第136話 オペレーターだ…ケロ
「まだ、報酬が未払いの冒険者は?」
「…こちらになります」
さっきのリーダぽい女の子が、モニクさんに書類を手渡している。
「これは…、運がよかったね」
いや、戦争中みたいなものだ。当たり前か…
どうやら、報酬を未払いの冒険者は、数人だけのようだ。
報酬をもらわないと、宿代にも困る冒険者もいるかもしれない。
そういう冒険者に、報酬を踏み倒すことになっては申し訳ないのだ。
そんなふうに、ようやく残務の整理が進み始めた時だった。
「なーんか、魂に響いてくる…ケロ」
カエルの魔物さんが、しきりに首をかしげていた。
「…こっち、ケロ」
何かを探しながら、ギルドのなかをぴょこぴょこ歩きだした。
…………
「おっ!コレだ…ケロ」
なにやら、見つけたらしい。
大きな扉だった。エレベーターの扉に似ている。
カエルさんは、その前に立って、扉に手を触れた。
すると、ようすを見ていたギルドの女の子が、カエルさんに教えてくれた。
「ああ、その扉はね…」
《ケロー型オペレータ、ID-Y111TXC111、カクニンシマシタ》
どこからともなく、機械的な声が聞こえてきた。
「どこのギルドにもあるらしいんだけど…」
《セイタイ、ニンショウカイシ……》
声とともに、床から上がってきた光が、カエルさんの体をスキャンし始めた。
「今まで、誰も、開けることができなくてね…」
《ニンショウカンリョウ…、シマシタ。ニュウシツヲ、キョカ…シマス》
うぃーーーーーーん
扉が開いた。やはり、エレベーターのようだ。
「『開かずの扉』って呼ばれて…る…の…よ」
女の子も、開閉音に気づいたようだ。
……………
「きゃぁぁぁぁーー、開いてるぅーー!」
思わず、立ち上がって、絶叫していた。
「「「「「「「「まさかっ!」」」」」」」」」
職員の目が、エレベーターの扉に集まった。
扉が開いて、カエルさんが、ぴょこぴょこ乗り込んでいる。
「「「「「「えええーーーーーーーーっ!」」」」」」」
「「「「「「ホントに開いてるぅーーっ!」」」」」」」
ギルドの職員が、総立ちになって叫びだした。
「…ケロ?」
エレベーターは、地下深くへと降下していた。
くっ…
背筋の、ひんやり感が、オレに襲い掛かった。
あとすこしの我慢だろう。たぶん…。
ちんっ…
どのくらい地下に潜ったのか。
エレベーターが停止して、扉があいた。
扉が開くと同時に、灯りがともったようだ。
宇宙船の艦橋に、少し似ている。
中央に巨大なモニターがあり、その少し手前には、操作盤をはめ込んだ卓があった。
操作盤は、タッチパネルのようだ。
座席が、五つあるので、五人で操作するのだろうか。
そして、中央には、まるで、船の艦長がすわるような座席があった。
それで、宇宙船の艦橋ぽいのだ。
「おお、なんか、懐かしい…気がする…ケロ」
カエルの魔物さんは、そう言って、五つある座席の真ん中に座った。
不思議なほど、カエルさんにフィットする座席だった。
「ふんふん…、これなら、腰痛に悩まされない…ケロ」
あるのか、腰痛が…、いや、そもそも腰はどこだ?
ふと、疑問がわいたが、詮無いことであった。
液晶の操作盤に、カエルさんが手を置くと、巨大モニターと、五つの液晶に、光が灯った。
部屋の中が、一段と明るくなった。
しかし、そこまでだった。
巨大モニターにも、何も映らない。
「あれっ、おかしい…ケロ」
カエルさんも、どうすればいいかわからないようだ。
すると、
また、さっきの機械的な声が聞こえてきた。
《カンリシャノ、ニンショウガ、ヒツヨウデス》
『管理者』って、言われても…
そういえば、カエルさんは、さっき、
『ケロー型オペレーター』って呼ばれていたような…
なんかかっこいい施設だけど、結局、動かないんだろうか…
オレは、ちょっとがっかりした。
「あのぅ…、もしかして、ジュンさまのことじゃないですか?」
ジュリアン君が、オレを見上げながら、言った。
かわいい瞳が、キラキラ光っている。
どうやら、期待されているようだ。
くっ…、
『違うと思う…』とは、とても言えなくなった。
しかたがない…、
オレは、例の艦長みたいな座席に腰かけた。
コレでダメとわかれば、きっとあきらめてくれるだろう。
すると、
《セイタイ、ニンショウヲ、カイシシマス》
また、あの声が聞こえてきた。
『ひっ!』
ま、まぶしいっ!
いきなり天井あたりから、強烈な光が、オレを照らした。
あやうく、ジュリアン君の前で、悲鳴を上げそうになったが、なんとかこらえた。
ぴんぽーん!
《ニンショウ、カンリョウ、シマシタ》
《カンリシャトウロク……、カンリョウ》
《…サドウシマス》
巨大モニターに映像がきた。
いくつにも分割されているが、そもそもデカいので、見づらいことはない。
なかには、さっきまでいた、冒険者ギルド内を映している映像もあった。
ほかの映像が、どこを映しているのか、すぐにはわからなかった。
ここで、再び、あの声が聞こえてきた。
《エネルギージュウテン、90%…100%…120%》
《シュホウ、ハッシャジュンビ、デキマシタ》
「ジュンくん、ジュンくん…」
「なんか、すごいかっこいいよ!」
セーラが、はしゃいでいた。
《アリガトウゴザイマス》
礼を言っていた。まさか、声の主がどっかにいるのか?
《ソウイン…》
《タイ、ショック…、タイ、センコウ、ボウギョ…》
「えええーーっ!」
「み、みんな、どこでもいいから座って、体を丸めて、目を手で塞いでっ!」
オレは、叫んだ。
…………
…………
…………
《…フッ》
《ジョウダンニ、キマッテマス…》
くっ…
「てめぇ、ちょっと出てこい!」
オレは、思わず叫んだ。