
みると、まだ、小さな男の子だった。
小さいと言っても、ルネちゃんよりは、ずっと大きい。
リュシアン君くらいだろうか。
「ダンジョンの案内は要らないかい?」
「ちいさな子を連れてんだから、『ダンジョン見物』だろう?」
「ちゃんと案内できるからさ。頼むよ」
なにやら、懸命に、セールスしている。
前にも言ったが、オレは、子どもだからと言って、やさしくするつもりはない。
むしろ、子どもは、天敵といってもよい。
例外は、美少女と、美幼女だけだ。ほかにはない。
ちなみに、リュシアンくんは、男の子だが、『美少女枠』に入っている。
オレが、怪訝な顔をして、男の子を見ていると、通りかかったおばちゃんが、声をかけてきた。
「もし、よかったら、雇ってやってくれないかい…」
「ちゃんと案内できる子だよ、アタシが保証するよ」
さっき立ち寄った『薬屋』のおばちゃんだった。
「オレ、小さいときから、姉ちゃんとダンジョンに通ってんだ…」
「…だからさ。雇ってよ」
…なんだと、『姉ちゃん持ち』なのか。
ならば、話は変わる。
おばちゃんが、さらに、解説した。
「お姉ちゃんがいるのも、本当なのよ」
「でも、ダンジョンで大怪我しちゃってね」
素直なかわいい子なのに、かわいそうに…
…なんですと
…『素直でかわいい姉』なのか
おばちゃんも何とかしてやりたかったが、大怪我でもあっさり治せるような上級ポーションは、品切れらしい。
ダンジョンの街なのだ。当然といえば、当然なのかもしれない。
それに、もし、在庫があったとしても、高額なものだ。
タダで、与えるわけにもいかないだろう。
道楽で、商売をやってるようにも、見えなかった。
…………
『素直なかわいい姉』のために、必死で働いているのだ。
雇ってやるくらいかんたんなことだ。
………
だが、オレは、男の子に言った。
「わかった」
「まず、その姉ちゃんのところに案内してくれ」
「「えっ!」」
おばちゃんまで驚いている。
男の子が、声を震わせて言った。
「に、兄ちゃん…」
「もしかして、うちの姉ちゃんを、狙ってんのか」
「ま、まさか、あんた…」
おばちゃんが、疑惑の眼差しを向けていた。
「…そうなのか?」
ルネちゃんまで、オレを冷たい目で見ている。
ほんとうに、意味がわかって睨んでるだろうか。この子は…
「…ほんとに、よかったねえ」
『薬屋』のおばちゃんが、泣きながら祝福していた。
年をとると、涙腺がゆるくなるのだろう。
オレを疑って、姉弟の住まいまで、同行して来たのだ。
まあ、住まいなどと呼べる場所ではなかったが…
たしかに、かわいい子だった。
聖女セシリアと、同じくらいの年頃だろうか。
さっきの男の子と抱き合って、泣いている。
治癒魔法で治したのだ。
ただ、オレの治癒魔法で、この街が被爆しないために、女の子に触れなくてはなかなかった。
そのときは、また、三人に疑惑の眼差しを向けられた。
ちょっと手に触れただけなのに…
かわいそうなくらい荒れた手だった。
でも、いまは、それもすっかりきれいになっている。
「ほんとうに、ありがとうございました」
「兄ちゃん、ありがとう」
ふたりで、泣きながら、なんども頭を下げている。
…ふむ
オレは、そんなふたりじっと見ながら言った。
「じつは、ふたりに頼みたい仕事がある」
そう言って、金貨を一枚、男の子に手渡した。
女の子に金貨を握らせたら、また、何を言われるか、わからないからな。