第133話 縁起でもないケロ
わかりにくくなりそうだったので、続けて投稿しました。
【ここからは、第三者視点になります】
相談事を終えると、ジュンたちは、ぜんいん、格納庫から出て行った。
ジュンは、ふだんは、点けっぱなしの灯りを、わざわざ落とした。外壁も閉じたので、格納庫は、闇に包まれた。
どのくらいの時間がたったろうか…
エルフのギルマスたちが、乗ってきた船の、船底の板が、しずかに持ち上がった。一枚ずつ、ちょうど、ひと一人が出入りできるくらいまで、持ち上がると、そのまま取り外された。
偽装した船底から、黒装束の武装した男たちが、次々と這い出てきた。
「外には、誰もおりません」
偵察の男だろうか。
小柄な男に、小さな声で伝えた。
「…では、作戦どおりだ」
「艦橋を制圧する」
途中、われらに気づいたものは、女子供だろう、一人残らず始末しろ。
二十人ほどもいるだろうか。
男たちは、みな、しずかにうなずいた。
偵察の男に続いて、船から降りた黒装束の一団は、音もなく壁際に沿って走りだすと、
さきほど、ジュンたちが出ていった扉の前で止まった。
「奴らは、この扉から出ていきました」
再び、偵察の男が、小柄な男に伝えた。
この男が『頭』のようだった。
『頭』が、手で合図をすると、ひとりの男が、扉に、魔道具を押し当てて、それに耳をつけた。
「ひとの気配はありません」
男たちは、さっと左右に分かれた。
ひとりの男が、ゆっくりと、扉をあける。
通路のようだった。
左手に、階段がみえる。
「こっちだ」
すたすたすたすた………
黒装束の男たちは、気配を殺して、走り出した。
そのときだった。
「なんで、今日に限って、灯りが消えてるんだケロ」
のんきな声が聞こえてきた。
念のため、ことわっておくと、この声の主は、ぬいぐるみではない。カエルの魔物さんの声である。
彼の手には、釣り竿が握られていた。
格納庫に、釣りをしに来たのだろう。
「えーと、たしかこのあたりケロ…」
闇の中で、なにやら、さわさわと壁をさする音がする。
「おっ、スイッチ発見!…ケロ」
パチン、という音とともに、通路が明るくなった。
「ケロ…?」
「「「「「「「「あ…」」」」」」」」」」
…………
「やれっ!」
『頭』が低い声で、すかさず命令した。
男たちは、アンティークな銃を構えた。
ぷすっ!
ぷすっ!
ぷすっ!
ぷすっ!
ぷすっ!
いってみれば、海軍の特殊部隊である。
とうぜん、消音器付きだった。
しょせん、ファンタジーである。
消音魔道具なんだよ……といえば、誰も文句はいえまい。
ぱしっ!
ぱしっ!
ぱしっ!
ぱしっ!
ぱしっ!
…………
硝煙の臭いの漂うなかに、肉の焼けるような臭いがまじった。
…………
しかし、カエルの魔物さんは、その場に、すっくと立っていた。
のばした舌には、五発の銃弾が、握られて?いる。
肉の焼けた臭いは、弾丸を絡めとったときに、舌にやけどをしたのだろう。
びゅんっ!
カエルの魔物さんが、無造作に、その舌を振った。
ぐさっ!
ぐさっ!
ぐさっ!
ぐさっ!
ぐさっ!
「「「「「うぐぅっ!」」」」」
銃を撃った男たち五人が、腕を押さえてうずくまった。
カエルの魔物さんは、得意の舌で、弾丸を超高速で、撃ちだしたようだ。
右腕を押さえている者もいれば、左腕のものもいる。
どうやら、引き金を引くのをつぶさに見て、利き腕を撃ちぬいたらしい。見事な舌技?であった。
「ふっ…」
カエルの魔物さんが、男たちから、つまらなそうに、目をそらした。
「雑魚すぎるケロ…」
「せっかく釣りにきたのに、縁起でもないケロ…」
わりと、縁起を担ぐカエルさんだった。
そこに、
「なに、楽しそうなことをしてるウサ…」
ウサギの魔物さんが、ぴょんぴょんやってきた。
やはり、釣り竿を手にしている。
「な、なにをしておる。撃てっ!」
『頭』が、呆けている男たちに活を入れた。
ぷすっ!
ぷすっ!
ぷすっ!
ぷすっ!
ぷすっ!
ぷすっ!
ぷすっ!
ぷすっ!
ぷすっ!
ぷすっ!
十発の弾丸が、釣り竿片手の、二匹の魔物に襲い掛かった。
けっして、むやみに行数を稼ごうとしているわけではない。十人で撃ったので、しかたがないのだ。
ばしっ!
ばしっ!
ばしっ!
ばしっ!
ばしっ!
ばしっ!
ばしっ!
ばしっ!
ばしっ!
ばしっ!
…………
いつの間にか…
ウサギの魔物さんは、男たちの『背後』に立っていた。
十人ほどの男たちが、つぎつぎと倒れていく。
悲鳴を上げることすら許さぬ、神速だった。
「壁を使った『三角飛び』で、銃弾を避けながら…」
「ワンパンで沈めるとは…さすがだ…ケロ」
カエルの魔物さんの解説が入った。
「ふんっ」
ウサギの魔物さんが、つぶやいた。
「そっちこそ、よくやるウサ…」
倒れた十人のほかに、さらに五人が腕を押さえてうずくまっている。
解説しつつも、彼は、舌でキャッチした十発の弾丸で、さらに残りの男たちを、射撃していたのだ。
「な、なんじゃと…」
立っているのは、『頭』ひとりとなった。
そのとき、また、のんきな声が聞こえてきた。
「いつまでも、襲って来ねえとおもってたら…」
こんなところで、油を売ってやがったのか…
相変わらず、釣り竿を片手にしたエミールが、歩いてきた。後ろには、ジュンたちもいる。
「おお…、エミールさんも来てたのか、ケロ…」
「じゃあ、先に行ってるウサ…」
二匹の魔物は、何事もなかったかのように、鼻歌をうたいながら、格納庫へと入って行った。
ジュンたちは、この暗殺部隊に気づいて、いちおう、罠を張っていた。
しかし、たまたま、釣りに来ていた二匹の魔物に、すでに倒されたあとだった。
「こ、降参する…」
『頭』の震える声が、通路に響いていた。