第153話 治癒ではなく、転移とは…
【もう少し、第三者視点がつづきます】
「それでは……」
セーラさまも、ライムさまも、
「たとえ、大神さまでも、救えないとおっしゃたのですね」
アルベールが身を乗り出して尋ねた。
「ええ……、そうおっしゃっていたわ」
「だから、せめて、天国に召されてくれれば、と思ったよ」
ふたりとも、顔をこわばらせて、言った。
『まだ、生きている』と教えられたときの喜びも、
『大神さまでも救えない』と告げられたときの悲しみも、忘れはしない。
そうなると、
「ジュン殿の力は、すでに、大神さまをも、超えたと、言わねば、ならぬかのう…」
学院長は、言葉を選びながら、ぽつりぽつりと言った。
神への不敬にも等しい発言である。慎重になるのも無理はない。
…………
今回の『交流交歓会』は、誰が考えても、罠の可能性が高かった。
クラスメートを人質に取られて、ジュンの身に危険が及ぶことも、ありえないことではない。
しかし、敵国とはいえ、現国王も、王妃も、自分が手ずから育てた教え子であった。
たとえ、甘いと言われようと、彼には、ふたりを心底疑うことができなかった。
だから、王妃が『交流交歓会』の話を持ちかけてきた時、何か言うに言えない深い事情があって、自分に助けを求めているのではないと疑った。
もし、そうであるなら、なんとか力になってやりたかった。
彼は、魔導の研究者であると同時に、教育者だったのである。
それに、彼には、どうしても、ジュンが、苦境に立たされている姿が、想像できなかったのである。その上、いまは、底しれぬ力と技術をもった配下まで加わっている。
ゆえに、学院長は、ジュンの力を借りることにしたのであった。
しかし、彼の憶測を伝えるわけにもいかなかった。
だから、結果的には、ジュンはもちろん、賢帝たちをも騙したようなことになってしまったのは、否定できない。
それでもなお、あの異世界の少年を信じて、頼ったのは、正解であったと、つくづく思った。
……………
「状況だけを考えれば、そうなりますね」
アルベールは、腕組みをして、考えこんだ。
「それにしても…」
「『治癒魔法』ではなく、『転移』とは……」
思えば、いま、ここにいる大人は、ぜんいん、魔法学院の卒業生であった。
主席のアルベールはもちろんだが、誰もが、己の身分にふさわしいだけの成績を残していた秀才であった。
「いったい、どこに転移をして、何をしてきたのでしょうね」
アルベールの言葉を聞きながら、誰もが、カミーユに目を移した。
奇跡の復活を果たした少女は、母親の腕のなかで、すこやかな寝息を立てていた。
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【ここからジュンの視点に戻ります】
「……であるからして」
階段教室に、いつもの講師の声が響いていた。
オレの耳には、それなり美少女たちの、ささやきが、聞こえてくる。
「ねえねえ、聞いてはいたけど……」
「ほんとに、ふえたのねえ……」
「すごくきれいな子ばっかだねぇ………」
「やっぱり、百人まで、目指してるのかしらね……」
「あのワンパーク王国で、すごくちっちゃい子も加わったらしいよ……」
「えーーっ、もしかしてロリ○ンなの」
いろいろ、話のタネは尽きないらしい。
たしかに、増えたといえば、言えないこともない。
いま、ここにいるお嫁さんだけで、
①『女神セーラ』
②『シャーベット王国第一皇子派領袖長女_クレア』
③『ダンジョン四姉妹_千春』
④『ダンジョン四姉妹_千夏』
⑤『ダンジョン四姉妹_千秋』
⑥『ダンジョン四姉妹_千冬』
⑦『元クレープ王国皇女_リュシー』
一時的に、辺境領を『クレープ王国』としたが、まもなく住民とともに、ミルフィーユ領に加わるらしい。
⑧『冒険ギルド地下に転移してきた_真白』
……8名ほどいた。
オレは、お嫁さんたちを、眺めているのが好きだ。
ほんとうに、信じられないほど、きれいな子ばかりだった。
まあ、『ふつうの人間じゃない子』が、6人もいるのだ。
とうぜんといえば、とうぜんだった。
しかし、一方で、『人間チーム』の、クレアや、リュシーも日に日に、輝きをましているように思えた。
まあ、魔力が強く大きくなっているのは確かなようだ。
まだ、なにも、エッチなことをしていないのに、不思議なことだった。
これで、『夫婦の営み』が開始されたら、彼女たちは、『魔王』なみになってしまうのではないかと、ひそかに、不安を覚えていた。
「いまごろは、ジュンくんの家で、『同窓会』かな……」
クレアが、ぽつりと言った。
あの人たちは、そろいもそろって、学院長の教え子だった。
それだけ、この世界では、『帝国魔法学院』と学院長が、重要な役割を果たしているのだろう。
「ジュンくん、ジュンくん……」
「カミーユちゃんと遊ぶの楽しみだねぇ…」
セーラは、シャルも、リュシアンもかわいがっていたが、さらに、ちっちゃい子が増えて、うれしいようだ。
「やっぱ、昔のアニメとか、全盛期のギャルゲーとか、かなぁ……」
なにやら、嬉しそうに、ひとりごちている。
「セーラ……」
お前は、いったい、あの幼い子に、何を教えようとしているのだ。
いちおう、女神だろうに……