第112話 軍事演習(4)
きょうは、なかなかあわただしい一日で、ようやく、いま、書き終わりました。
ちょっと、疲れました(笑)
ごおおおおおおおおおおおおお………っ
オレの頭上に、巨大な炎の塊が迫っていた。
すでに、視界は、この炎で埋め尽くされている。
観客席からは、たくさんの悲鳴が聞こえてきた。
「きゃー、あぶないっ!」
「何をしてるのっ!」
「さっさと逃げろー!」
「誰か、助けてあげてー!」
いちおう、オレの心配をしてくれているらしい。
こういうのも、悪くないものだ。
オレは、迫りくる炎の塊をぼんやり見ながら、
地面に膝をついた。
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また、いつものように、時間は、さかのぼる。
賢帝と、オレの模擬戦は、結局、引き分けということになった。
将軍じいさんが、オレたちの間に入って、宣言してしまったのだ。続けるわけにはいかない。
賢帝は、なにやら悔しそうにも見えたが、観客のみなさんは、大満足だった。
とくに、こどもたちには、龍と、龍もどきの衝突が、たいそう刺激的だったらしい。「すげー、かっこいい」と、いつまでも、興奮していた。
……………………
「まあ、こんなもんじゃろう…」
ご意見番の老人会も、そんなことを言いながら、観客席に引き上げていった。なかなか、うるさい評論家連中だった。
しかし、一部には、きゅうに、お通夜のようになった連中もいた。
スターチ侯爵一派だ。
貴族連中は、学院生も含めて、すっかり無口になっていた。
傭兵や冒険者連中にいたっては、
「こんなの聞いてねえぞ」だの、
「ちょっと、魔力の強いだけの小僧じゃなかったのか」だのと、
いまさら、文句を言っていた。
ずいぶん軽い気持ちで、オレを殺しに来たものだ。
スフレ帝国は、『魔法先進国』らしい。
なかでも有名なのが、帝都パルミアの『帝国魔法学院』、つまり、オレたちが、通い始めた学校だ。この世界では、知らないものはいないほどの『名門』だという。
たしかに、異世界に来て、オレが知り合ったひとたちも、大半が、学院の卒業生だった。
そういうお国柄のせいか、『軍事演習』でも、『魔法師団の大規模魔法演習』が一番人気らしい。
オレには、陰の薄い騎士や兵士たちが、ちょっと、かわいそうにも見えた。しかし、その騎士や兵士たちですら、『魔法の演習』を楽しみにしていた。
その、お楽しみの『魔法師団の大規模魔法演習』の時間となった。
「今年の『魔法師団の大規模魔法演習』は、ひとあじ、ちがうのじゃ」
なぜか、司会が、シャルになっていた。
「シャルちゃん、かわいいーーー」
「がんばってー、シャルちゃーーん」
いわゆる「黄色い声援」が飛び交っていた。
もちろん、女の子のきゃあきゃあ声である。
「今年は、模擬戦を行うのじゃ」
「大規模魔法の模擬戦じゃ」
「「「「「「「えーっ!」」」」」」」
さすがに驚いている。
それはそうだろう。
大規模魔法を、撃ちあって、無事でいられるはずがない。
大量殺人大会になってしまう。
「それでは、宮廷魔導士対ジュン殿の、模擬戦を始めるのじゃ」
「「「「「「「「……ホントにやるの?」」」」」」」」
観客のみなさんが、狼狽する中、模擬戦は開始された。
あらかじめ描かれた魔法陣のまわりを、百名を超える宮廷魔導士が、二重三重に取り囲んでいる。
詠唱の合唱が、演習場に、こだましていた。
オレは、演習場の中央で、ひとりぽつんと立っていた。
もちろん、魔導士たちからは、かなり離れている。
大規模魔法は、遠距離魔法でもある。
離れたところから、敵軍に向けて、どかーんと一発撃ちこむためのものなのだろう。
「おいおい、ほんとにやる気だぜ…」
「大丈夫なの、あの少年…」
「あの子、シャルちゃんの大切なひとなんでしょ…」
「もう、詠唱が始まってしまったぞ…」
「ロリコン死ね!」
また、みんな、心配してくれているようだ。
もちろん、最後のは、聞こえなかったことにした。
ごおおおおおおおおおおおおお…………
魔法陣の上空に、とてつもない大きさの炎の塊が出現している。大規模魔法が、完成したようだ。
ただ、魔導士たちは、額にびっしりと汗をかいていた。今も、魔力を込め続けているのだろう。
「さあ、撃つわよ!」
赤毛の魔導士長テレーズさんの声が、響いた。
詠唱が、変わった。
射撃用の詠唱なのだろう。
ごおおおおおおおおおおおおお…………
巨大炎が、ぐらりと傾いた。
上空から、オレに向けて、斜線上に打ち下ろすらしい。
ごおおおおおおおおおおおおお…………
ゆっくりと落ち始めた炎の塊に、いきなり加速がかかった。
オレの視界を、かんぜんに塞ぎながら、落下してくる。すさまじい熱量に、目の前の薄い空気が、ゆがんでいた。
オレは、迫りくる炎の塊をぼんやり見ながら、
地面に膝をついた。