第117話 船が欲しいのじゃ
「「「「「かわいいーーーーっ!」」」」」
女性陣には、人気のようだ。
オレには、少し物足りない気もした。
しかし、いろんなものがごちゃごちゃついてるより、すっきりしていていいと思った。
なんとなく、どんな攻撃でも、はじき返してしまうような頼もしさを感じた。
そんなことを思いながら、巨大タマゴを見上げてていた。もちろん、ホンモノのタマゴではない。
そんな形をした船、スペースシップだ。
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また、時間はさかのぼる。
「船がほしいのじゃ…」
昼休みの学院を、のんびり歩いていたときだった。
とつぜん、シャルが、おねだりを始めた。
この、自制心の強い子にしては、めずらしいことだ。
それにしても、
『船がほしい…』とは…、お風呂で遊びたいのだろうか…
オレは、知る人ぞ知る、アヒルの容姿をしたファンシーなグッズを思い浮かべた。
「わたしからも頼む」
どこからともなく、女の子が湧いて出てきた。
銀髪のかわいい子で、シャルよりすこし大きい。
こいつも、『例のアヒルシップ』が欲しいのか…?
「おともだち…?」
シャルに尋ねてみた。
「………」
シャルは、困った顔で、首をふっている。
ちがうようだ。
「このままでは、死ぬ…」
銀髪美少女が、ぶっそうなことを言い出した。
顔は、真剣だ。
…ふむ、ここは、率直に尋ねよう。
「どちらさまで…?」
「がーん!」
銀髪美少女が、叫んだ。
うろたえているようだ。
『芸人系』の子なのだろうか。美少女なのに…
「ハーレム男に、存在を否定された…」
ひどいことを言い出した。
顔は、いいのに、口は、わるいらしい。
…あっ
このアンビバレンツな形容で、思い出した。
「ああ…、きみは…」
「ふんっ、やっと…か!」
ドヤ顔で、薄い胸を張りだした。
「オレの魔法で、漏らした子!」
「くっ…!ララのこと、『恥部』で、記憶してた!」
「やっぱり、ララ、操がピンチっ!」
怯えたように、後ずさりしていた。
「ううっ…」
横で、シャルが困っていた。
「とても、話についていけないのじゃ…」
「まったく、そのとおりだわ…」
また、別人が登場したようだ。
赤毛の美人さん、テレーズ宮廷魔導士長だ。
例の黒いローブを着て、銀髪の隣に並んだ。
そうか…、
今日の銀髪は、学院の制服を着てるから、わからなかったのだ。
見れば、すらりと伸びた脚に、ミニがよく似合っていた。
小柄だが、頭も小さいから、アイドルレベルに整って見える。
「ひっ…!」
オレの視線で、さらに、後ずさりした。
あいかわらず、異常に鋭いやつだ。
「ララも、いちいち反応しないの!」
テレーズさんが、あきれていた。
ふっ、上司に叱られたようだ。
「ジュンしゃまも、ほどほどにしたほうがいいのニャ」
ライムに言われてしまった。
ライムも、セーラも、もうリュックに隠すのはやめていた。
軍事演習で、もうみんなに知られているのだ。
それも、『五人まとめてお嫁さん』報告もした。
いまさら、隠しても意味はない。
セーラは、リュックにいたころから、学院の制服を着ていた。制服だけでも、いっしょのものを着ていたかったのだろう。思えば、かわいそうなことをした。
セーラは、この世界の人間には、何故か、ひと目で女神とわかるらしい。
でも、オレには、ふつうのかわいい女子学生しか見えなかった。
「ジュンくん、ジュンくん…」
「そんなに熱いまなざしを向けられると、ボク、恥ずかしいよ…」
制服姿で、くねくねしながら、言い出した。
これが…、噂の…、
「『コスチューム・プレイ』なんだね…」
………
………
「セーラちゃん、学校のなかで、それは『禁句』なのニャ…」
ライムが困っていた。
ライムには、意味がわかってるのだろうか。
いったい、どこまで、日本のサブカルに染まってしまったのだろう。
それにしても、
セーラを、リュックから出したのは、間違いだったようだ。