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お嫁さん&魔物さんといっしょに、ムテキな異世界生活  作者: 法蓮奏
サバラン共和国(カルシウム大陸)編
122/631

第122話 『決闘』の日


 晴れ渡る空の下、観客のいない、広大な闘技場の真ん中で、ひとり(と一匹)、オレは、体育座りをして、主人公が、『決闘』で、悪役を皆殺しにするラノベを読んでいた。

 

 

 「ほおっ!これはなかなかのものだ…」

 賢帝の声が聞こえる。


 「父上、いくのじゃっ!」

 シャルが相手をしてるようだ。


 「シャル、がんばるのよ」

 王妃は、娘の味方のようだ。


 「まあ、まあ、まあっ…、これなら私でも大丈夫ね」

 大きな胸が揺れる音がきこえる(気がする)。

 幻聴だろうか…


 「すごく、楽しいです!」

 セシリアも、元気いっぱいだ。


 「クレアちゃん、勝負だよ!」

 「受けて立つわっ!」

 セーラとクレアが、戦っているらしい。


 「あ、ジュンしゃま…」

 「まだ、次のページはめくらないでほしいのニャ」

 ああ、ライム…すまん。


 …………


 …………

 

 どうして…


 オレも、『決闘』に来たのに、ラノベと、こんなに違うのだろう…



 「なかなか、いいわね」

 「ジュンくん、このラケットと、羽根って譲ってくれるのかしら…」

 もちろん、代金は払うわよ。


 …………


 生まれて初めての『決闘』に臨んでいる、オレの後ろでは、みんなが、『バトミントン大会』で盛り上がっていた。



 「陛下、もうそろそろ、よろしいかと…」

 騎士団長のロベールさんが、うやうやしく、賢帝に告げていた。


 「…お、おお、そ、そうか…」

 娘との対戦を中断されて、賢帝は残念そうだった。


 「ロベールたちは、ぜんいん、『決闘』をすっぽかしたってことでいいのね」

 王妃さまが、立会人たちに、確認していた。


 「ええ、もうかなりの時間がたちます」

 それでよろしいかと…

 テレーズさんを始めとして、数名の立会人が、了承している。


 「ジュンくん、もういいわよ」

 「あ、はい…」

 お后様の終了宣言で、オレは、読んでいたラノベを閉じた。


 「ジ、ジュンしゃま、その本を貸してほしいのですニャ…」

 ライムは、気に入ったようだ。

 精霊くらいになると、子猫でも、本をめくれるのだろうか。


 …………


 こうして、オレの『決闘』は、幕を閉じた。


 

 

 ロベールたちはもちろん、セザールも含めて、ぜんいん学院には来ていない。

 ほとぼりが冷めたら、つらっとして、また来るのだろうか。


 『罪を憎んで人を憎まず』


 そうだな…


 もし、登校してきたのを見かけたら、今度は、オレが『決闘』を申し込んでやろう。


 ロベールも、セザールも、憎んではいない。雑魚だからな。

 でも、許しはしない。

 もし、許すとしても、それは、オレではないだろうから…




 ****************




 「おじいちゃんも、きっと喜んでくれているわね」

 はるか彼方の水平線を眺めながら、ばあちゃんがつぶやいた。

 膝には、シャルを、いとおしげに抱きかかえている。


 「これも、シャルのお陰ね…」


 「喜んでもらって、なによりなのじゃ」

 シャルもうれしそうだった。


 それにしても、


 「どうして…」

 「ジュンくんのおうちのバルコニーから、海が見えるのかしらね」


 …ばあちゃん、


 やっぱり、イメージと違ってたろうか…


 …………


 …………

 

 オレたちは、いま、大海原を、ゆっくりと進む『船』の上にいた。


 いや、


 より正確に言うと、海上をさっそうと進む『宇宙船』に乗っていた。

 この『タマゴシップ』には、オレの家が設置されている。


 居住スペースを追加するよりも、オレの家を積み込んだほうが早いと思ったのだ。


 そもそも、超巨大なタマゴだ。


 上部のほんの一部をくりぬいただけで、我が家がすっぽり収まってしまった。

 もちろん、外壁は、内側に格納されている。ほんとにくり抜いたわけではない。

 念のため、雨が入りそうな時とか、海が荒れている時は、透明な外壁で閉じる仕掛けになっている。


 家を収めても、まだ、両側に、大きな空間があいている。

 たしかに、形がタマゴなので、両端は狭い。

 しかし、それでも、十分なスペースがあった。


 そこには、まもなく、プールが設置される予定だ。

 豪華客船には、プールはつきものらしいからな。まあ、超豪華な、タマゴだけど…


 …さて、

 

 オレは、席をはずすことにした。


 バルコニーには、ソファとテーブルを置いた。そのほうが、ゆっくり座って、海を眺めていられるからだ。


 いま、ソファには、賢帝一家が座っていた。


 賢帝も、ようやく時間を作ってきたのだ。

 ここは、家族水入らずがいいだろう。


 「ジュン殿、世話になる…」

 海をじっと見つめている母親の隣で、賢帝が、しずかに、頭を下げた。


 「ジュンくん、ありがとう…」

 お后様からも、礼を言われた。

 

 シャルは、ばあちゃんの膝で、にこにこしていた。


 「ごゆっくり…」


 賢帝一家に、軽くお辞儀をして、オレたちは、家の中に引っ込んだ。




 『巨大タマゴ(シップ)』は、島ひとつ見当たらない海原を、『西』へと進んでいた。

 ばあちゃんからのリクエストだ。

 

 『西』に進んで、何か当てがあるのだろうか。


 ばあちゃんは、何も言わなかった。

 だから、オレも、尋ねていない。


 きっと、言える時が来たら、教えてくれるに違いない。


 それに、オレたちは、ぶっちゃけ、『船旅』を楽しめればいいのだ。

 どっちへ船を進めても、たいして変わりはない。


 だから、いまは、ばあちゃんの意思を優先した。




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