第143話 私たちも、女の子よ
突如、観光地である湖の上空に、巨大なタマゴが出現したのだ。
それなりに離れているとはいえ、『王都』は、いずれ、大騒ぎになると思う。
いうまでもないかとは思うが、この『王都』とは、『軍事国家ランパーク王国』の都である。
ミルフィーユ領があるのは、『シャーベット王国』と言った。まったく、別の国である。
しかし、今回は、ステルスにするのはやめにした。
ほんとうに、戦争になれば、苦しむのは庶民だ。
このエッグを見れば、戦意も失せるのではないかと期待した。
『揚陸艇』は、ゆっくりと格納庫に入っていった。
ここは、まだドッグのままで、海水が満ちている。
魔物さんたちの、趣味の釣りのためだ。
いったん、海水を吐き出して、湖に浮かべるのもいいかもしれない。
この湖でも、釣りくらいはできるだろう。
せっかく外国に来たのだ。それもいいかもしれない。
すでに、リュシーたちの乗っていた帆船の姿はない。
代わりに、あの、サバラン王国の山腹に突き刺さっていた『小型宇宙艇』が停泊している。
『揚陸艇』よりは、かなり小さい機体で、戦闘機のようだった。
オレは、ただ、ふつうに、健康で、穏やかな毎日を過ごしたいだけだった。
異世界に来る前は、それすら、叶わなかったのだから。
でも、なぜなのか。
日に日に、オレのまわりには、オーバースペックな『兵器』が増えていっている気がする。増えるのは、お嫁さんだけでじゅうぶんなのだが…
オレたちは、『揚陸艇』から、桟橋を伝って、ぞろぞろと降りて行った。
途中で、
「「「「「「「「「「ひっ!」」」」」」」」」」」
みんなから、いっせいに、短い悲鳴が漏れた。
目の前には、20匹くらいの狼の魔物が待ち構えている。
どれも、耳まで裂けた大きな口で、笑っていた。
まあ、コレがデフォルトだし…
その狼が、いっせいに、
「「「「「「「「「いらっしゃーーーーーーーい!」」」」」」」」」」
歓迎のことばを発した。
「「「「「「「「「「「ひぃーーーーーーーー!」」」」」」」」」」」」
女の子たちが、震え上がった。
おかしい。
狼さんたちは、あんなに、にこやかに歓迎してくれているというのに……
あの、びゅんびゅんと、ワイプしている尻尾が見えないのだろうか。
「ここにいる魔物さんが、皆さんを守ってくれますの」
千秋が、言った。千秋は、ストレートヘアーのメイドだ。
「なるべく、行動を共にしてくださいですの」
「よろしく…ワン」
狼だが、語尾は「ワン」だった。
でも、サイズは、ライオンくらいある。
「わたしたちも、みんな女の子なのよ……、だから安心して…ワン」
メス……なのか?
たしかに、女の子どうしのほうが、いろいろと気兼ねがないだろう。
オレは、千冬と、狼さんたちの気配りに感心した。
「「「「「「「「魔物が、し、しゃべってるぅーーー」」」」」」」
なんで、いまさら、驚くのだろうか……?
ケルベロスさんなんて、帝都のなかを、自分から挨拶しながら、歩き回ってるというのに……。
いまでは、すっかり帝都の人気者なのだ。
自慢ではないが、うちの魔物さんは、毛並みもつやつやとして、とても高級感がある。
貴族の子女の護衛としては、ビジュアル的にも申し分なかった。
女の子たちも、すぐに、仲良くなるだろう。……たぶん。
いまは、ひとりひとりに、屈強な護衛がつくことを理解してくれればいい。
オレは、こうして、女の子たちの、不安がすこしでも解消されることを願った。
次に、クラスメイト御一行は、『艦橋』に向かった。
艦橋は、いままでは、四姉妹が担当していたので、ちいさな艦橋を使っていた。
しかし、いまは、ウサギの魔物さんが担当している。
艦橋も、ほんらいの姿を解放していた。
「「「「「「「ひ、ひろーーーーい!」」」」」」」
艦橋に足を踏み入れた一行は、まず、その広さに驚いた。
艦橋なので、もちろん、エッグのてっぺんにある。
外側から見ると、エッグの上に、巨大な小鉢を重ねたような形状になっていた。
「みな、ごくろうだった…」
リリアーヌ生徒会長が待っていた。
生徒会の仕事の関係で、遅れて、転移してきたのだ。
『おおっ!』
オレの目は、絶対領域に釘付けになった。
なにか、心境の変化でもあったのだろうか。
きょうに限って、なぜか、白いニーソを着用していたのだ。小さなかわいいリボン付きだ。
そもそも、日頃から『ぼん、きゅっ、ぼん』ボディを、デフォルトで見せつけている。さらに、絶対領域とは、なんという戦闘力だろう…
「ジ、ジュン殿……」
オレの燃えるような視線に気づいたのか、困ったような顔をしている。
しかし、同時にオレは、二人の冷たい視線に、0.02秒で気がついた。
クレアと、千冬だ。千冬は、ショーカットのメイドだ。
オレは……
「ク、クレアと、千冬の、ニ、ニーソ姿も見たいな……」
そうつぶやいて、ふたりの、『推定_絶対領域』を凝視した。
まだ、ニーソ履いてないからな。
まあ、ぶっちゃけ、『ふともも』ガン見……?
「「もう……、ジュンくんってば……」」
二人が、ぽっと頬を染めた。
「「こ、こんど……履いてあげる……ね」」
ふっ…、
これが、『夫婦円満』の実践というものだ。
まだ、夫婦ぽいことは、何もしてないけど……
ああ、その前に、まだ結婚もしてないし……
考えてみれば、将来のお嫁さんっていうだけなんだな。
思えば、けっこうあいまいな関係だった。