第145話 お尻から発射でいいんじゃない
「マスタージュン!」
「正面のモニターをご覧ください!…ウサ」
のんびりと、ランパーク王国の空を飛んでいると、スピーカーが鳴った。
艦橋のウサギさんだ。
「どうしたの……?」
みんな、いっせいに、正面の大画面に目をやった。
映像が、しだいに、ズームアップされてゆく。
一台の豪華な馬車が、怪しげな一団に追いかけられていた。
「ジュンくん、ジュンくん、いよいよ来たね!」
「とうとう、きましたニャ」
やはり、異世界ファンタジーと言えば、コレだろう。
あの豪華な馬車には、お姫様とか乗っているのだろうか。
すごい美少女とか乗っていて、
『ジュンさま、このお礼は……わたくしの、この身…』
…と、オレの奔放な想像力が、妄想を練り上げようとしていた時だった。
オレは、背後に、『二種類のまなざし』を、0.015秒ほどで察知した。
①ひとつは、『突き刺すような視線』であり、
②もうひとつは、『興味本位の視線』であった。
オレ前頭葉は、迅速に、状況を把握した。
①ひとつは、『お嫁さんたちの視線』で、
②もうひとつは、『クラスの女の子たちの視線』である…と。
…………
ここは、慎重に、ことを進めねばならない。
かんたんに、『餌』、否、『救出』に、向かってはいけない。
「ふう……」
オレは、みなに聞こえるように、大きくため息をついた。
それから、いかにも、やれやれといった風に、
「しかたがない…」
「ここは、オレが……」
「私たちに、お任せください!…ウサ」
あっさり遮られた。
「皆さんに『ステルスドローン』の実力をお見せするチャンス!…ウサ」
ウサギさんの自信に満ちた声が、鳴り響いた。
もちろん、『エッグの艦橋』からの声であった。
今度は、背後から、『二種類の音声』が聞こえてきた。
①ひとつは、『それがいいわね』という賛同の声であり、
②もうひとつは、『ちっ…』という舌打ちの音であった。
あの、それなり美少女のクラスメートたちは、何を期待していたのだろう……
オレは、すこしだけ『孤独』を感じた……
たしかに、『ステルス飛行』がデフォルトだ。
しかし、救助に向かうのだ。
姿を見せないと、あるいみ『怪奇現象』になってしまう。
『ステルスドローン』が、ステルス解除して、その実態を明らかにした。
「「「「「「「「「かわいいーーー!」」」」」」」」」
みんなから、いっせいに、声が上がった。
目の前には、大きな『ハチ』が飛んでいた。
箱ティッシュくらいだろうか。
魔物ではなく、純然たる『マシン』である。
そのせいだろうか。
容姿は、デフォルメされていて、いにしえの『みつばち〇ッチ』を彷彿とさせた。
もちろん、窓は、すでに開け放たれていた。
まあ、『ステルス_ハッチ』たちのためではなかったが…
『ハッチ隊』は、いっせいに、窓から外にでると、すさまじい速度で、急降下を始めた。
正面の大画面には、怪しげな一団の背後に、『ハッチ隊』が急速に忍び寄るようすが、映し出された。
どうやら、『撮影班』は別にいるらしい。
その一団は、見かけは、盗賊のようであった。
服装もそろってはいない。
黒装束のようなものもいれば、真っ赤なシャツを着ているものもいた。
「あれは、盗賊ではないな…」
いつのまにか、隣に並んでいたリリアーヌ生徒会長が、つぶやいた。
「…というと?」
オレは、さりげなく、彼女に目をやった。
オレの視線は、リリ会長の『絶対領域』を、正確に捉えていた。
距離にして、数十センチだろうか。
オレは、うっかり手を伸ばしてしまわないように、強く両手を握り合わせた。
「あんな統制のとれた盗賊がいてたまるものか」
しかも、
「かなりの手練れの兵士だろう…」
そう言いながらも、
リリアーヌ会長の頬に、さっと赤みがさしている。
くっ、
気づかれていたか……
かなりの速度での急降下である。
風を切る音くらいはするだろう。
盗賊を装った男たちも、音に気づいたのか、振り返ろうとした。
しかし、そのときには、
『ステルス・ハッチ』たちは、すでに、『銃』を構え、スコープを覗き込んでいた。
……って、なんで、わざわざ『銃』なのだろう。
ボディに仕込んでおけばいいことではないのだろうか。
姿は、ハチなんだから、お尻から発射してもいいだろうに…
「さすが、クマの魔物さんの設計です」
「様式美も、完璧ですね」
いつのまにか、隣には、千春がいた。
ぷすっ!
ぷすっ!
ぷすっ!
ぷすっ!
(以下省略)
銃も消音されている。
しかも、麻酔弾だろうか。
おそらくは、針のような弾丸は、
正確に、男たちの『盆の窪』に沈められていった。
首の後ろの、すこしくぼんだところである。
『必殺系の人』が、よく、大きな針をさすところだ。
ずざぁ!
ずざぁ!
ずざぁ!
ずざぁ!
(以下省略)
男たちは、次々と落馬していった。
落ちてから、ひくひくしているから、死んでいないようだ。
ものの数分の出来事だった。
馬車を追っていた一団は、ひとり残らず、地面につっぷしていた。
『ステルスハッチ部隊』は、みごとにその実力を見せつけたと言ってよかった。
しかし、
『くっ…』
スピーカーから、ウサギさんの声が漏れる。
『トリガーの『遊び』が、シビアすぎる……ウサ』
ウサギさんたちは、さらに高みを目指しているようだった。
馬たちは、しばらく、走ったあと、背中の軽さに気づいたのか、おのおの、立ち止まって、うろうろしていた。