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お嫁さん&魔物さんといっしょに、ムテキな異世界生活  作者: 法蓮奏
サバラン共和国(カルシウム大陸)編
129/631

第129話 間に合った

 

 【ここからまた、ジュンの視点にもどります】



 「…間に合った」

 

 ドラゴンの貨物室の開口部に立って、オレは、いまにも沈みそうな船を見下ろしていた。


 今回は、盗撮ドラゴンが役に立った。


 『(元)盲目の美少女魔導士』から、この船のことを聞いたときには、すでに、ドラゴンが把握していた。


  ……っていうか、上空で撮影していた。

 

 おかげで、すぐに、ここに転移することができたのだ。


 ばあちゃんが、船で海を西に向かっていた理由もわかった。

 ばあちゃんの娘さんも、いま確保した。


 もう、こそこそすることもないだろう。

 アレも到着したようだ。


 …………


 ごごごごごごごごごご………………


 低く唸るような音とともに、ソレは、姿を現した。


 ドラゴンの貨物室から外に乗り出していたオレの目の前には、あの巨大なエッグが浮いていた。


 それは、まるで、空に浮かぶ山のようだった。

 まあ、形は、タマゴ型だけど…




 ドラゴンとともに、沈みかけの船へと降下していった。


 完全に結界でくるんでいる。

 浸水も止まっているはずだ。


 それにしても、


 乗組員を包んだだけとはいえ、あの『ハート蛇の杖(ウロボロス)』に、砲弾をしのぐほどの出力があったとは…


 「完全に『ちからわざ』ニャ」

 「さすが、『帝国の魔女』の娘ニャ、よくやるニャ…」

 

 まったく、母娘そろって無茶をするものだ。



 ドラゴンが近づくにつれて、船員たちが、恐怖に顔を引きつらせている。まあ、しかたがない。


 ただ、ひとりだけ、ドラゴンを見上げながら、目をキラキラ輝かせている子がいた。


 ちいさな男の子だった。

 すこし、シャルに似ている。

 

 ……………


 降下するにつれて、その子の顔がはっきり見えてきた。

 オレは、異世界人みたいな、裸眼視力はないのだ。


 オレは、その子を見て、驚愕きょうがくした。


 な、なんだあの子はっ!

 いったい、どうなっているっ!


 なんで…


 あんなに…


 かわいいんだぁーーーーーーーっ!

 

 …………


 オレは、予定を変更して、結界のなかに降りることにした。


 すたんっ!


 大人たちが、いっしゅん、身構える中、その子だけは駆け寄ってきた。


 さあ、おいで…


 オレは、膝をついて、両手を広げた。

 

 「ジュリアンっ!無事でよかった!」

 リュックがまばゆく光り、中から『(元)盲目の美少女魔導士』が飛び出して来た。


 目が治ったので、動きがきわめてすばやい。

 たちまち、男の子を抱きしめた。


 「リュシー姉さまっ、目が見えるのですか!」

 男の子が、驚いて、声を上げた。


 そして、


 よかった、よかった…

 ふたりで、泣きながら、抱き合っていた。


 まわりの船員たちも、目に涙を浮かべて祝福している。


 …………


 オレは、広げた両腕を、さりげなく、もとに戻した。

 

 「君が、我々を助けてくれたのか」

 ほんとうにありがとう……

 いかにも貴族風のおっさんが、深く頭を下げている。

 

 「お父さま…」

 リュシーこと、『(元)盲目の美少女魔導士』がオレの横にならんだ。


 「わたくしの目を治してくださったのも、ジュンさまなのです」

 そういって、恥ずかしそうに、オレを見上げた。


 『お父さま』ということは、このおっさんが、王さまなのだろう。



 あとで、聞いた話だが、彼は、辺境伯だったが、クーデターで国を乗っ取られると、すぐさま、小国の王を名乗ったそうだ。辺境領を、そのまま国家として独立させたのだ。

 英断だったと、あの賢帝でさえ褒めていた。



 「…そうか、重ね重ね、ありがとう」

 さきほどは、死を覚悟したが、それでも、

 「娘の目のことは、気がかりでしかたがなかった…」

 そういって、涙を浮かべている。やさしいパパだった。


 …………


 「ところで…」

 パパの目が、きらりと鋭く光った。

 

 「うちの娘とは、どのような関係かな?」

 すこし、殺気が漂っている。

 遊び半分ならただではおかないと顔に書いてあるようだ。


 「も、もう…、お父さまったら…」

 娘は娘で、頬を染めて、ちらちらとオレを盗み見ている。


 …………


 こんなときに…


 なんとも、マイペースな父娘だった。



 ****************



 「効果範囲、設定」

 「聖魔法、回復」


 この船には、無傷のものは、ひとりとしていなかった。

 むしろ、大けがをしているものばかりだったのだ。


 「おお、みるみるうちに傷口がふさがっていく…」

 「ああ、痛みがひいていくぜ…」

 「ありがてぇ…」

 「たすかったぁ…」

 

 男の子も、うれしそうに腕をさすっていた。

 

 この子は、腕が折れていたのだ。よく我慢していたものだ。

 泣き叫んでもおかしくない年頃なのに…


 だから、予定では、抱きしめたときに、すぐに治癒してあげるはずだったのだが…

 リュシーに横取りされたから…


 …………


 ざざざざざざざざぁーーーーーーーーーーーっ


 多少の揺れとともに、船が、海面から離れていく。

 ドラゴンに、そのまま、抱え上げてもらったのだ。


 「「「「「「「「「おおおーーーっ!」」」」」」」」

 

 船は、船員たちの歓声のなか、巨大タマゴの格納庫へと向かった。




 

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