第138話 持続可能な…杖
「フリーズ!」
「フリーズ!」
今、オレの両となりでは、ふたりの『魔女っ子』が、魔法を放っていた。
ぴきぴきぴきっ!
ぱきぱきぱきっ!
王城の城壁に、備え付けられた、大きな砲台が、またたたく間に、氷の彫刻へと変貌していく。
「な、なんだ…この魔法の威力は…」
「あ、ありえねえ…」
「こんな化け物と戦えるはずがねえ…」
大砲を氷漬けにされた兵士たちは、悲鳴を上げて、一目散に逃げて行った。
オレの、超かわいい&美人のお嫁さんを『化け物』呼ばわりするとは、目が腐っているのだろう。
オレなんか、ちょっと視線を向けただけで、しばらく、見とれてしまうというのに…
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いつものように、すこし時間をさかのぼる。
オレの、腕のなかに、転移してきた少女は、生まれたままの姿だったせいか、すぐに、セーラたちにとりあげられてしまった。
『セーラたち』というのは、ほかのお嫁さんも、こぞってやってきたからだ。
いまは、リュックという便利なグッズがある。
リュックを経由すれば、いつでも、自由に、オレのところに転移して来られるのだ。
ほんとうに便利なものだった。
ただ、いきなり、お嫁さん全員に囲まれたときには、すこしびびった。
あの子は、リュックの中のお部屋で、いまごろは、着せ替え人形にされているに違いなかった。
まあ、なんだかんだと言って、お嫁さんたちも、この騒動のなりゆきを、見に来たかったのだろう。
それは、面白半分とかではないと思う。
「まあまあ…、毎日、いろんなことが変わっていくんですもの…」
豊満な胸の魔女っ子が言った。
裾が大きく開いた黒のミニワンピースが、似合っている。
よくTVでみる魔女っ娘の衣装だ。…っていうか、コレ、ハロウィンの衣装じゃないだろうか。まあ、かわいいから、いいか……
「ジュンくんの、そばにいないと、置いて行かれそうな気がするんです」
こちらは、すこし小柄で、細身の魔女っ娘だ。
やはり、同じ(ハロウィンの)衣装を着ている。
もしかして、ふたりとも聖女っていう、ある意味で、堅苦しい立場にいたから、こういう黒魔女っぽい衣装に惹かれるんだろうか。
そんなことを思いながら、城への坂を上っていた。
オレたちの前には、サイクロプスさんがいた。大きな盾を構えながら、ずんずん進んでいく。
兵士たちは、がらがらと大砲を引っ張ってきては、砲撃を加えてきた。
そもそも、大砲以外に攻撃手段は、ありえない。
三階建てのビルのようなものなのだ。剣を振り回すのは論外としても、あのアンティークな銃を撃つ気にもならないだろう。
どかーん!
どかーん!
ぱちっ!
ぱちっ!
「だ、だめだぁー!」
「まったく、きかねぇー!」
ミサイルも平気な盾には、移動用の大砲の砲弾など、パチンコ玉以下にすぎなかった。
兵士たちは、何発か撃って、無駄とわかると、すぐに城へと逃げ込んでいった。
「もったいない…」
オレは、置き去りにされた大砲を、ひたすら拾っては、ダンジョンに転送していた。
農機具でも何でもいいから、リサイクルできるといいんだけど…
炸裂しない弾とかも拾ってたら、みんなに「さっさと行きましょう」って叱られたので、大砲だけで我慢することにしたのだ。
冒険者ギルドは、もちろん、いまも、サイクロプスさんたちが守ってくれている。
ただ、念のため、ギルドの女の子には、狼の魔物さんをつけてある。
狼さんたちの本来の役割は、コレらしい。
『SP(つまり、Security Police)』ならぬ、『SW(Security wolf ?)』とでも言えばいいだろうか。もちろん、ウチの魔物さんなので、サイズは、ライオンなみだ。
…………
ずっどーーーーん
どっかーーーーん
ひゅーーーーーーーん
ひょーーーーーーーん
城の前まで、上ってきたオレたちに、さっそく、特大の砲弾をうちこんできた。
「効果範囲、設定」
オレたちの目の前の空間をおさえた。
「水魔法、氷結」
かっちーーーーん
こっちーーーーん
ぽとーーーーーん
ぼとーーーーーん
炸裂して、いろいろ飛び散ると、面倒なので、砲弾を、さっさと凍らせた。
しゅんかん、かなりの重さになるので、途中で落下してしまう。
そもそも、平気で散らかすのが、気に食わない。
後で、お片付けをさせられるのは、きまって、くらいの低い兵士か、庶民なのだ。
ここで、すかさず、お嫁さんふたりが、砲台そのものに、魔法をぶっつけた。
「フリーズ!」
「フリーズ!」
ぴきぴきぴきっ!
ぱきぱきぱきっ!
