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お嫁さん&魔物さんといっしょに、ムテキな異世界生活  作者: 法蓮奏
ゼリー帝国(カルシウム大陸)編
157/631

第157話 ふるふるふる…


 オレは、掲示板に貼りだされた『依頼』を、ぼんやり眺めていた。


 薬草の採取、魔物の討伐、それから、商人の護衛など、ラノベで見たようなものが、たくさんあった。

 


 そういえば、こうして、依頼を見ているとき、少年少女の若いパーティから、誘いがかかったりするような展開ってのも、ラノベにはよくあったなあ…


 そう思って、ふと振り返ってみると、ちいさな女の子がひとり立っていた。


 「ひっ……!」


 急に、オレが振り向いたせいか、おびえている。


 ちょっと、泣きそうだ。


 そのせいか、あわてて、逃げ出しそうとした。


 が、


 「…くっ」


 かろうじて、踏みとどまったようだ。

 うつむきながら、両手をぎゅーーっと握りしめている。

 

 気合でもいれてるんだろうか…



 「………た」


 「………た、た」


 なんとか、歯を食いしばって、ぐいっと顔を上げた。


 「……た、……たのもうっ!」


 

 顔は、かなりかわいいのだが、

 ざんねんな子らしい……



 …………



 …………



 オレは、きわめてさりげなく、出口へと足を向けた。



 「ま、ま……」


 「ま、ままま……」


 「…ま、待てぇ!」


 両手を広げて、オレの前に立ちふさがった。


 なんだか、涙目になっている。



 …………



 ……こまった



 こういう残念系のちびっ子は、苦手なのだ。



 オレは、カウンターの向こうに居並ぶ、若い女性職員に、目で救いを求めた。

 お姉さんは、先天的に、ちびっ子の扱いにけているはずだ。たぶん……



 …………



 ……くっ


 

 目を向けたしゅんかんに、ぜんいん、さりげなく下を向いた。

 いかにも、いそがしそうに、手元の書類をいじっている。

 いまのいままで、こっちを見ていたはずなのに……



 しかたがない……



 オレは、腹を決めた。


 まず、近くの長椅子に腰掛けた。


 それから、リュックを横において、なかから、『ソフトクリーム』をとりだした。

 

 ちびっ子の顔つきが、豹変ひょうへんした。

 

 ふっ…

 

 やはりな…

 

 ちびっ子というものは、ア・プリオリに、美味おいしい食べ物を察知できる本能をもっているものだ。

 


 オレは、『ソフトクリーム』を、ゆっくりと、右に移動させた。

 

 美少女ちびっ子の頭部も、同じ速度で、そちらに、回頭した。



 こんどは、



 『ソフトクリーム』を、やや速めに、左に移動させた。


 美少女ちびっ子の頭部は、やはり、やや速めに、そちらに、回頭した。



 最後に、



 ゆっくりと、上に持ち上げる…………と見せかけて、下に移動した。


 美少女ちびっ子頭部は、その動きを、完璧にトレースしていた。

 運動神経の発達した子なのだろう。


 …ふむ


 『食いつき』は、十分なようだ。


 オレは、『ソフトクリーム』を手にしたまま、自分のひざのあたりを、ぽんぽんとたたいた。


 「…くっ」

 

 ちびっ子美少女が、短くうめいた。

 

 彼女は、いま、究極の選択を迫られているのだ。


 オレは、もういちど、ひざのあたりを、ぽんぽんぽんと、三回叩いた。


 …………


 なすべきことは、なし終えた。


 あとは、待つだけだった。


 しかし、その前に、『ソフトクリーム』が溶けてしまうかもしれない。


 「効果範囲、設定」

 もちろん、可視化はしない。

 ここで、紫色の空間とかにすると、さすがに食欲が失せるだろう。


 「時間魔法」

 「遅延、発動」


 さあ、あとは、待つだけだ。






 いま、美少女ちびっ子は、オレのひざのうえに、ちょこんと座って、『ソフトクリーム』をぺろぺろしていた。


 シャルどころか、カミーユよりも、さらに小さい。

 オレも、きれいなこころで、その様子を眺めていることができた。


 この子は、燃えるような真っ赤な髪を、膝のあたりにまで伸ばしていた。


 せっかく、ひざの上に座っているのだ。

 オレは、こころゆくまで、その真紅の髪をなでていた。

 シャルに勝るとも劣らない、至高の手触りだった。



 …………



 …………



 ……はっ



 あまりの手触りのよさに、うとうとしていたらしい。


 あわてて、ちびっ子をみると、やはり、寝ていた。

 穏やかな寝息が聞こえる。


 昼の冒険者ギルドは、閑散としていた。

 往来を行き交う人々もまばらだ。昼時だからだろうか。

 たまには、こういうひとときもよいものだ。


 …などと感慨にふけっていていたが、



 そういえば、『ソフトクリーム』はどうなったのか。


 まさか、ちびっ子が、食べてる途中で寝てしまって、おれのひざの上に、べったりとか…



 おそるおそる、ちびっ子のちっちゃな手を見ると、『ソフトクリーム』は、完膚かんぷなきまでに消滅していた。


 コーンも含めて、みごとに完食したのちに、午睡ごすいへと移行したらしい。

 なかなか、しっかりした子だった。


 しかし、 しっかりした子にも、限度はある。


 オレは、リュックから、ウェットティッシュを取り出して、ちっちゃな唇の周りを、丁寧ていねいに拭き取った。



 見ると、この子の、ビロードのような青いワンピースのひざのあたりに、

 コーンのクズが、散らばっていた。

 

 …ふむ、


 ここは、生地を考えると、ウェットティッシュでの拭き取りは不適切かもしれない。


 

 …………



 オレは、熟睡しているちびっ子の、両脇りょうわきに手を入れて、目の前に、持ち上げた。

 

 すこし首を斜めに傾げて、だらんとしているその姿は、すこし、『布製のぬいぐるみ』を彷彿ほうふつとさせる。



 オレは、左右に、


 ふるふる…、


 ふるふるふる……、


 ふるふるふるふる……、


 …振ってみた。 

 

 …ふむ、正解だったようだ。



 ビロードぽいワンピに付着していたコーンの残骸ざんがいは、あとかたもなく落下している。

 まあ、かすかに、床を汚したが、許容範囲だ。


 オレは、ちびっ子をそのまま、たてに抱いた。

 もし、彼女が、よだれを流出したら、オレの肩に広がる可能性が懸念されるが、寝ているちびっ子というのは、こういうふうに抱くのがデフォルトなのだ。



 …………



 …………



 ああ、のどかなときが、すぎてゆく。



 …………



 …………



 …………



 それはそうと、



 オレは、この異国の地に、何をしに、来たのだったか…



 

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