第126話 ジレンマだったりした
申し訳ありません。
最後の部分は、ご存じない方には、まったく意味不明だと思います。
「どうせ、なんかのネタだろう」くらいに思ってください。
「チビ」という言葉がある。
これは、昔は、『蔑称』だったらしい。
『チビのくせに……なまいきだぞ』みたいな感じだ。
つまり、
『体格が小さいこと』は、よくないこと、マイナスの価値をもつことだった。
しかし、いまは、違ってきた。
『小柄な』イケメンアイドルなども存在できるようになった。
『価値観の多様化』のお陰だ。
なんでこんな話をしているかというと、
『盲目の美少女魔導士』に遭遇したからだ。
『目が見えない』ことは、よくないこと、マイナスの価値をもつことだと、ふつうは思う。
しかし、世の中には、『生まれつき目の見えない人』もいる。
もし、その人に向かって、『よくない』と言える奴がいたら、そいつの『頭』の方が、よほど『よくない』だろう。
そもそも、他人を簡単に馬鹿にしたり、否定する人間ほど、『害になる』存在はない。
また、話がそれそうになった。
いま、オレの目の前には、『盲目の美少女魔導士』がいた。
オレには、たぶん、この子の目を治すことができるだろう。
しかし、
眼が見えるようになったら、この子は、『盲目の美少女魔導士』ではなくなってしまう。
『ふつうの美少女魔導士』になってしまう。
まあ、美少女という点で、すでに、ふつうとは言えないかもしれないが…
こういう考え方は、とても、よくないのだが、オレが彼女の目を治してしまったら、オレにとっての彼女『魅力』が、消えてしまうのだ。
そういう、ジレンマに陥っていた。
…………
…………
しかたがない…
オレは、『(現状)盲目の美少女魔導士』に話しかけた。
「目を治したいと思うかい?」
「…えっ」
彼女は、びくりとした。
まだ、初対面なのだ。怯えるのは、無理もない。
ふたりの付き添いの女性も、心配そうにしている。
「その目は、生まれつきなの?」
ぶしつけな質問で、もうしわけないけど…
いちおう、そう、ことわって尋ねた。
「い、いえ…、小さいころに、病にかかって…」
それで、それきり…
『盲目の美少女魔導士』が、しゅんとうなだれてしまった。
何か思い出したのだろうか。すまないことをした。
付き添いの女性が、何かを言おうとしたが、やめてしまった。
彼女には、オレは、機嫌を損ねてはいけない『暗黒大魔王』に見えているのかもしれない。
ふむ、『暗黒大魔王』、ちょっとカッコイイかも…
「その目を治したいかい?」
三度目の『暗黒大魔王』の質問だ。
…………
…………
彼女は、しばらく、考えていた。
それから、短く答えた。
「…はい」
「…で、でも」
「わ、わたくしには、支払える対価が、ありません…」
ちいさな声で、かろうじて言った。
ふむ、なるほど、
ここで、
『わたくしの、このカラダのほかには…』とか言いだすのを期待するのは、下種というものだろう。
「いまなら…」
オレは、しずかに言った。
「たったいまなら…」
「大サービスで、無料だが…」
どうする?と尋ねた。
「えっ!」
『(現状)盲目の美少女魔導士』が、驚いたのか、はっと顔を上げた。
でも、もちろん、その目はうすく閉じられたままだった。
ふたりの付き添いも、唖然としている。
『(現状)盲目の美少女魔導士』は、うつむきながら、消えそうな声で言った。
「…お、お願いいたします」
…………
彼女は、『(元)盲目の美少女魔導士』となった。
艦長をはじめ、50名ほどの船員たちが、泣いて喜んでいた。
…………
…………
オレは、しばらく、感動の祝福シーンを眺めていた。
それが、一段落したころ、オレは、『(元)盲目の美少女魔導士』に尋ねた。
世の中には、万が一ということがあるものだ。
「…い線が見えないかい」
「…はい?」
聞き返された。真摯な瞳に、光が揺れた。
「…赤い線は、見えないかい?」
「オレの体とか、まわりのモノに、たくさんの赤い線が、はいっていたりしないかい」
オレは、彼女の両肩をつかんで、尋ねたくなる衝動をこらえた。
ココ、とっても、大事なところなので…
「い、いえ!そのようなものは!」
ややたじろぎながらも、懸命に答えている。
「…そ、そうか」
オレは、彼女から、そっと視線をはずした。
「…それなら、いいんだ」
…………
彼女の目は、けっこうふつうに治ったらしい。
どうやら、今日から殺人鬼になったりはしないようだった。