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お嫁さん&魔物さんといっしょに、ムテキな異世界生活  作者: 法蓮奏
サバラン共和国(カルシウム大陸)編
128/631

第128話 イネス母さまを…

ちょっと、説明をいそぎすぎたかもしれません。

すこし、駆け足っぽいです。


 「あなたたち、スフレ帝国はご存じかしら?」


 海の向こうの国だ。

 知らなくても無理はない。


 そもそも、オレたちだって、彼女たちの国のことを知らずに、勘違いして助けたのだから。


 「ま、まさか…あなたさまは…」

 『(元)盲目の美少女魔導士』から意外な返事が返ってきた。

 「そういえば、魔力の波長が…」

 そんなことを口走りながら、まじまじと、ばあちゃんの顔を見ている。


 彼女は、目が見えなかった代わりに、魔力の波長を見分ける能力にけてのだろう。

 オレの魔力も、一発で見抜いたのだ。

 

 「わたしは、フランシーヌ」

 「スフレ帝国の皇帝は、わたしの息子よ」


 「もしかして、あなたには…」

 「わたしに似た魔力をもつ知り合いが、いるのかしら?」


 真剣な顔だった。

 思い当たることでもあるのだろうか。


 「はい…」

 「…お母さまを」


 「イネス母さまを助けてください…」

 「…お願いします」


 ぽろぽろと涙をこぼしながら、『(元)盲目の美少女魔導士』は、ばあちゃんにすがりついた。




 *****************



 【ここから三人称視点にかわります】



 すでに、マストは折れ、船は、ただ波に翻弄されるばかりだった。


 大きく傾いた船体は、船底を満たしていく海水によって、みるみるうちに沈んでいく。


 「砲撃が止んだとおもったら、あいつら、わざわざこの船を囲んでやがるのか」

 艦長とおぼしき中年の男が、吐き捨てるように言った。


 

 艦長のことばどおり、九隻の軍船が、ぐるりと、この沈みかけた船を囲んでいる。


 「イネスさまの結界が破れねえから、最後に、いっせいに大砲をぶちかますつもりなんだろうぜ」

 ざまあねえや…と、頭から流れる血を払いながら、若い船員が嘲笑った。

 

 「まったくだぜ」

 そう言って、まわりにいた船員たちも、笑っている。

 だれもが深手を負っていたが、心の折れたものは、ひとりもいなかった。



 イネスと呼ばれた中年の女性の手には、杖が握りしめられている。

 二匹の蛇が、ハートマークを作っている例の杖だった。



 『この杖には、ずいぶん救われたわ』


 一年前に、突如として、自分たちの人生を変えてしまった。あのクーデターの時も、この杖の結界で逃げ延びることができた。


 亡き夫である先王と、駆け落ち同然で、帝国を飛び出してきたとき、母上が下さった杖だ。


 こうして、最期を迎えるときにも、母との絆を感じられるのは、ありがたいことだと思った。

 その母も、祖国も捨ててしまった自分には、そんな思いに浸る資格はないのだろうけれど…



 「いよいよ、始まるようだね」

 一目で貴族とわかる中年の男性だった。

 豪奢な服は、血で染まっていたが、にこやかに微笑んでいる。


 「この一年、なかなか楽しかったよ」

 

 先王の弟として、辺境の地を守っていた自分が、小国を打ち立て、王とならざるを得なくなった。その辺境の小国が、艦砲射撃で徹底的に破壊されたのは、ついこの間のことだった。


 「あとは、リュシーが逃げ延びてくれれば…」

 そう言いながら、目の前の少年の手を握りしめた。

 「ほんとうは、ジュリアンも一緒に、逃げてほしかったのだけれど…」

 

 少年は、しずかに首をふった。

 「いえ、ぼくだって男です…だから、残りたかった…」

 まだ、十歳にも満たないような少年だったが、その眼には、強い意志が宿っていた。



 そろそろ、頃合いだろうか… 


 いくつあるかは知らないが、そろそろ砲撃の準備も整ったに違いない。

 

 王は、最期に、感謝の言葉を選んだ。

 「みんな、いままで、ほんとうにありがとう…」


 海の男たちは、その言葉に笑顔で答えた。



 そのときだった。



 一斉砲撃の激しい音が、海上に響き渡った。

 砲弾がくうを切り裂いて飛来してくる。


 …………

 

 …………


 …………


 こつーん、こつーん、こつーん、こつーん…


 ぽちゃーん、ぽちゃーん、ぽちゃーん…

 

 …………


 「「「「「「「「「はい?」」」」」」」」」」

 

 …………


 こつーん、こつーん、こつーん、こつーん…


 ぽちゃーん、ぽちゃーん、ぽちゃーん…

 

 …………

  

 「「「「「「「「「はい?」」」」」」」」」」

 

 死を覚悟した海の男たちと、熟女が、二度ほど気の抜けた声を上げたとき、

 自分たちを、船ごと包んでいる大きな結界に、ようやく気がついた。


 「「「「「「「こ、これは?」」」」」」」」」


 驚きながらも、イネスには、理解できた。


 とてつもない強力な結界で、自分たちが、救われたことを。

 そう思ったときには、魔力の使いすぎだろうか、意識を保つことができなくなっていた。

 

 イネスは、杖を握りしめたまま、その場にくずおれた。





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