第14話 世界が震撼したらしい
「…構築っ!……ニャああああああああ!」
ほんのいっしゅんで、隠蔽は再構築された。
だが、逆に言えば、いっしゅんだけオレの魔力の一部がこの異世界に晒されたことになる。
その、いっしゅんに、世界が震撼した…らしい。
あとで聞いたはなしでは、この王国が消滅したと騒ぎ出した魔道士すらいたという。
もちろん、王国からはるかに離れた地域でのことだし、どこの世界にもやたらを話を大きくしたがる人はいるだろうが。
冒険者ギルドでは、だれもかれもが息をするのも忘れて凍り付いたように『停止』していた。
「…くっ、こりゃあ、きついぜ…」
いちばん最初に、我に返ったのは、元勇者だった。
「とにかく早く、ここを出たほうがいい…」
「わ、わかったっす…」
クリスさん兄妹もうなずきながら、ようやく立ち上がった。
例の美女も、
「…そ、そうね」
オレの首を両腕でロックしつつ抱きついている聖女を見ながら、おだやかな声でオレに頼み込んだ。
「あなたは、妹を…、セシリアをお願い…」
すばやく、冒険者ギルドをあとにしたオレたちは、急ぎ足で城門に向かった。
王都の中心をつらぬく街路にも、呆然と立ちすくんでいる者が少なくなかった。
それでも、倒れているようなひとはいないようだ。
オレは、ほっと胸をなで下ろした。
「…ジュンしゃまと、聖女セシリアは、魔法の波長がシンクロしやすいのですニャ」
また、アニメの話か…と思ったが、
「…そうね。だから、異世界から見つけ出して、召還することが可能なのよ」
聖女の姉が、ケンイチさんを、上目遣いで見つめている。
彼女はアンナさんと言って、ケンイチさんを召還した先代の聖女らしい。
現在の聖女は、オレに抱きかかえられて熟睡していた。
「セシリアは…、この子は、ほんとうに、もうぎりぎりだったのよ。なのに、無理ばかりして…」
たしかに、涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔は、ひどく青ざめていたのを思い出した。
それで、ちょっとこわかったのかな。
今度は、頭の上からライムの声が聞こえてきた。
「…天界に到着した直後に、『神霊の力』を吸収していたジュンしゃまと同じですニャ。ジュンしゃまから魔力をおなかいっぱいもらって、いまはずいぶん回復してるのニャ…」
たしかに、聖女の頬にはうっすらと赤みがさしている。
オレのせいで…と、自虐するのは理屈に合わないとわかっている。
オレは、一方的に召還されようとしたのだから。
それでも、オレのちからでこの子を少しでも元気にしてやれるのなら、それはうれしいことに違いなかった。
城門を出て、しばらく歩くと、原っぱに出た。
「おまえのいうとおり、ひとけのない草っ原に来たが…、こんなところで何をするつもりだ?」
ケンイチさんが、首をかしげながら尋ねてきた。
原っぱは、かなり広かった。
城門からも、街道からも、すぐには見えないところに位置している。
ここなら、ちょうどいいだろう。
オレは、魔道具の、「庭付き一戸立て住宅」を取り出した。
「うおっ!なんすかこれ!」
ケントさんが、飛び上がって驚いていた。
日本でなら、それなりに豪華に見える三階建ての家だ。
一階の一部は、車庫になっている。
ケンイチさんは、魔道具としての性能にも気づいたらしく、
「こりゃ、ちょっとしたもんだぜ」
あごに手を当てて、うなっていた。
「これって、ケンイチの元の世界の家なのね」
「ああ、ほんとうなら、向こうでおまえといっしょに暮らすはずだった家にすこし似てるかもしれんな…」
「…ごめんなさい。でも、いまのセシリアには、私が…」
「ああ、わかってるさ。気にすんな…」
なにか、ふたりでしんみり言葉をかわしていた。
「ジュンしゃまのおうちには、おいしいものとか、たのしいものが、いっぱいなのですニャー」
ライムがうれしそうに説明している。
なにはともあれ、立ち話をしていてもしかたがない。
みなで、ぞろぞろと階段を上り、玄関にあがった。
そして、この家に入る時は靴を脱いでください…などと説明していた時だった。
「おかえりなさーい。あ・な・た。食事にするぅ…、お風呂にするぅ…」
それともぉ…
「…お・か・し?」
純白レオタードの上に、かわいい花柄のエプロンをつけた金髪女神のセーラが飛び出してきた。