王城の城壁に、備え付けられた、大きな砲台が、またたたく間に、氷の彫刻へと変貌していく。
…………
ものの数分だった。
お嫁さん二人は、大半の砲台を制圧してしまった。
かなり、魔法を打ち込んだはずだが、息一つ切らしていない。
「まあ、まあ…、予想以上に、すばらしい杖よ」
イレーヌが、大きな胸に、杖をぎゅっと抱きしめた。ふるるっと揺れる、きれいな胸の間に、杖が埋まってしまった。
おおっ…、つい目が釘付けになる。
しかし、
セシリアの冷たい視線を、0.03秒ほどで察知したオレは、視線をすぐにセシリアに向けた。
ハロウィ…じゃなくて、黒魔女のようなミニの衣装から、すらりと伸びた脚は、細身でもほどよい肉づきもあって、さわやかな色香を漂わせている。
オレの視線は、再び、釘付けとなった。
ふっ…、
これが『平等主義』というものだ。
口先で理想を唱えることは、カンタンだ。
こうして、実践することではじめて、思想や哲学は、現実世界にその力を波及させることができるのだ。
たとえば、このように…
「「もう…、ジュンくんたら…、エッチなんだから」」
オレの目の前では、魔女っ子ふたりが、頬を染めて、くねくねしていた。
オレは、さらに、そのふたりを、かわるがわる眺めて、堪能していた。
…………
「あのぅ…」
「マスタージュン……」
「さっさと片付けてしまいませんか…」
サイクロプスさんたちが、遠慮がちに、催促してきた。
ごめんなさい…
つい、己の成長ぶりに、酔っていたようだ。気をひきしめねば…
話が、お嫁さんに移ってしまったが、じつは、ふたりの杖は、今回、開発された特別製だった。
①『クマの魔物さん』が、開発して、
②『オークさん』が、製造してくれたのだ。
③ミノタウロスさんは、『盾』のような大物を、
④オークさんは、『杖』のような小物を、それぞれ担当していた。
どちらも、優秀な『匠』であることは変わらない。
ちなみに、この『杖』は、オレの魔力に紐づけられている。これによって、
①『威力』は、ハネ上がり、
②『魔力量』が、ずっと維持される。
いわば、『SDGsっぽい杖』とでもいうべき、『持続可能な魔法の杖』なのだ。
もちろん、『盾』にも同じ機能が組み込まれていた。
…………
さて…、
そろそろ、仕上げの時間になったようだ。
まだ、暗いほどではないが、日も落ちてきたし…
オレは、高々と、右手を掲げた。
「召喚…、ケルベロス」
…………
どっしーーーーーーーーーん
地面が大きく揺れる。
…………
「マスタージュン、参りました」
ケルベロスさんのボスさんだ。
トラックほどのサイズがあった。
「ライム、ココ、まっすぐなら、大丈夫?」
ライムに確認した。
「……大丈夫ニャ、生き物はいないニャ」
ライムから、OKが出た。
「ケルベロスさん、ココ、まっすぐです」
「やっちゃってください」
ケルベロスさんに、頼んだ。
「らじゃー!」
体は、トラックサイズだが、意外とノリのいいタイプらしい。
ケルベロスさんが大きく口を開けた。
口の前に、真っ白い塊が、渦巻く。
ボスさんなので、炎ヘッドで撃つと、延焼して、焼け野原にしてしまうからだろう。
「アイスブレス」
どっごーーーーーーーーーーーーーーーん
いっしゅん、軽自動車ほどに膨らんだ、真っ白な光の渦が、直線となって放出された。
ばりばりばりばりばりーーーーーーーーーーーーーっ
たちまち、目の前の、城壁は消失して、城壁内が、みるみるうちにスケートリンクと化していく。
ばりばりばりばりばりーーーーーーーーーーーーーっ
「「「「「「「「「あ…」」」」」」」」」」
城壁があったから、よく見えなかったが、直線上に、お城もあったようだ。
半分ほど、氷のお城になった。
きらきら光って、ディ〇ニー映画のようだ。
オレたちは、城内へと、滑って転ばないように気を付けながら、進んでいった。
騎士や兵士が、端っこのほうに、どっさりいたが、みな、へなへなと地面に座り込んでいた。
戦意は感じられない。
ボスのケルベロスさんのパワーって、半端ないからなぁ。
オレは、スケートリンクの真ん中で、立ち止まった。
それから、大きく息を吸った。
そして、
「責任者、出てこーーーーーーいっ!」
…って叫んだ。もちろん『音魔法』で大音量だ。
なんか、すっとした。
「ジ、ジュンしゃま、ジュンしゃま…」
ライムが困ったように言った。
「『効果範囲、設定』を忘れてましたニャ…」
「…あ」
…………
この日の夕方、
この近辺の国では、三度目の『大震撼』が起きた。
「『責任者出てこい』の宵」と呼ばれ、長らく伝えられたという。