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お嫁さん&魔物さんといっしょに、ムテキな異世界生活  作者: 法蓮奏
帝国魔法学院(スフレ帝国)編
120/631

第120話 クンクン



 それにしても『船』ときたか…


 「わたしたちって、海とは縁のない生活を送ってるのよ」

 そういえば、お妃さまも、砂漠の国出身だった。


 「魚は食べないんですか?」

 日本人としては、尋ねたくなるところだ。



 いまさら、こんなことをきくのは、オレは、この異世界のものを食べたことが、ほとんどないからだ。


 そもそも、この世界にきて、二十日とっていないこともある。

 しかし、一番の理由は、例のクローゼットだ。日本の食べ物が、膨大に収められている以上、この世界のものを食べる必然性がないのだ。


 まあ、すべて、アイツのお陰なのだが、衣食住に関しては、日本にいたときと、ほとんど変わらない。

 だから、正直言って、この世界のものを食べたら、お腹壊すんじゃないかと心配している。



 「食べるわよ」

 こんどは、魔導士長のテレーゼさんが答えてくれた。


 ただ、


 「わざわざ、船を用意して、船乗りを育成して、港を借りて…となると、買ったほうが安いのじゃよ」

 こちらも、農産物などを売ったりしておるしのう…

 学院長も、加わった。


 それに、


 たとえ、情勢が不安定になって、魚が入ってこなくなっても、

 「別に、命にかかわるわけでもない」

 とくに、困ることもないのじゃからな。



 いっしゅん、『塩は…?』と思ったが、とくに困った話も聞いたことがない。

 たぶん、岩塩でも採れるところがあるのだろう。異世界でも地殻変動くらいはあるだろうし…。さすがに、畑で採れるとは思えないが、異世界なのだ。どんな不思議があっても、おかしくはない。



 「そんなわけで、帝国は、船をもっていないのよ」

 お妃さまが、はなしをまとめた。


 「ララも、海、行ってみたい」

 クール小娘が、目を輝かせている。

 内陸だけに、海へのあこがれでもあるのだろうか。


 「…そうね」

 たしかに、船に乗って海を渡るって、一種のあこがれかもしれないわね…

 テレーズさんまで、そうなのか…



 交通機関の発達していない世界なのだ。

 内陸に暮らしていれば、まだ見ぬ海に憧れるのも、とうぜんなのかもしれない。ぶっちゃけ、ドラゴンでひとっ飛びなのだが、この雰囲気では、それを口に出すべきではない気がした。

 それに、『船』ならではの楽しさもあるのだ。


 

 「わらわも、船に乗ってみたいのじゃ…」

 ばあちゃんのため…、ばかりでもないようだ。


 …………


 お妃さまたちは、いろいろと忙しいらしく、帝城へと戻っていった。


 ララたちは、ばあちゃんが稽古をつけてくれるらしい。やや青ざめた顔で、やはり、帝城の演習場に向かった。



*************



 オレたちは、いま、ダンジョンに来ていた。

 オレたちというのは、『未来のお嫁さん』五人だ。


 『お嫁さん』と言っても、ひとりひとりに、確認をとったわけじゃないから、オレがそう思ってるだけかもしれない。そうだったら、ちょっと恥ずかしい…


 「ひさしぶりですね…」

 聖女セシリアが、つぶやいた。


 「まあ、まあ…、わたしは、ここ、初めてよ。ずいぶん、広いのね…」

 元聖女のイレーヌは、めずらしそうに、あたりを見回している。


 「あたしは、転移で、ちょくちょく立ち寄ってるから、もう見慣れちゃった…かな」

 クレアは、王都の自宅と、ミルフィーユを、けっこう行ったり来たりしている。

 だから、その度に、このダンジョンを経由しているのだ。


 「わらわも、毎日、つかってるのじゃ」

 オレの家にお泊りしても、かならず一度は、城へ帰っているからだろう。ちなみに、我が家にも、シャル専用の部屋がある。ただ、寝るときは、ほかの四人のところに、潜り込んでいるらしい。




 例の、ラスボス部屋、つまりドラゴン部屋には、階下に降りる階段があった。


 階段と言っても、ドラゴンが歩ける階段だ。人間には、床が段々になっているようなものだった。


 そして、その先には、ドラゴンが、余裕で通れる回廊が続いている。

 

 漫然と話をしているうちに、オレたちは、その回廊の突き当りに、行きついた。


 「ジュンくん、ジュンくん、ちょっと、どきどきだね!」

 セーラは、なにやら、嬉しそうだ。


 「ようやく、中に入れてもらえますニャ」

 ライムも、楽しみにしていたのだろうか。


 そうなのだ。


 ここから先は、オレしか、入ったことがなのだ。


 オレも、あの、断り切れずに、ダンジョンマスターになってしまった夜以来だった。

 『決闘』関連で、ばたばたしてたから、しかたがない。


 

 「ジ、ジュンくんっ!」

 とつぜん、聖女セシリアが、抱き着いてきた。


 「ぎ、ぎゅってしてくださいっ!」

 どうしたのだろう。いつも、大人しい子なのに…、

 …っていうか、ちょっと影が薄かったかもしれないけど。

 

 オレは、リクエストに応えて、ぎゅーーーと抱きしめた。

 初めて、この異世界に来た時も、こうして抱き着かれて、そして、ちょっと、シンクロして、大惨事になったっけ…。

 もちろん、今は、大丈夫だ。


 「ま、まあ…、私も!」

 そういいながら、イレーヌさんが手を挙げた。

 イレーヌさんまで、どうしたのだろう。

 …ていうか、こういうときって、元気よく手を挙げるものなのだろうか。


 イレーヌさんは、なかなか心の準備が必要だ。

 なにしろ、ぎゅーーっとすると、むにゅーーっとするからだ。ここは、深呼吸が必要だろう。


 オレは、深く息を吸ってから、イレーヌさんを抱きしめた。

 異世界に来て、二日目に、イレーヌさんに抱き着かれて、窒息して、昇天して、大惨事だった。

 それほど、時間は、たっていないが、懐かしい気がした。


 「あ、あたしも…」

 クレアまで、手を挙げた。

 もしかして、抱き合う時って、挙手する風習が、この異世界にはあるのだろうか。

 

 いままでの、ふたりはちがって、『クレアぎゅーっ』は、初体験だ。

 弾性は、セシリアとイレーヌの中間値が予想された。

 

 ああ、たしかに、これは、中間値!

 年頃も、同じなので、また、ひとあじ違って新鮮!



 それにしても、三人とも、いったいどうしたというのか…



 「なるほど、なるほど、……クンクン…クン」

 とつぜん、セーラが、『クン〇ン探偵』みたいになった。


 「ジュンくん、ジュンくん…」

 「その三人の娘さんは、『無意識の不安』に襲われたのだよ…」

 セーラーが、したり顔で言う。


 『無意識の不安』って、また、コイツ何を言い出したのか…


 「…なぜなら!」

 

 セーラは、これから開ける扉の前に、すっくと立った。

 そして、ふたたび、クンクンするなり、こう言い放った。


 この扉の向こうからっ!

 「ジュンくんの『新しいオンナ』の臭いがするからだよ!」


 なんですとーーーーーーーーーっ


 オレは、背中に、冷たい汗がつたうのを感じた。





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