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お嫁さん&魔物さんといっしょに、ムテキな異世界生活  作者: 法蓮奏
ゼリー帝国(カルシウム大陸)編
158/631

第158話 誘拐じゃないから


 ぱりぽり……


 「…ほんに」


 ぱりぽり……


 「…ダンジョンというところは」


 ぱりぽり……


 「…たいくつな」


 ぱりぽり……


 「…ところじゃのう」



 ルネちゃんは、オレに抱っこされて、ポテチにかじりついている。

 もちろん、さっきの挙動不審きょどうふしんのちっちゃい子だ。


 つい、さきほどまでは、手をつないで、一緒に歩いていた。


 しかし、あっというまに、なついてしまって、疲れると、両手を広げて、抱っこを要求するようになった。

 最初の、あのおびえかたは何だったのだろう…



 いまは、ポテチを食するために、抱っこを要求してきた。

 袋から、取り出して食べるには、両手を使わねばならない。

 そうなると、手をつなげなくなるからだ。


 オレは、ちっちゃい子を野放しにするつもりなはない。

 『抱っこ』か、『手をつなぐ』か、ふたつにひとつだ。

*『おんぶ』は、いまは、おいていおく。


 ゆえに、この『ポテチ抱っこ請求』は、まことに、正当な要求なのだ。


 オレは、いま、ポテチに舌鼓したつづみをうつ美幼女を、抱っこしながら、ダンジョンを探索していた。




*************************



 いつものように、時間はすこしさかのぼる。



 「おじいさまが、死にそうなのだ」

 

 目を覚ますなり、いきなり、泣きそうな顔で訴えてきた。


 「…はい?」


 「余のせいだ…」

 「余の身代わりになって…」

 きゅっと、唇を噛みしめると、涙が頬をつたった。

 いまにも、泣き出しそうなのを、必死でこらえているのだろう。

 

 「余がなんとかせねば……」

 「余が、おじいさまを救わねばならん」


 誰にでもいいから、訴えたかったのかもしれない。

 たまたま、この時間帯では、ギルドには、オレしかいなかったから……


 「た、頼むっ!手を貸してくれ!」

 真剣な顔で、オレにすがりついた。


 …ふむ

 

 オレは、思った。

 

 いままでは、黙っていた。

 しかし、今度はいけない。

 他人にものを頼むのに、この口調はありえない。


 まだ、小さい子なのだ。

 誰かが、その都度、タイミングを捉えて、きちんとしつけてやらねばならないのだ。


 オレは、きっぱりと言った。

 「『手を貸してください』だろう」

 

 美幼女は、きょとんとしている。

 何を言われたのか、わからないようだ。


 オレは、ますます、この子の躾に、意欲を燃やした。

 けっして、『調教』のたぐいではない。


 オレは、さとすように言った。

 「他人に何かを頼むときには『…ください』と言うのが礼儀というものだ」


 美幼女は、小首をかしげた。

 「そうなのか?」

 

 「そうなのだ」

 オレは、断言した。


 「そ、そうか…、それは知らなんだ」

 意外に素直な子らしい。


 「で、では…」

 「て、手を、か、貸してくだ、しゃいっ!」


 ……噛んだ。


 もともと、涙目ではあったが、さらに、泣きそうになった。


 いずれにしても、

 

 こんなに、素直に、言うことをきいたのだ。

 引き受けないわけには、いかなくなった。


 オレは、美少女には、きわめて寛容なのだ。

 たとえ、それが幼女であっても… 



 

 美幼女は、『ルネちゃん』というらしい。

 オレは、ルネちゃんと手をつないで、意気揚々(いきようよう)と城門を出た。


 この街からは、やや離れているが、ダンジョンがあるのだという。

 ルネちゃんの欲しいものは、ダンジョンに行けば、すぐに見つかるらしい。

 ただ、とうぜん、ちびっ子ひとりでは、危険きわまりない。

 そこで、オレに頼んだらしいのだ。


 たまたま、オレがいたからよかったようなものの、相手によっては、誘拐されていたかもしれない。

 この子のためにも、あとで、そのあたりも、ちゃんとしつけてやらないといけない。

 オレは、心に誓った。

 美幼女を、危険にさらしてはいけないのだ。



 城門から出るとき、なにやら、衛兵さんたちの注目を浴びていたような気がした。

 まさか、とは思うが、『誘拐犯』と勘違いされたのだろうか。すこし不安になった。


 かといって、わざわざ、『誘拐じゃありませんから』などと言いに行けば、いっそう怪しい。

 

 ちゃんと、戻ってくれば大丈夫だろう。

 オレは、気にしないことにした。



 …………



 ルネちゃんは、まだ、ちいさい。


 ダンジョンまでは、やや距離があるらしいので、オレは、ワンボックスカーを出した。


 「おおっー!」

 ルネちゃんが、目を丸くしている。

 

 オレは、さらに、リュックから、『チャイルドシート』を取り出した。

 もちろん、リュックに接続している例のクローゼットからだ。


 せっかく、車に乗るのだ。

 外がよく見えたほうがいいだろうし、何より、安全だ。

 まあ、『神改造』まで、加わったこの車に、安全うんぬんを言っても、あまり意味がないのだけれど…


 オレは、チャイルドシートを助手席に括り付けると、ルネちゃんを抱っこして、きちんと座らせた。

 もちろん、体を締め付けないていどに、シートベルトもさせている。


 「すごい魔道具をもっておるの!」

 ルネちゃんは、おおはしゃぎだった。

 この子が言うには、馬車は乗り心地が悪くて、嫌いなのだそうだ。




 

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