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お嫁さん&魔物さんといっしょに、ムテキな異世界生活  作者: 法蓮奏
ゼリー帝国(カルシウム大陸)編
155/631

第155話 いままでがおかしい

ほんとうは、こんな感じで、お話を進める予定だったのですが、なぜか、じっさいに書き進めたら、ぜんぜん違うお話になっていました(笑)。



 オレは、ひとり、街道を歩いていた。


 あまり目立ちたくないので、茶色のローブを羽織はおっている。

 同じ理由で、ワンボックスカーも諦めた。


 しかし、これこそ、『異世界転移モノ』ではないだろうか。


 最初から、頭に、子猫が乗っかっていたり、

 涙と鼻水まみれの美少女聖女を、お姫様抱っこして街なかを走ったり、

 文字通りの神改造のワンボックスカーを飛ばしまくったり、

 とびきりかわいい女神が、首にぶら下がって抱きついたり、などなど…


 今までが、ちょっと、どうかしていたのだ。


 ああ、オレは、きょう、ほんとうに、異世界に来たのだ。

 

 そんな気分を満喫まんきつしながら、オレは、ぺットボトルの緑茶を、ぐいっとあおった。


 ……………


 のんびり歩いていても、まもなく、都の大きな城壁が見えてきた。


 はじめての街である。

 とうぜん、オレのことを知っている人間はだれもいない。



 「ちょっと、見て見て、アレ、『ハーレム使徒さま』じゃない……」

 ……などといった、やや品のないひそひそ話からも、解放されるのだ。

 

 ……ふう、

 

 コレだな、オレのもとめていたのは…



 オレは、心の中で、ひとりごちながら、帝都の城門前の行列に並んだ。

 

 城門前は、けっこう騒がしかった。

 何かあったのだろうか。 


 「おい、きょうの街道は、ほんとにおかしかったな」

 「おまえも、そう思ったのか…」

 「あら、あんたたちもかい…」

 「わしらも、そうじゃった…」


 よく晴れた空に、ときおり聞こえてくる小鳥たちのさえずり。


 オレには、平和そのものにしか見えないが、このあたりにも、何か『異常事態』が発生したらしい。

 オレは、情報収集も兼ねて、さざめく声に耳を傾けた。



 「なにしろ、一匹も魔物の姿がみえなかったんだぜ」

 「ええっ、あんたらもかい!」

 「おお、わしらもじゃぞ…」

 「魔物がいないのは、ありがたいことじゃが…」

 「いったい、何がおきてるのかねぇ」

 「大きな災害の前触れかもしれねえな…」



 ……………



 ……………



 まあ、たまには、そういうこともあるだろう。たぶん……

 オレは、身に覚えのないこと、と思うことにした。



 

 「この街は初めてかい」

 「ようこそ、帝都カーンテンに……」

 とても、フレンドリーな衛兵さんたちだった。

 

 そのうえ、オレが、身分証を持ってないと知ると、


 「この通りをまっすぐ行くと、右手に、冒険者ギルドが見えてくる…」

 そこに行けば、無料で、ギルドカードを作ってくれるんだ…

 「ギルドカードを身分証として使うためだけに、登録してる人もけっこういるんだよ」


 そんなことを教えてくれながら、仮身分証を発行してくれた。


 こうして、ふつうに、城門を通るのも初めてだった。

 いままでは、領主だの、王妃だのが、いっしょだったから、専用門を使ってたし、

 そもそも、転移していたので、門とか関係なかった。


 ちなみに、遊園地のような『入場料』は取られなかった。

 ラノベだと、銀貨一枚は取られていたので、さりげなく、ポケットに忍ばせていおいたのに…



 もちろん、オレは、すでに、身分証となるものを持っている。

 『帝都魔法学院』の学生証だ。


 しかし、とにかく、今回は、目立ちたくなかった。

 『帝国魔法学院』は、知る人ぞ知る名門なのだ。

 そんな学生証を、ここで、取り出すなど愚の骨頂こっちょうだった。


 

