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お嫁さん&魔物さんといっしょに、ムテキな異世界生活  作者: 法蓮奏
帝国魔法学院(スフレ帝国)編
115/631

第115話 ごめんね



 セーラとて、女神のひと柱だ。

 こういう時こそ、頼りになるはず…


 オレは、セーラを見つめて尋ねた。

 「セーラ、このばあちゃん、もう危ないんだ」

 「何とかしてあげたいんだ…」


 セーラは、ばあちゃんをちらりと見た。

 それから、すっと、目をふせると、つらそうに、首を横にふった。

 「ジュンくん、ごめんね…」


 「そ、そうなのか…」

 

 異世界に来てから、オレは、ある意味で、『万能』に近かった。

 だから、今回も、何とかなると思い込んでいた。


 でも、それは、間違いだった。


 オレにだって、とうぜん、できないことがあるのだ。

 この世には、叶わない願いがあるように…


 …くっ


 オレは、おのれの無力さに、あらためて…


 「…ジュンしゃま、ジュンしゃま…」

 ライムが、申し訳なさそうに、オレを呼んだ。

 久しぶりに、頭をトントンしている。


 「…うん?」


 なにやら、困った顔で、オレをのぞき込んでいる。

 

 「ああ…、ライム、わかってるよ」

 オレは、微笑んだ。気を遣っているのだろう。


 すると、ライムが、いっそう困りだした。

 「…いえ、あの…そのですニャ…」


 「セーラーちゃんは、たぶん…」

 「いっぺん、ああいうシーンを演じてみたかっただけですニャ」


 「はい…?」


 ちなみに、その、おばあちゃんは、

 「魔法の使いすぎで、体も精神も、ボロボロになってますニャ」。

 よくもここまで、無理をしたもんですニャ…

 

 でも、それだけのことですニャ…


 「ジュンしゃまの魔力なら、中級の回復でも、あっさり治りますニャ」


 「な、なんだとーーーーっ!」

 「セ、セーラっ!」

 すでに、いなくなっていた。リュックに隠れたのだろう…

 

 くっ…、


 どうして、アイツは…、

 いつもいつもいつもいつも、ネタ優先なのか…

 

 「でも、急いだほうが、いいですニャ」

 ライムの口調がかわった。


 「ほんとうに、精神が、消えかかってますのニャ」

 「お迎えがきてしまいますのニャ…」


 「わかった!」


 ばあちゃんは、賢帝たちに囲まれていた。

 すでに、息をするだけでも、苦しそうだった。

  

 「おばあちゃん…、ちょっと、手をかして…」

 説明している暇はない。

 オレは、ばあちゃんの手を握った。

 細い、冷たい手だった。


 さすがの賢帝も、何も言わなかった。

 いちおう、オレを信頼しているのだろう。


 「治癒魔法…」

 「回復、発動」


 オレの手に、強い光が宿った。

 その光は、握っていた手を通して、ばあちゃんの心臓のあたりに吸収されていくように見える。


 「ジュン殿……よろしく頼む…」

 賢帝が深々と頭を下げた。

 


 次々と光が宿り、

 次々と光が吸収されてゆく…


 「なかなか、魔力量の大きな方ですニャ…」

 ライムも感心している。

 

 「ジュンくん、あとすこしだね…」

 セーラも、いつもまにか、オレの隣にいた。

 相変わらず、オレにぴたっとくっついている。


 やがて、光は、オレの手に宿るばかりで、ばあちゃんには吸収されなくなった。



 「あら…?」


 ついさきほどまで、ぐったりして、お迎えを待っていたばあちゃんが、ぱちりと目を開いた。


 「なんだか、体が軽いわね…」

 「それに…、すさまじい魔力ね…」


 ばあちゃんは、オレにウインクしながら、


 「いまなら、一個師団くらい、楽に吹き飛ばせそうよ」


 そういって、笑った。


 「ありがとう。ジュンくん…」



 賢帝が、震える声で訪ねた。

 「は、母上、ほんとうに、もう…」


 「ええ、もう、お迎えはしばらく来ないわね」

 「また、おじいちゃんには、しばらく会えないわ」


 そういって、シャルを抱きしめた。


 「シャルのお陰ね、ジュンくんに助けてもらえたのは…」

 

 

 「き、奇跡だ…」

 「奇跡が起きたぞ」

 「フレンシーヌさまが…」

 「お元気になられたわ」

 「あの少年の力らしいわ…」

 

 大観衆が、歓喜していた。涙を流して喜んでいるひとも、大勢いた。

 よほど慕われているらしい。


 すると、


 どどどどどどどどど………


 また、老人会の連中が来た。

 こんどは、すさまじい速度で、駆けてくる。

 白いローブのじじいが、ひとり増えているようだ。


 「「「「「フランシーヌ!」」」」」

 

 息ひとつ切らさずに、ここまで走ってきていた。

 ホントにニンゲンのじじいか?

 改造されてんじゃないのだろうか。


 「「「「「や、病が治ったのか?」」」」」」

 どいつも声がでかい。

  

 「ええ…、ありがとう」

 「シャルと、ジュンくんのお陰よ…」

 そういって、オレに目を向けた。


 「ああ、ジュンとやら、ほんとうにありが……」

 新たに加わった白ローブじじいが、オレにお礼を言おうとして、


 「なんじゃとぉぉぉぉぉぉーーーーー!」

 わめき散らした。ホントにうるさい。

 

 白ローブじじいは、頭の上のライムと、横にくっついているセーラを、交互に見ている。


 「せ、精霊さまに、め、女神さま…」

 じじいは、あわててひざまずいた。


 「な、なんじゃと!精霊さまに、女神さまじゃと!」

 ほかのじじいも、次々に跪いている。



 なにしろ、魔道具に匹敵する音量をもつじじいだ。

 たちまち、演習場内の観衆にも、聞こえてしまった。


 「「「「「「精霊さまと、女神さまだってぇ!」」」」」


 観客席で、こぞって、跪きはじめた。

 ドミノ倒しのようだ。

 

 まあ、こうなるのか…


 白ローブじじいが、厳かな口調で尋ねた。

 「精霊さまと、女神さまが同行しておられるということは…」

 「この小僧、いな、ジュン殿は…」

 「神が天界から遣わされた、使徒さ…」


 …と、言いかけたところで、



 セーラが、口を開いた。


 「え、ナニナニ…」

 「ジュンくんのこと…?」


 なにやら、恥ずかしそうに、体をくねくねしている。


 オレは、いやな予感がした。

 「ちょっと待て…」

 

 しかし、セーラの言葉のほうが、速かった。


 「ジュンくんはね。ボクの未来のだ・ん・な・さ・ま、だよ!」

 そういうなり、ぎゅーーーっとオレに抱き着いた。

 しばらく、リュックのお部屋で我慢していたせいか、いつにもまして熱烈な抱擁だった。


 「「「「「「「なんですとーーーっ!」」」」」」」


 この日いちばんの、大音声が、演習場いっぱいにこだました。




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