第130話 グッジョブ
オレたちが、ドラゴンに抱えられて、タマゴ宇宙船に向かっていると、
九隻の軍船が、回頭をはじめたのが見えた。
どうやら、逃げるつもりらしい。
ふむ…
オレは、あらためて、沈みかけの船を見回した。
マストはすべて折れ、床もあちこち陥没している。
結界でくるむのが、すこし遅かったら沈んでいたろう。
修理してもどうにもならないことは、素人目にもわかる。
オレは、ふたたび、海に目を向けた。
目の前には、ちょうどよく、九隻ほど帆船がある。
けっこう、立派そうに見える軍船だ。
「あれをもらうか…」
オレは、誰に言うともなく、ひとりごちた。
「効果範囲、設定」
「可視化、赤」
逃げていく船のまわりに、赤い空間がひろがっていく。
「どうするのですか…」
かわいい声が聞こえてきた。
さっきの男の子だ。
オレは、チャンスを逃さないオトコだ。
さっそく、頭をなでた。
おお、シャルなみに、やわらかい髪だった。
男の子もくすぐったそうにしている。
オレは、うっかり、よだれがこぼれないように、細心の注意を払いながら、答えた。
「もらうのさ…」
………
「重力魔法」
「軽減、発動」
ずざざざざざざざざ…………
九隻の帆船が、船底に、海水をまとわりつかせながら、いっせいに、宙に浮いた。
「「「「「「「「おおおおっ!」」」」」」」
周りの船乗りたちから、歓声があがる。
「うわあーーーーっ」
男の子も、びっくりしている。
驚いた顔が、また、いちだんとかわいい。
「ちょっと、集中するからね…」
オレは、男の子、ジュリアンくんをちらりと見た。
「は、はい!」
ジュリアンくんも緊張したようだ。
オレの手をぎゅっ握りしめている。
ナニコレ、かわいいーーー。
いっしゅん、集中が途切れたらしい…
九隻の帆船が、いっせいに、横転しそうになった。
「「「「「「「うひゃぁーーーっ」」」」」」」
さっきとは、すこし違った歓声があがる。
くっ、
まあ、船さえあれば、中身のニンゲンはいらないから、零れ落ちても、いいっちゃあ、いいんだけどぉ…
自分に、言い訳をしてみた。
ふたたび、集中して、作業を続けた。
要するに、重力軽減を調整して、船を一隻ずつ積み上げていった。
微妙なところが、なかなか、楽しい。
積み上げていると、
みしみしみしみしみし…………
やな音が聞こえてきた。
自重で、壊れそうなのだろうか。
大砲ばっかり積み込むからこうなるのだ…
ひとりで、タメ口をたたきながら、
一隻ずつ結界でくるんだ。
あとで、もらうのだ。壊れては元も子もない。
帆船には、帆がある。
九隻が、縦に積みあがると、とんでもない高さになった。
ちょっと見、『実物大、帆船コレクション』って感じで壮観だった。
「ふわぁぁぁーー」
ジュリアン君が、オレの手を、いっそう強く握りしめながら、感動していた。
船を見上げながら、うっとりしているジュリアン君は、さらに、愛らしい。
我ながら、いい仕事をしたものだ。
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オレが、救助に行っている間、
居残りしていた、お嫁さんたちも、ばあちゃんも、次々に手を打ってくれていた。
タマゴ宇宙船の、格納庫に、船を運び入れると、すでに、セーラが転移ゲートを用意していた。
「ミルフィーユ領の第三城壁内で、休んでもらうことになってます」
イレーヌさんが、教えてくれた。
やはり、『陸』で休ませたほうがいいという配慮だろう。
それに、いままで暮らしてた辺境の街に、戻ることができるのかもわからない。定住する気になれば、できる場所が必要なのかもしれない。
第三城壁内部には、魔物さん用に、高級宿泊施設が作られていたが、それだけではない。
なにしろ、大きさでいえば、10階建てのマンションで、街を囲んでいるようなものだ。数百人規模の居住スペースが準備されていた。
「食糧などの物資は、父上が用意してくれてるのじゃ」
シャルも働いてくれたようだ。
シャル似のジュリアン君も、かわいかったが、ほんもののシャルは、やはり、かわいい。
「ありがとう、シャル…」
そういいながら、すかさず頭をなでた。
さすが『本家』、極上のなでごこちだった。