第146話 やっちゃって!
豪華な馬車に乗っていたのは、
なんと、ランパーク王国の『王妃さま』だった。
つまり、すごい美人の……『おばさん』だった。
オレは、落胆が顔に出ないように、歯を食いしばった。
「助けてくれて、ありがとう…」
王妃さまは、丁寧に礼を言った。
傲慢な印象はかけらもない。
それから、
「帝国魔法学院の生徒さんたちね」
「すぐに、こちらに来てくれるとは聞いていたけど…」
ほんとうに、早いわね。
着陸している『揚陸艇』をじっと見ながら、そう言った。
「私は、ブリジッド…」
「『交流交歓会』をお願いしたのは、私よ…」
ちなみに、
「わたしも、『帝国魔法学院』の卒業生よ」
親しみのこもった声で、そう言った。
快適さ重視で、改造したとはいえ、『揚陸艇』である。
馬車と馬数頭のセットくらい、かるがると載せることができた。
「お城までお送りしてはどうかな」
リリアーヌ生徒会長の鶴の一声で、あっさり決まったのだ。
『敵対国』ではあるが、『王妃』であり、さらに、『先輩』である。
みんな、あっという間に打ち解けていった。
それだけ、ブリジットは、親しみやすいお后さまだった。
シャルたちちびっ子も、王妃さまのとなりに駆け寄って、何やら、お菓子をすすめたりしていた。
王妃さまは、いろいろとお菓子を差し出してくるシャルたちの頭を、愛おしそうに撫でていた。
その眼差しは、もちろん、慈愛のこもったものだった。
しかし、オレには、どうしても、
王妃さまのまなざしが、悲しげに見えてしかたがなかった。
異世界の人々には、『揚陸艇』などという概念はないと思う。
しかし、『揚陸艇』が、戦闘用であることは、誰でも、ひと目でわかる。
王妃さまの案内で、ランパーク王城の中庭に、『強制着陸』したとき、
『揚陸艇』は、武器を構えた騎士や兵士たちに、びっしりと囲まれていた。
すでに、詠唱を開始している魔道士も見えた。
まあ、とうぜんの反応だろう。
しかし、王妃さまは、剛毅なおばさんだった。
『揚陸艇』の貨物室を開けると、まっさきに、外に出ていった。
オレは、慌てて、王妃さまを、追いかけて結界で包んだ。
「皆のもの…」
「武器を収めなさい。彼らは、私の命の恩人です」
王妃さまは、よく通る声で、はっきりと言った。
それに、
「『帝国魔法学院』の学生たち、『交流交歓会』のお客様よ」
そういって、兵士たちを見回した。
オレは、さりげなく、王妃さまの後ろに、控えていた。
王妃さまを無視して、攻撃してくるバカがいないとは限らない。
敵対国の人間が、この国の王妃を、この国の軍から守っているようなものだった。
そのオレに、鋭い視線を送ってくるやつがいた。
「…あら」
「あなたも、迎えにきてくださったのね」
王妃が、すぐに、駆け寄った。
ふたりは、抱き合うと、熱い接吻を交わし始めた。
露出狂の夫婦なのだろうか…
それにしても、
オレを睨みつけていたのは、たしかに、こいつだろう。
いまは、ただの、露出狂だが……
そんなことを思っていると、
「「「「「「「「きゃーーーっ!」」」」」」」」」
『揚陸艇』の窓から顔を出していた女の子たちが、歓声をあげた。
戦う気満々の連中に囲まれているのだ。
とうぜん、挺内に残してきた。
窓は空いているが、もちろん、がちがちに結界を張ってある。
どうやら、露出狂の夫婦への歓声らしい。
ふと…、
お嫁さんたちを見ると、みんな頬を染めて、じっと見ている。
うらやましそうに見えないこともない。
……まさか、
人前で、あんな『恥ずかしいまね』をしてほしいのだろうか…
……いや、
『恥ずかしい』と思うのは、オレの『愛』が足りないのだろうか……
いや、むしろ、文化の違いというものか……
オレは、ひそかに、自問自答を繰り返した……
……………
このとき、この甘ったるい空気を破る声が聞こえてきた。
「勝手なことをされては困りますな…」
見るからに、悪党そうなデブ貴族だった。
繰り返し言うが、オレは、善良なデブさんが、世界にはたくさん生息していることを知っている。
そもそも、ウェストのサイズで、人格を決めつけるなど、あってはならないことだ。
性格を悪くするウイルスがいて、それが体内で増殖すると、デブになるという学説があるわけでもない。
したがって、
正確には、
①『デブ属性』と
②『悪党属性』を、
兼ね備えた貴族、というべきかもしれない。
とにかく、その悪デブが言った。
敵国に出かけて行ったうえに、
「そのような兵器まがいの乗り物まで、城に持ち込むとは……]
いやいや……、
『兵器まがい』じゃなくて、『兵器そのもの』だけど……
このお城くらい、いっしゅんで更地にできるし……
オレは、こころで、悪デブに突っ込みを入れた。
「まったくじゃ…」
今度は、細身悪党貴族だった。
「それに、女学生であろうと、敵国人であろうに…」
これは、我らが捕縛して、
「徹底的に、調べねばなりませんな」
そういって、ニタニタ笑っていた。
せっかく、みんな元気になったのに…
そんなセクハラ発言をしたら、また、おびえるだろう…
『地位が上がる』につれて、『高度に変態化』するのは、異世界も、日本も変わらないようだった。
そんなことを思っていたら、後ろから声がかかった。
「「「「「「「ジュンくーーーーん!」」」」」」」」」
窓から顔を出していた女の子たちだった。
今の、セクハラ変態発言を聞かれてしまったろうか……
怯えてなければよいのだが……
「「「「「「「「そいつら、ウザイからやっちゃって!」」」」」」」」
…………
心配はいらなかったらしい…