 帝都だけあって、冒険者ギルドは、石造りの立派な建物だった。


 いよいよだった。 


 おそらく、オレは、筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)とした荒くれたちに、

 『おいおい、弱っちい新人だな。オレさまが教育してやらねえとな』

 …とかなんとか言われて、からまれるだろう。


 あるいは、


 気の強そうな、美人系の剣士に、

 『登録の試験なら、アタシが相手をしてやるよ。かかってきな』

 …とか言われて、剣を交えているうちに、脈絡みゃくらくもなく、彼女の豊満な胸に、オレの顔をうずめているかもしれない。


 ああ、テンプレがオレを待っている…

 

 オレは、冒険者ギルドに足を踏み入れた。



 そのときだった。



 『ニンショウ、カクニン。マスター…トウロク、カンリョウシマシタ』

 あの、機械的な声が、ギルド内に、響き渡った。


 

 …………



 ……くっ


 

 オレは、いっしゅんで、ギルドから飛び出した。

 戦闘ですら使ったことがない、縮地しゅくちをつかったのだ。

 そして、扉の横に身を隠していた。 


 今の声は、もちろん、『真白』ではない。

 いま、あの子は、人間のボディをもって、オレの家で暮らしている。


 代替だいたい用のAIで、『真白コピー』って名前にしたんだっけ…

 

 それにしても、マスター登録なんて、一回でいいだろうに…。

 ご丁寧すぎるのも困りものだった。



 ……………



 数分ほど、間をおいた。


 もう、マスター登録は、完了したのだ。

 きっと、大丈夫だろう。


 オレは、ふたたび、ギルドに足を踏み入れた。

 

 ギルド内では、職員の女の子たちが、顔を見合わせて話していた。


 「ねえねえ、いま……」

 「『マスター』とか、『トウロク』とか、聞こえなかった」

 「そうよね。わたしも聞こえた」

 「おかしいわね。どこから聞こえてきたのかしら…」

 

 みんなで、首を傾げて不思議そうにしている。


 オレは、背中に、冷たい汗が流れるのを感じた。


 しかし、ここで、立ち止まるのも、不自然きわまりない。


 オレは、いかにも、初めてギルドに入った新人さんぽく、きょろきょろしながら、カウンターへと歩いていった。



 そのときだった。



 目立ちたくないあまり、壁際を歩いたのが、まちがいだったのだろう。


 ういーーーーーーーーーーーーーーーーーーん

 

 扉が、ゆっくりと開いた。



 ……………



 ………くっ


  

 オレは、ふたたび、縮地で、壁際から飛び退いた。

 いまのオレの身体能力なら、ぜったいに、目で追うことはできないだろう。


 「あ、ああああ、開いてるぅーーーーー!」

 「『開かずの扉』が、開いてるよぉーー!」

 「いったい、何が起きたの!」

 

 職員の女の子たちが、立ち上がって叫んでいる。

 とんでもない騒ぎになっていた。


 

 ……………



 「オオ、イッタイ、何ガ…!」

 オレも、ともに、驚くことにした。



 すこしすると、



 ういーーーーーーーーーーーーーーーーーーん


 扉が、しまった。


 …………


 ま、まあ…、自動ドアとは、えてして、そういうものだ。


 …………


 「いま、たしかに、開いてたよね…」

 「うん、ぜったい開いてた!」

 「どうして、開いたのかしら…」

 女の子たちの動揺は、なかなか収まらなかった。


 そのときだった。


 ぱんぱんっ!


 小気味のよい、音が響いた。

 手をたたいた音のようだ。


 「扉なんだから、開くこともあるさ!」

 「もう、仕事に戻りなさい!」

 きりっとした女性の声だった。


 声のした方を見上げると、

 やや胸の開いた白いブラウスを来た若い女性が、カウンターの奥の階段に立っていた。

 騒ぎを聞きつけて、いま、二階から降りてきたのだろう。


 「あっ、ギルマス…」

 「それも、そうね…」

 「まあ、そうよね…」

 「し、仕事しよ…」


 まさしく、鶴の一声だった。


 女の子たちから、浮ついた雰囲気がさっと消えていた。



 『開かずの扉』が初めて開いたというのに、これで、納得するのも、どうかと思うが、それだけ、あの美人には、統率力があるのだろう。


 女の子たちが落ち着いたのを確かめると、

 美人は、ふたたび、二階へと上がっていった。



 オレは、形の良いお尻が、色っぽく左右に揺れながら、階段の上に消えていくのを、じっと見送っていた。





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