第124話 すれ違いってよくあるから
小さいほうの「船」ですが、ただ「船」と書いてもわかりにくいので、最初の呼び名だった「揚陸艇」に戻しました。
『知り合いのいる国の船』
ばあちゃんは、そう言った。
それなら、助けないわけには、いかない。
モニターには、逃げている船に向けて、後ろの三隻が大砲を打ちまくっている映像が映し出されている。
それにしても、
「なんで、こんなに当たらないんだ…」
いや、当たったら困るんだけど…
いくらなんでも、コレは、ひどい。
砲弾だって、タダじゃないんだろうに…
「…もったいない」
生来の貧乏性のためか、無駄に海中に沈められていく砲弾に同情していると、
「あ、コレあたるよ!」
セーラが嬉しそうな声をあげた。
ががーんっ!
ばりばりばりーんっ!
…と聞こえた気がした。
けっこう上空から撮ってるから、音は聞こえないけど…
「おおっ!」
当たるじゃないか、がんばったな砲弾くん!
…って、喜んでいる場合じゃない。
助ける前に、沈められたら、元も子もない。
「急いでくれ!」
緊迫感を装って言うと、
『かしこまりました』
どこかに、マイク&スピーカーでもあるのだろう。
艦橋で操縦しているメイドの返事が聞こえた。
『離水します』
そんな声がしたかと思うと、機体がやや傾き、窓の景色がみるみる変わっていく。
海面の少し上を、飛んでいくようだ。
『加速します』
軽いGを感じた瞬間だった。
窓に、いっしゅん、マストと帆が見えた気がした。
……………
『………ちっ』
舌打ちが聞こえた。声はかわいいが…
……………
『旋回します』
…通り過ぎたようだ。
「あらっ、きゅうに帆船の動きが鈍くなったわ」
モニターを凝視していたばあちゃんが、不思議そうに言う。
くっ…
オレは、いつぞやのドラゴンを思い出した。
ああ……、あのときは、翌日、ドラゴンと土下座して謝罪したっけ…
いまごろ、帆船の乗組員たちは、砲撃ぽい音と、空中の大きな水しぶきに、びびっているはずだ。
いわゆる、ソニック・ブームだ。
…………
…………
オレたちの『揚陸艇』は、『加速』と『旋回』を繰り返していた。
『ちっ!』
いらだちのこもった舌打ちが、聞こえてくる。
もう、何度目だろうか。
たぶん、
①『帆船の速度が遅すぎ』て
②『揚陸艇の速度が速すぎる』のだろう。
こうした『すれ違い』というのは、世の中には、とくに、男女の間には、よくあることだ。
まあ、操縦しているメイドは、すでに、オレのお嫁さんにノミネートされているが…
それにしても、
もう、目の前に帆船がいるのに、なぜ、加速を続けるのか。
やり遂げるまでは、何度でも挑戦するタイプなのだろうか。
「まあっ、とうとう、船が停まったわ」
さきに、帆船のほうが、しびれを切らしたらしい。
追跡劇が、中断されてしまった。結果オーライか。
「…さすがね」
賞賛してくれた、ばあちゃんの笑顔が、……痛い。
『あ、ありがとう…、ご、ございます…』
皮肉ではないとわかっているだけに、かえって動揺したのだろう。
正直な子だなと感心した。
いいお嫁さんになるに違いない。もちろんオレの嫁だが…
さて、どうしたものだろうか。
さぞかし、帆船のひとたちも、困惑しているだろう。
見たこともない機体が、
①まわりをびゅんびゅん、高速で飛び回って、
②どかーん、どかーんと大音響を発生させて、
③空中に水しぶきをまきちらしている
…のだから。
気の毒なことだ…。
オレは、モニターの映像を確認した。
逃げている帆船は、敵をうまく引き離すことができたようだ。
「武器は?」
メイドに、尋ねた。
「レーザー砲が数門あり、360度どこにでも撃てます」
ちなみに、
「主砲もありますが、このあたりの地形がかわってしまうかと…」
なるほど……、コレ、ホントに揚陸艇なのだろうか。
それじゃあ、
「このあたりから、こう撃って…」
オレは、モニターの上に、指で線を引いた。
『了解しました』
艦橋のメイドからの返答だ。
マイク&スピーカー&カメラがあるようだ。
それから、
「窓から肉眼で見たいから、『揚陸艇』はここに停めて」
追われている帆船と、追っている帆船の中間地点で、帆船からけっこう離れた場所を指さした。
指示している間に、『揚陸艇』は所定の位置に来ていた。
「効果範囲設定」
「可視化、赤」
逃げている船の周囲の空間が赤く染まる。
「じゃあ…、頼む」
『ファイヤ!』
やっぱり、レーザーでも、ファイヤなのか?
いっしゅん、光の線が高速で、海上を通過した。
…………
ずどどどどどどどーーーーーーーーーーーーーーん
すさまじい水しぶきが、上がる。
帆の高さすら超えてしまうような巨大な水しぶきだ。
帆船が木の葉のように揺れている。
ちょっと、やりすぎたろうか。転覆しないといいんだけど…
「空間魔法、転移」
…………
激しい水しぶきが、収まったころ、海上に逃げていた帆船の姿は、なかった。
転移させたんだから、当たり前だけど…
追跡していた帆船から見れば、俺たちが、木っ端みじんにしたように見えたろう。
オレたちは、いまだに、波に翻弄される三隻の帆船をしり目に、帰投した。