第147話 にいちゃん、あれ見て!
ふたつ続けて投稿します。
「ふんっ!生意気な小娘め!」
ヤセの変態貴族が、『揚陸艇』の女の子を睨みつけた。
女の子たちは、いっせいに、悲鳴をあげた。
「「「「「「「きゃーー!、こわーーい!」」」」」」」」」
「「「「「「「……………クスクスクス」」」」」」」」」」
……………
……ナメきっているらしい。
すると、
「こここここ、小娘がぁーーーーーっ!」
ヤセ変態貴族が、青筋を立てて、ニワトリ化しはじめた。
それから、
何かに気づいたような素振りをすると、いきなり、オレを睨みつけた。
「そ、そうか!」
「貴様が、『使徒』などとホラを吹いている小僧だな!」
まあ、違わないけど、コレって……
「まず、貴様から、血祭りにあげてやろう!」
「真の恐怖というものを、知るがいい!」
かんぜんに、八つ当たりだとおもう…
ヤセ変態が叫んで、何か胸元から取り出した。
「笛……?」
オレは、首をかしげた。
『笛』の形をした『最終兵器』だろうか?
「ライムちゃん、アレって……」
セーラが、めずらしく驚いている。
「そうですニャ!あれこそ『龍笛』ですニャ!」
まさか、実在してたとは、思わなかったニャ!
ヤセ変態貴族は、『龍笛』を高々と掲げて、叫んだ。
「ひゃはははははははーーーーっ!小僧、恐怖に泣き叫ぶがいいっ!」
ちょっと壊れたみたいだ……
気の毒に……
ヤセ変態は、オレに向かってニヤリと笑うと、
『龍笛』とやらを、力いっぱい吹いた。
ぴぃぃぃぃぃぃひょろろぉぉぉぉぉぉぉーーーーーー!
……………
なかなか、風情のある音色だった。
……ちょっと、感動してしまった。
……………
王城の中庭の上空に、大きな空間の歪みが出現した。
「大質量の転移を確認、離脱する……ウサ」
みるみるうちに、『揚陸艇』が上昇して、王城から距離をとった。
すばやい判断だった。
「主砲発射準備……ウサ」
回頭しながら、機体正面の外壁を左右に開いている。
そこから、大きな砲身が、ゆっくりと現れた。
「マスタージュンの、射撃命令があるまでは、待機……ウサ」
いやいや、
撃ったら、地形変わるって言ってたぞ……
こんなとこで撃っちゃだめだろう……
大きな空間の歪みから、巨大な翼が伸びてきた。
なるほど、ドラゴンのようだ。
翼の次には、大きな足が出現して……
ずっしーーーーーーーーーーーーーーん
真っ赤なドラゴンが、その姿を地上に現した。
「総員、場内へ退避!急げっ!」
ついさっきまで、王妃の美女おばさんと、ちゅーちゅーしていた男だ。
魔法だろうか、中庭に響き渡る声で、叫んだ。
兵士たちが、全力で、城内へと駆けていった。
すばらしい逃げ足だった。
「古代龍ニャ……」
ライムが、ドラゴンを見上げながら、つぶやいた。
なるほど、大きさだけなら、うちのドラゴンに匹敵するかもしれない。
………………
くっ…
くくくっ…
くくくくくくくくくぅ…………
オレは、いま、
もうれつに、感動していた。
異世界に来たというのに、魔物からは、逃げられ続けてきた。
ダンジョンで、逃げない魔物がいたと思えば、総土下座だった。
そのあと、
いよいよラスボスと戦うことになったが、『メカドラゴン』のバチモンだった。
本人?には、言えないが……
ああ……
ようやく、オレにも、『春』が来たのだろうか。
魔物の花が咲く『春』が……
『笛』吹いたら、跳んでやってくるなんて、ちょっと、ワンワン並みだけれど、『フットワーク軽めの古代龍』と思えば、いちおうセーフ。
…………
古代龍は、自分を呼び出した、ヤセ変態を、ギロリと見下ろした。
「しばらくは、呼んではならぬと、言っておいたはずだが……、うん?」
腹の底まで、びんびん響く声だった。
オレは、おもわずシャルを見た。
お嫁さんたちだけは、いっしょに来ているのだ。
「大丈夫じゃ…。ケルベロスさんほどではないのじゃ」
オレの意図に気づいたのだろう。
にっこりと笑って、そう言った。
『古代龍』が目と鼻の先にいるのだが、ちょっと余裕すぎないだろうか。
………………
「古代龍さま、じつは、我らに歯向かう輩が……」
ヤセ変態が、揉み手をしながら、言い訳を始めると、
「こ、この魔力……、ま、まさか……!」
古代龍が、オレに、気づいたらしい。
いきなり、動揺しはじめた。
そのときだった。
シャルのリュックから、とつぜん、クマが飛び出してきた。
オレの目の前で、二、三回転すると、ムクリと起き上がって、
「にいちゃん、にいちゃん!」
「あれ、あれ見てっ!」
そう叫んで、古代龍を、指差した。
クマだけではなかった。
セーラたちのリュックからも、
次々とぬいぐるみたちが飛び出してきた。
「「「「「にいちゃん!あれだよ!」」」」
みんなで、叫んでいる。
「あ、あれは……、なんてことだ……ニャ」
ライムの声が震えていた。
「こ、この魔力…、間違いない!」
古代龍は、あわてて、翼を広げた。
飛んで逃げるつもりらしい。
すさまじい風が、巻き起こった。
ぬいぐるみたちが、風に飛ばされて、転がってゆく。