第127話 アイデンティティが
「そうだったのか…」
驚愕の事実だった。
「ごめんなさいね。わたしが間違えたから…」
ばあちゃんが謝っている。
でも、
「ばあちゃんのせいじゃないよ」
そうなのだ。これでは、誰でも、間違えるだろう。
じつは、三隻で追いかけていた船、あれこそ、ばあちゃんの知り合いのいる国の船だった。
むしろ、俺たちは、敵対してる国の船を助けてしまったのだ。
もちろん、船を吹き飛ばしたかのように見せかけてはある。
見られたのは『揚陸艇』だけで、オレたちの顔を見られたわけではない。まあ、大丈夫だろう。
「国旗が、似すぎているのニャ」
ライムの言う通りだった。
「もともと、ひとつの国でしたから…」
『(元)盲目の美少女魔導士』まで、申し訳なさそうに言う。
間違えて助けられた上に、目の治療までしてもらったのだ。さぞかし肩身が狭いだろう。
「間違えたのは、こっちだし、たいした問題でもない」
だから、気にする必要はない。
オレは、できるだけ、きっぱりと言った。
「そうですね」
「それよりも情報をお願いします」
四姉妹のひとり、ストレートヘアーの子だ。
一卵性双生児のように、みんな同じ顔をしているが、髪形が違うので、何とか見分けられている。
「…姫さん」
艦長が、口をひらいた。
「みなさんも、こう言ってくださってまさぁ」
「知っていることは、みんな話して、すこしでも、お役に立たせてもらいましょうや…」
言葉遣いは、相変わらず雑だが、態度は豹変していた。
艦長は、オレたちに向き直ると、居住まいを正して、こう尋ねた。
ここまでしてもらっていながら、こんなことを尋ねるのは、心苦しいんですがね…
「念のため、あんたたちの素性を、教えてもらえませんか」
おお、そうだった。
名乗るのを忘れていた。
『(元)盲目の美少女魔導士』が、オレの魔力の波長に気づいていたので、すでに正体を知られた気になっていたらしい。
しかし、ここで、はたと困った。
たしかに、みんなには、立派な『素性』とやらがある。
①『セシリア』は、聖女で、元皇女。
②『イレーヌ』は、元聖女で、辺境伯長女。
③『シャル』は、帝国皇女。
④『クレア』は、伯爵(第一皇子派領袖)令嬢。
⑤『シャルロットばあちやん』は、帝国大皇后。
⑥『セーラ』は、空間魔法をつかさどる女神。
⑦『ライム』は、ステータス画面の主任管理精霊。
じゃあ、オレは、なんなのだろう?
『使徒』と言えないこともない。
それは、大神さまが、この世界に送ってくれたからだ。
しかし、別に、大神さまから『使命』を与えられているわけではないので、正確には『使徒』ではないのだ。
だから、
①じぶんから『オレは使徒です』とは言わないが、
②他人が『ジュンさまは、使徒』と呼ぶのは否定しない。
…という甚だ都合のよい立場を貫いてきた。
オレの、アイデンティティってどうなってるんだろう。
そんなふうに、逡巡していると、
ばあちゃんが、話し出した。
今回は、わたしがお願いしたのだから、
「わたしが名乗ればいいわね」
そう言って、艦長たちに向き直って言った。
「あなたたち、スフレ帝国はご存じかしら?」
「「「「「「「「!」」」」」」」」」
こんどは、艦長たちが、いっせいに驚いていた。
「ま、まさか…あなたさまは…」
『(元)盲目の美少女魔導士』が、目に涙を浮かべながら、ばあちゃんを見つめていた。